ウマ娘 プリティーダービー ノーザンクロス   作:月想

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開いて頂きありがとうございます。
難産でした。やりすぎなくらいたくさんウマ娘が出てきます。



第7話『脱出せよ!?スキルアップアイランド!』

絶叫しても現実は変わらない。

そう諦めたのが分かったのか、謎のウマ娘さんは大きな咳払いをして漸く説明を始めようとする。

 

「んぁ...?」

「あ。起きた。」

 

でもタイミング悪くミューズが目を覚ました。

いつも通り、だらしないOFFモードで周囲を焦点の定まらない目で見回してる。

次第に意識が覚醒していき、"なんじゃこりゃあ!?"と叫ぶ。

かと思ったんだけど。

 

「もう朝か...あれ?クロワじゃん。なに、お前も野宿?」

「野宿って...え?」

「え?」

「...え?」

「だから、え?」

 

え?じゃなくて。

何でそんな自然に状況受け入れてるの?

まるで今までずっと野宿してたみたいな反応までして。

だって宿に部屋あるでしょ?

あのハンモック、まさかミューズが作ったんじゃないよね?

アウトドア好きだったの?

好き嫌いの問題じゃないよね?

 

「...あれ?なんか植生が変だな...日差しに対して海岸の位置も」

「待って。待って頼むから。違和感感じるとこがおかしいよナショ○ルジオグ○フィックなの?」

「よゥよゥよゥ!!」

「え。」

「本能、解放してるかァーーーッ!!!」

「...ぼちぼち?」

 

関西人か。

なんだぼちぼちの本能って。

というかもう少し動揺して欲しい。

3日間ゴルシ先輩と関わって気が振れてしまったのだろうか?

涙出てきた。

 

「ようこそ、三銃」

「あ、ストップ!ちょ、ちょっと待ってくださいね!?」

 

気付いたらさっきとまったく同じ台詞が最初から再生されている。

誰かが起きる度に振り出しに戻られたら困る。

今にも波に攫われそうなマスカレードさんを布団ごと引っ張りサルベージ。

幸せそうに寝息を立てるその肩を軽くトントンしてみる。

 

「マスカレードさん?お~い。朝ですよ~。」

「...っ...ん...?」

 

程無くして、日差しの眩しさに苦悶の表情を浮かべてマスカレードさんが目を覚ました。

頭巾姿で周りをキョロキョロと窺い、一時停止。

そのまま固まったかと思いきや、再び深く布団に潜り込んでしまう。

 

「大丈夫です。お使いの頭巾は正常ですよ。夢じゃないです、残念でした。」

「っ!?ぇ...なっ...!?」

 

これですよこれ。正常な反応はこれ。

うんうん。分かる分かる。

夢だと思って二度寝はやっぱり試すよね。

信じられないとばかりに頭巾を外しては着けてを繰り返すマスカレードさん。

眼鏡じゃないんだから...。

 

「よゥよゥよゥ!!本能、解放してるかァーーーッ!!!」

「ひっ...!?」

 

そうそう。普通背後から知らない人にわけわからないこと言われたら驚くよ、普通。

しっかり前二回と一言一句同じ挨拶を聞き、怯えるマスカレードさんを軽く宥めてミューズも含めて横並びになる。

私もいい加減説明が欲しい。

ツッコんで精神を誤魔化すのも流石に限界だ。

 

「ダーッハッハ!私は"タッカーブライン"!このトレセン島の責任者兼現場監督だァ!」

「あぁ、この人が...。」

「トレセン島って、あの...?」

 

"トレセン島"。

授業で聞いたことがある。

無人島を有志で開拓し、島ごと特殊なトレーニング施設にしたんだとか。

夏合宿で利用する場合もあり、その効果は絶大らしい。

アイネス先輩が熱弁してたのを聞いて、いつか行ってみたいとは思っていたけど...。

 

「何故トレセン島にいるのか!どうやってここまで運んで来たのかァ!非常に気になっているだろォ!?」

「「「はい!」」」

「だがそんなことはどうでもいィィ!!」

「「「えー!?」」」

「お前たちに課せられた使命はただひとつ!この"トレセン島からの脱出"だァ!!」

 

脱出って...そもそもここどの辺りなの?

私たちがいたとこから何キロ先?

