魔都の死神   作:アレクサンドル三世

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第21話 魔防隊管轄官

魔都の重苦しい空気を忘れさせるような、温かな匂いが七番組寮のダイニングを満たしていた。

次の日の夜。夕飯のテーブルには、優希が腕によりをかけて作った色鮮やかな料理が並んでいる。

 

「ん〜っ! 美味しいです!」

 

最年少の大川村寧は、トマトソースのパスタを器用にフォークに巻きつけながら、花が咲いたような笑顔を見せた。彼女の視線の先には、五番組の医療施設から退院し、無事に帰還を果たした東日万凛と駿河朱々の姿があった。

 

「日万凛さんも朱々さんも、元気になって本当に良かったです!」

 

「心配かけてごめんね、寧ちゃん。でも、五番組の治癒能力ってほんと凄いわ。前より体の調子がいいくらいだもん」

 

朱々が、自身の腕をぐるぐると回しながら明るく笑う。その隣でパスタを口に運んでいた日万凛は、表情を硬くしてフォークを置いた。

 

「怪我が治ったのはいいけど……あの八雷神って敵には、絶対にリベンジしてやるわ。悔しいけど……今の自分たちじゃ、足止めすらまともにできなかった」

 

日万凛の言葉に、テーブルの空気が少しだけ引き締まる。魔防隊の誇る精鋭である彼女たちにとって、手も足も出ずに敗北し、仲間を攫われた事実は、耐え難い屈辱だった。

 

「そうだな」

 

静かな声が響いた。上座で食事を進めていた七番組組長・羽前京香だ。

 

「あの敵は、我々の常識を遥かに超えている。だが……同時に、我々にはまだ見ぬ力の可能性があることも分かった。特にあの男……黒嶺真護は強かった」

 

その言葉に、日万凛は目を丸くして京香を見た。

京香が他者を、ましてや魔防隊の理念から外れた『男の人型醜鬼』をこれほど素直に褒めるなど、滅多にあることではない。

 

「強いのは、何もあの規格外の能力だけではない」

 

京香は、自身のグラスに視線を落としながら言葉を続けた。

 

「彼には、確固たる意志があった。何があろうと仲間を守り抜くという、鋼のような意志がな。アレがある限り、彼の刃は絶対に鈍らない」

 

八雷神の圧倒的な暴力の前に立たされてなお、一歩も退かずに黒い刃を向けた真護の姿を、京香は高く評価していた。男だから、醜鬼だからという枠組みを外し、一人の戦士として彼を認めたのだ。

そのやり取りを聞いていた朱々が、身を乗り出して優希に尋ねた。

 

「ねえねえ、ユッキー。あのイケメンなお兄さん、ユッキーの幼馴染って言ってたけど、それって本当なの?」

 

「うん。本当だよ」

 

優希は、キッチンカウンター越しに少し照れくさそうに笑った。

 

「真護は孤児院の出身でさ。俺や姉ちゃんは普通の家だったけど、同じ街にあって、保育園の頃からずっと一緒だったんだ。昔からあんな感じで……俺がいじめられてる時なんか、真っ先に飛んできて助けてくれてたんだよ。姉ちゃんも一緒に暴れてたけどね」

 

優希の脳裏に、土にまみれながらも自分を庇って立ちはだかってくれた、幼き日の真護の背中が浮かぶ。口は悪いが、誰よりも優しくて、面倒見のいい男だった。

 

「へえ……。確かに、話してみて悪い人な気はしなかったんだよねー。ちょっと口は悪いけど、根は優しそうっていうか」

 

「朱々!」

 

日万凛が、窘めるように朱々の名前を呼ぶ。

 

「いくら優希の知り合いでも、相手は人型醜鬼よ。魔防隊の立場として、簡単に気を許していい相手じゃないわ」

 

「えー、でもひまりんだって、本当はそう思ってるでしょ? あの人、アタシたちにとどめ刺そうと思えばいつでも刺せたのに、しなかったじゃん」

 