北?南?東?西?

 

「合宿の総仕上げ、トライアスロンリレーは合宿の最終日に行われる。それまでに島を脱出し、リレーに合流するのがお前たちのミッションだ。」

「今日入れて3日しかないんですが...」

「ルールは簡単!島に複数ある"試練"を見つけ出し、すべてクリアしろォ!そうすれば脱出成功!無事アンカーとして参戦出来るぞ!」

 

つまり脱出せよ!と言うわりに試練さえクリアすれば送迎手段は用意されてるという話なんだろう。

ただ、場所もアバウトで島がどれくらいの広さなのかも分からない。

あまりに時間が少ない気がするんだけど。

 

「そもそも何でこんなことを?他のメンバーはこのこと知ってるんですか?」

「そのメンバーを裏切らない為にも、お前たちはここを抜け出すしかない。違うか?」

「それは...」

「戻る方法が他にないんじゃ、やるしかねぇだろ。」

「...分かった。」

 

タッカーさんの言葉に、数日間お世話になった先輩たちの姿を思い浮かべる。

色々と文句はあるけど、必ず帰って来ると信じて私をここに送り出したに違いない。

二人も私と同じ気持ちのようで、渋々ながら現状を受け入れた。

こうなってはもうやるしかない。

 

「それで、その試練というのは」

「よォし!それでは最初の試練行くぞォ!!」

「え!?」

 

いきなり!?

まだ心の準備が出来てないんですけど!?

驚く私たちを無視し、タッカーさんはどこからか"ラジカセ"を取り出した。

ポチッとスイッチを押すと、覚えのあるメロディーが流れてきた。

 

『Hands Up~ ! 』

『タッカー'sスキルアップアイランド』

『Let'stake it on ! 』

『Are U ready ? 』

『うっしゃー!!』

 

「スピード...」

「パワー?」

「スタ、ミナ。」

「根性ォ!かしこさァ!!というわけでこのトレセン島のテーマソング!『タッカー'sスキルアップアイランド』を全力完走してもらうぞォ!!」

 

いきなり無人島関係ない!?

別に私たち移動させる必要ありませんでしたよね!?

私たちの言わんとすることを察したのか、タッカーさんは懐から何やら古そうな紙を取り出した。

 

「誰か一人でも踊りと歌唱を完走すれば、この非常に便利で分かりやすいトレセン島の地図を渡そう!試練達成の為の試練ッ!逃げるとは言わせないぜェ!」

「えー...」

「参ったな...。」

 

地図が貰えるなら、これは絶対にクリアしなければいけない試練だ。

でも歌と踊り自体はともかく、この曲の歌詞と振り付けは非常に怪しい。

アイネス先輩が口ずさんでいたのでギリ8割方くらいだろうか?

ミューズも不安そうにしている。

こうなると最悪、地図なしで試練に挑むことに...。

それだけはまずいと何とか譲歩を得られないかと頭をフル回転。

考えろ、考えなさい私!

 

「分かりました。すぐに始めてもらって、構わない。」

「おまっ!?」

「マスカレードさん!?」

 

一歩前に出てきたと思えば、普段より明らかにキリッとした表情で了承してしまった。

その自信は何なの!?

何でそんな見たことない頼もしい顔してるの!?

 

「よォし!では、行くぞォ!!」

「だーくそぉ!?」

「やるしかない...!」

「...。」

 

寝起きの体に鞭を打ち、無理矢理踊る体勢を整える。

先程と同じメロディーが鳴り響き、なし崩し的に"歌の試練"が始まった。

 

『Hands Up~ ! 』

『タッカー'sスキルアップアイランド』

『Let'stake it on ! 』

『Are U ready ? 』

「「「うっしゃー!!」」」

「「「Speed,Power,Stamína!」」」

 

歌と踊りと言いつつ、基本は体操にしか見えない振り付け。

つまり難易度自体はあんまり高くない。

横からチラ見する限り、二人も迷っている様子はないし。

 

「良いじゃないかアー!」

「さあ次は、顔をあげて笑顔で !