朱々の図星を突くような言葉に、日万凛は「うっ」と言葉を詰まらせ、視線を逸らした。

二人のやり取りを不思議そうに見ていた寧が、パスタを飲み込んで元気に手を挙げる。

 

「私も、その真護さんって人に会ってみたいです!」

 

「こら寧、あんたまで……」

日万凛がため息をついたその時、京香がスッと席を立った。

 

「ご馳走様だ。皆はゆっくり食べていいぞ」

 

「あ、お粗末様でした。……京香さん、何かあったんですか?」

 

優希が片付けの手を止めると、京香は真剣な眼差しで隊員たちを見渡した。

 

「全組長が集結する『組長会議』が、3日後に決まった。今回の八雷神の件や、その他諸々の報告で、準備が忙しくなる。……美味かったぞ、優希。次も楽しみにしている」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

優希が元気よく答えると、京香は小さく頷き、自室へと戻っていった。

組長会議。魔防隊の今後を左右する重要な会議が迫っている。その響きに、日万凛は自身の制服の裾をギュッと握りしめ、優希をビシッと指差した。

 

「優希。家事が終わったら、自分と特訓ね。寮の結界の外で待ってるわ」

 

「分かった。すぐ行くよ」

 

優希が笑顔で即答すると、朱々がニヤニヤしながら日万凛を肘で突いた。

 

「燃えてるねー、ひまりん」

 

「当然でしょ。八雷神みたいな化け物がウロウロしてるのよ。休んでる暇なんかないわ」

 

日万凛がそそくさとダイニングを出ていくのを見送り、優希は朱々の方を振り返った。

 

「朱々ちゃんは、何かやっとく家事とかある? 洗濯物とか、部屋の掃除とか」

 

「んーん、今は大丈夫だよー。ユッキーのパスタでお腹いっぱいだし!」

 

「そっか。何かあったら遠慮なく言ってね」

 

優希が食器を片付け始める背中を眺めながら、朱々はニコニコとした笑顔の裏で、凄まじい速度で脳内会議を繰り広げていた。

 

(フッフッフ……この『今は何もないよ』って態度は、アタシの策なのよね!)

 

朱々は、療養中のベッドの上でスマートフォンを駆使し、あらゆる恋愛サイトや心理学のまとめ記事を読み漁っていたのだ。

 

(アタシがネットで得た知識によれば、『押してダメなら引いてみろ』! ガツガツしすぎず、時には余裕のある女を演出して相手の気を引く! まさに、兵法は恋に応用できるってやつね!)

 

朱々は、頭の中で優希の『恋愛好感度ランキング』を勝手に作成し、分析していた。

現在、1位は間違いなく六番組組長の出雲天花。彼女の押しは強烈で、すでに外堀を埋められつつある。そして2位が、自分(駿河朱々)だと朱々は信じて疑わなかった。3位が真面目すぎる日万凛、4位が主従関係の壁がある京香だ。

 

(3日後に組長会議ってことは、京香組長は準備や本番で寮を留守にすることが増えるはず。……これは最大のチャンス! 組長が不在の間に、アタシの練り上げた兵法で一気に優希を陥落させてやるんだから!)

 

朱々は、一人でフンスと鼻息を荒くし、恋のゲリラ戦の準備を密かに決意するのだった。

魔都の冷たい風が吹き荒れる、七番組寮の結界の外。

優希が駆けつけると、そこにはすでに部屋着から魔防隊の制服に着替えた日万凛が、腕を組んで待っていた。

 

「遅いわよ、優希」

 

「ごめんごめん、洗い物が少し多くてさ。……今日は、『無窮の鎖』を鍛えるのか?」

 

優希の問いに、日万凛は真剣な表情で頷いた。

 

「もちろん、自分の『青雲の志』も鍛えるけどね。でも……あの八雷神みたいな規格外と戦うなら、これからは組長とアンタだけでなく、自分たち隊員との『二人乗り』が増えるかもしれない」

 

日万凛は、右手をギュッと握りしめる。

 

「自分が『無窮の鎖』を使いこなせば、七番組はさらに強くなれる。……無窮の鎖は、六番組との魔都交流戦でも実績があるしね」

 