Sing along.」

『ありのままでいこうじゃない ! 』

『解き放てBody feel now』

『ありのまま最高じゃない?』

『らららRight & Left and RUN for the RUN.』

 

合いの手は歌詞に入らないカラオケ仕様。

だけど、問題はここから。

 

「良い調子だァー!だが本番はここからだ!」

『『『 どんとこいー!!!』』』

 

勘弁してください...。

なんて言う暇はない。

この曲が大変なのは、とにかく"体力"を使うというところだ。

リズムに乗るというよりきっちりと体操をこなす動きが求められるので、振り付けのスピードにしっかり決めるパワー、迷わない頭の回転に苦しい呼吸や気持ちを制御する根性。

そして、それら全てを可能にするスタミナという下地。

まさに歌詞通り、スキルをアップする為の楽曲なのだ。

 

「キツくなってきたんじゃないかァー?」

「さあもう一度、顔をあげて笑顔で!Sing along.」

 

二番のサビまで来て、大分歌詞と振り付けが怪しくなってきた。

体力があっても覚えていないのでは意味がない。

大体難易度が高過ぎる気がする。

気持ちよさそうにラジカセと台詞部分を重ねて叫ばないで欲しい。

サラウンドで一瞬頭が大混乱だ。

 

「OK~! 最後はもっと熱く自身を解放だァー!!!」

 

疲労と焦りでてんてこ舞いのところで、いよいよ曲は佳境に。

こうなると歌詞の心配はいらない。

ずっと同じだからね。

 

「え!?マッスルポーズってこうじゃないの!?」

「細か過ぎ!?ってうわっとぉ!?」

 

と、油断したのがまずかった。

上がるスピードについに頭と体がついて行かなくなったのか、私とミューズが連続で脱落。

三人しかいないのにこの失態。

やはり無理だった。厳し過ぎる。

歌とダンスは得意な方が少数派なのに!

理不尽に対してどのように泣きつくか、それを考えた時だった。

 

「スピード!パワー!!スタミナ!!

スピード!パワー!スタミナ!!

スピード!パワー!スタミナ!!!

根性!賢さ!!」

「ま、マスカレードさん!?」

 

あまりにも意外。

なんと、あのマスカレードさんが非常にハキハキとした動きでラストスパートをこなしてる!?

あのマスカレードさんが!

あんなにいい笑顔でっ!

キャラ崩壊とかそういうレベルじゃないんだけど!?

振り付け完璧だし!?

 

「ワンツーワンツーワンツー!!」

「スピード!パワー!!スタミナ!!

スピード!パワー!スタミナ!!

スピード!パワー!スタミナ!!!

根性!賢さ!!」

「が、がんばれ...!」

「そうだ...頑張れマスカレード!!」

 

キャラ崩壊とか言ってる場合じゃない!

今はとにかく応援!

相変わらず心は動揺しっぱなしだけど!

後ちょっとだ、がんばれーー!!

 

「スピード!パワー!スタミナ!!

スピード!パワー!スタミナ! !

スピード!パワー!スタミナ!!

根性!賢さーーー!!!」

 

「Good Job!!」

 

やった。

やり遂げた!

最後のあの"お疲れしたー"みたいな動きまで完璧にやり抜き、マスカレードさんはこの歌の試練を見事に完走したのである。

これにはタッカーさんも渾身のグッジョブ。

私とミューズはそれはもう盛大な拍手喝采を浴びせる。

二人しかいないけど。

改めて見ると、これはいったい誰が得しているのだろうか?

 

「ハァ...ハァ...。」

「スゴいよ!本当にありがとうマスカレードさん!」

「でも何であんな完璧なんだ?ライブでやったこともないだろ?」

 

汗を拭い息を整えるマスカレードさんに駆け寄る私たち。

ミューズの疑問に、マスカレードさんはものすごくキリッとした顔で答えた。

 

「ドゥラメンテさんver.がある。完コピは、当たり前。」

「筋金入りのファンかよ!?」

「なるほど...!」

 

だからあんなに自信満々だったんだね!

その気持ちよく分かるよ!

私もイクイノックスさんとお姉のは穴が空くくらい見てるから!