だが、日万凛の言葉尻は、どこか力がなく、彼女は少しだけ俯いた。

魔都の淀んだ空気が、彼女の金糸の髪を揺らす。

「……それに」

 

日万凛の口から、ポツリと本音がこぼれ落ちた。

 

「アンタの幼馴染……黒嶺真護に思い知らされたのよ。自分はまだまだだって」

 

「日万凛……」

 

「アイツが現れてから、アタシ……何処かで油断してたんだと思う」

 

日万凛は、自身の震える両手をじっと見つめた。

あの時、洞窟の奥で真護と対峙した瞬間。

時間を戻す八千穂の能力すら置き去りにする、圧倒的な速度と絶望的な圧。喉元に突きつけられた漆黒の刃の冷たさを、日万凛は今でも忘れることができなかった。

 

「いくら人型醜鬼だからって、相手は『男』だから。この魔都じゃ、男は力を持たない非力な存在だって……心のどこかで、無意識に舐めてかかってた。でも、違った。あの男の力は、本物だった」

 

日万凛が顔を上げ、優希を真っ直ぐに見据える。その瞳には、恐怖を乗り越えようとする強い意志が宿っていた。

 

「彼は、その気になれば、自分たち四人を一瞬で殺せてた。……あの時生き残れたのは、ただ彼が刃を引いてくれたからに過ぎない」

 

実力不足。

魔防隊の副組長として、名家・東家の娘として、これほど情けないことはない。

 

「それにね……」

 

日万凛は、さらに苦しげに顔を歪めた。

 

「今回、八千穂と……姉妹揃って病院送りになったでしょ」

優希はハッとした。

日万凛と八千穂の母親。それは、現九番組組長である東風舞希だ。

 

「母は……きっと、八千穂が怪我をしたのは、妹である私が足を引っ張ったからだと思ってるわ」

 

「そんな……! 日万凛のせいじゃない! あんな化け物相手に、誰が足を引っ張ったとかなんて……!」

 

優希が必死に否定するが、日万凛は自嘲気味に笑って首を横に振った。

 

「自分の力不足で姉を疲れさせたのは事実よ。……母は、結果しか見ない人だから。いつか、九番組から魔都交流戦を挑まれるかもしれない。東家の落ちこぼれを、完全に叩き潰すためにね」

 

日万凛は、顔を上げ、夜の魔都の空を睨みつけた。

その瞳には、母へのコンプレックスを燃やし尽くさんばかりの、強烈な反骨心が燃え上がっていた。

 

「その時は! アタシが『無窮の鎖』で、母を真正面からぶっ飛ばしてやりたいの!!」

 

日万凛は、優希に向かって力強く拳を握り、そして、その手を優希へと差し出した。

 

「だから……力を貸して!!」

 

それは、プライドの高い彼女が、心からの弱さを曝け出し、共に戦う相棒として優希を求めた瞬間だった。

優希は、日万凛のその覚悟に胸を打たれ、迷うことなく深く頷いた。

 

「ああ。俺の力でよければ、いくらでも使ってくれ」

 

優希は、差し出された日万凛の小さな手の甲に、騎士のように恭しく跪き、静かに口付けを落とした。

 

『無窮の鎖(スレイブ)』――発動。

 

「んっ……!」

 

日万凛の体から、青白い光が弾ける。

契約の力が繋がり、優希の体が瞬時に肥大化し、純白の身体を持つ異形の獣へと変貌していく。

しかし、京香が主となった時の、あの圧倒的な質量とパワーを誇る巨躯とは、少し様子が違っていた。

光が収まり、土煙の中から姿を現した優希の形態。

それは、京香の時のベースを残しつつも、全体的に引き締まり、しなやかな筋肉を持つスリムなフォルムだった。

脚部はバネのように発達し、圧倒的なスピードと機動力を予感させる。

そして何より特徴的なのは、その獣の首元に、まるで忍者の装束のように長く赤いスカーフ状の器官が巻かれ、魔都の風を受けてヒラヒラと靡いていることだ。

東日万凛の機動力と戦術眼に最適化された、特殊形態。

 

『無窮の鎖・旋風(スレイブ・つむじかぜ)』。

 

「……いいわね。力が、全身に満ちてくる」

 

日万凛は、軽やかに跳躍し、旋風形態となった優希の背中にフワリと降り立った。

手綱を握るその手には、もう迷いはない。

 

「いくわよ優希! 明日の朝まで、徹底的に付き合ってもらうわ!!」

 

風を切り裂くようなスピードで、白き獣が荒野を駆ける。

男の常識を破壊した幼馴染の背中を追い、そして厳格なる母の呪縛を打ち砕くために。

東日万凛の、長きにわたる特訓の夜が幕を開けた。

迫り来る組長会議、そして八雷神との決戦に向け、七番組は静かに、しかし確実にその牙を研ぎ澄ましていく。

 

 

翌日。

組長会議を間近に控えた七番組寮に、二人の珍しい来訪者が姿を現した。

 

「──組長会議の前だというのに悪いね、羽前くん」

 

鼓膜を心地よく震わせる、深く、艶のある低音の美声。

そこに立っていたのは、長身に柔和な笑みを浮かべ、眼鏡の奥に知的な光を宿した男性だった。魔防隊の全施設を管轄する責任者であり、魔都における兵站と拠点の要を担う男、

藍染惣右介。

そしてその斜め後ろには、秘書らしき女性――雛菊楓(ひなぎく かえで)が、静かに付き従っていた。

 

「いえ、藍染管轄官。遠路はるばるご苦労様です」

 

その背後で、退院したばかりの東日万凛と駿河朱々も少し緊張した面持ちで会釈をした。

 

「それに、君たちも無事で何よりだ。未知の脅威との接触……無事に帰還してくれたこと、管轄官としても嬉しく思うよ」

 

藍染は、日万凛と朱々に向けて優しく労いの言葉をかけた。その態度は、底知れない実力者でありながら、決して威圧感を感じさせない洗練されたものだった。

優希は、藍染の顔を見てパッと表情を明るくした。

実のところ、優希にとって藍染は、魔防隊の中で最も初期に言葉を交わした恩人の一人だったのだ。

 

それは、優希が魔都に迷い込み、京香の奴隷兼、七番組寮の管理人として働き始めた次の日のことだった。

まだ右も左も分からず、ただ無我夢中で寮の掃除や家事をこなしていた優希の背中に、穏やかな声がかけられた。

 

「やぁ、君が新しい管理人かい?」

 

振り返ると、柔和な笑みを浮かべた藍染が立っていた。

 

「僕は魔防隊の施設の管理を任されている、藍染惣右介だ。よろしく」

 

「あ、よろしくお願いします! 和倉優希です!」

 

がっしりと握手を交わし、緊張して頭を下げる優希に対し、藍染は優しく微笑みかけ、そして、ふと真剣な声音に変わった。

 

「和倉くん。ここの管理人になるに当たって、一つだけ、君に覚えておいてほしいことがあるんだ」

 

「……なんですか?」

 

「それはね。決して『妥協しないこと』だ」

 

妥協。

その言葉の真意が掴めず、優希は首を傾げた。

 

「妥協……ですか……?」

 

「そうだ。朝、君が送り出した彼女らが、無言で帰宅する……そんなことがいつ起こり得るか分からない。それが魔都という戦場だ」

 

藍染の言葉は静かだったが、そこには魔都の現実という冷酷な重みがあった。

 

「彼女らは強い。通常の醜鬼などには遅れを取らないほどにね。でも、万が一ということがある。その時……もし君が、家事や料理を『これくらいでいいか』と妥協していて、それが彼女らの最後の日常、最後の食事になってしまったら……きっと君は、一生後悔してしまう」

 

優希の目が、ハッと見開かれた。

ただの雑用。ただの掃除や料理。そう思っていた自分の甘さを、藍染は優しく、しかし鋭く指摘したのだ。

 

「だから、雑用だからといって妥協してしまえば、この平和を守るために命を懸けている彼女らに対して、失礼だと僕は思うんだ」

 

「藍染さん……」

 

優希は、強く両方の拳を握りしめた。

自分の仕事が、ただの家政夫ではなく、彼女たちの『帰るべき日常』を完璧に守り抜くという、尊い使命なのだと気づかされた瞬間だった。

 

「はい! しっかり覚えておきます!」

 

優希の真っ直ぐな返事を聞いて、藍染は満足そうに目を細めたのだった。

 

 

────────

 

 

「和倉くん。……少し逞しくなったかい?」

 

藍染の声で、優希は回想から引き戻された。

藍染は眼鏡をスッと押し上げながら、優希の全身を興味深そうに観察している。

 

「え……? そうですか?」

 

「分かるさ。六番組との交流戦や、今回の件で……とても良い経験を積んだようだね。君の瞳に宿る光が、以前よりもずっと強くなっている」

 

藍染の言葉は、まるで優希の魂の成長そのものを透かし見ているかのようだった。

 

「光栄です。藍染さんの言葉、今でも胸に刻んで毎日頑張ってますから!」

 

「それは嬉しいね。これからも、彼女たちの良き支えであってくれ。……では、羽前くん。会議の席でまた会おう」

 

藍染と雛菊は、静かに踵を返し、寮の廊下を歩き去っていった。

二人の姿が見えなくなった途端、張り詰めていた空気が緩み、朱々がほうっと熱い溜息を吐き出した。

 

「はぁ〜……。やっぱ、いけてるよねぇ藍染管轄官」

 

「朱々、アンタまたそんなこと……」

 

呆れる日万凛をよそに、朱々は両頬に手を当てて身悶えした。

「だって、あの大人の色気っていうの!? それにあの声! 耳元であんなイケボで囁かれたら、どんな願いも聞いちゃいそうになるよねー!」

 

「……否定はしないけど、声で騙されないようにね。あの人は施設のトップ。底知れない人よ」

 

日万凛が冷静にツッコミを入れる中、優希は、藍染の後ろに付き従っていた女性――雛菊楓のことが気になっていた。

彼女とは初対面だったが、優希の目には、彼女の歩き方がわずかに不自然に映ったのだ。長ズボンで隠れていたが、両足の動きが、どこか機械的というか、義足のように見えた。

 

「京香さん。藍染さんの後ろにいた女の人……あの方も、魔防隊の人なんですか?」

 

優希が小声で尋ねると、京香は少しだけ目を伏せ、静かに口を開いた。

 

「彼女は、雛菊楓。元々は、二番組に所属する優秀な戦闘隊員だったんだ」

 

「元々……?」

 

「ああ。……数年前に、突発的な魔都災害で強力な醜鬼の群れとの戦いになり、逃げ遅れた民間人を庇って……両足を深く負傷してしまってな。一命は取り留めたものの、戦闘員としての復帰は絶望的となった」

 

京香の声には、かつての仲間を想う痛切な響きがあった。

 

「本来なら魔防隊を除隊するところだったが……彼女の事務処理能力と生真面目な性格を藍染管轄官が高く評価し、直属の秘書として引き抜いたんだ。今は最新の義足を使って、藍染管轄官の右腕として立派に仕事をしている」

 

「そうだったんですか……」

 

優希は、雛菊の背中が消えていった廊下の奥を見つめた。

魔都で戦うということは、常に死や再起不能の怪我と隣り合わせだ。日万凛や朱々、そして姉の青羽たちも、一歩間違えれば彼女と同じ、あるいはそれ以上の悲劇に見舞われていたかもしれない。

 

(だからこそ……俺がしっかりしないと。藍染さんの言う通り、妥協なんて絶対にできない)

 

優希は、改めて己の役割の重さを噛み締めた。

現世の浦原喜助、そして魔防隊の藍染惣右介。

表と裏、それぞれの場所から魔都を見つめる底知れない大人たち。彼らの思惑が交差する中、魔都の運命を決める『組長会議』の時は、刻一と迫っていた

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