 

「いいスキルアップだったぞォ。見事試練をクリアした証に、この地図を進呈しよォ!」

「どうも...。」

 

遠慮がちに、でも嬉しそうに地図を受け取るマスカレードさん。

これで何とか見通しは立てられる。

そう思った矢先に、地図を見た彼女の顔がみるみるうちに呆れた表情に変わっていく。

不思議に思う私たちに、マスカレードさんは心底落胆した様子で地図を見せてくれた。

 

「...なに、これ?」

 

描いてあったのはこう、本物の地図を子どもが無理矢理模写したような島の絵。

そこにかなりアバウトな囲みで"げんざいち"、"しれんここらへん"などと記載がされていた。

これが、地図...?

 

「...タッカーさん、もしかして渡す地図間違えて」

 

ないですか?

と、言う前に気付く。

既にタッカーさんの姿は影も形もない。

 

"逃げられた"と、そう思った。

不満そうなマスカレードさん、色々と諦めた顔のミューズ。

二人と交互に目を見合せ、全力で溜め息を吐く。

 

どうやら、無事に帰れるかどうかも怪しいみたいだ。

 

「ごはんとか、どうすればいいんだろ...。」

 

――――――――――――――――――――

 

「ふわぁ~...おはよう、ミューズ。」

「おはよーさん。ヤシの実あるから、食べたきゃ自分で割ってくれ。」

「うん、ありがとー...。」

 

時系列はいきなり飛んで翌朝。

寝惚け眼を擦り、ノールは渡されたヤシの実を拳で砕き、中の果汁を飲み込んでいく。

マスカレードはというと、焚き火で海水を蒸発させ飲み水を作っていた。

 

たった一日でこの順応具合。

原因は勿論、ミュージアムマイルだった。

 

昨日地図を手に入れた後、ノールとマスカレードはさっさと他の試練もクリアしようと進行を提言した。

しかし、ミューズはそれをよしとしなかった。

地図がアバウト過ぎるせいで、現在地からの距離が明確に判断出来なかったからだ。

島にはちゃんとした宿泊施設等があるはずだが、タッカーの対応から利用出来るかは微妙。

寝泊まりする場所もなく、万が一迷って夜になれば本気の遭難もあり得る。

万全を期する為にも、まずは"拠点"を作り作戦を立てるべきだと主張したのだ。

ノールたちもまるで実体験のような説得力に頷かざるを得ず。

トレセン島1日目は拠点に水、そして食料を用意する時間で消化されたのだった。

 

「でもビックリしたよ。ミューズがこんなにサバイバル詳しいなんて。そういう動画にハマってるとか?...あ、もしかしてゴルシさ」

「聞きたいか?」

「すみません結構です...。」

「...触れない方がいいことも、ある。」

 

意外なのは、マスカレードがそれなりに協力的だったことである。

ちゃんと会話はするし、頼まれたことを素直に受け入れてくれる。

流石にこの状況では仕方ない部分もあるとは思うが、それ以上に合宿で心境の変化があったのだろう。

マスカレードと良好な関係を築けているのは、ノールとしては結構喜ばしいことだったりする。

ミューズが時々死んだ目になる理由は分からないままだが。

 

「試練、あと3つだっけ?」

「ああ。海岸沿いに1つ。残りは島の中央。とりあえず、今日は海岸沿いを潰すぞ。さっさと片付けて、可能なら拠点も島の中に移したい。」

「了解した。」

 

幸いなことに、試練は残り3つ。

今日を入れて明後日の朝までにクリアすると考えれば、ギリギリでも間に合う数だ。

最早"このサバイバル必要ですか?"という疑問は彼女たちの中にない。

早く帰りたい、お米食べたい。

しっかりと本能は全開しているようだ。

 

「次の試練、どんなのだろうね?」

「わざわざ海沿いに用意してんだし、泳ぐんじゃねーの?」

「...ゴーグルが欲しい。」

「目、絶対に染みるよね。」

「ウッドチップが飛んでくるよかマシだろ。」

 

拠点を出発し、地図を頼りに海岸を歩く三人。

自然とリーダーシップを取っているミューズだが、これは彼女が姉であり、残り二人が妹気質だからかもしれない。

このトリオ、意外にバランスが取れているようだ。

 

「お?」

「試練...もしかしなくてもあれじゃない?」

「...ユニーク。」

 

しばらく談笑しながら歩いていると、非常に人工的な"立て看板"があるのが見えた。

看板には思い切り

 

「"海の試練はこちら!"...だって?」

「いや観光名所か。地図もアバウトなら試練の名前もアバウトだな。」

 

あまりにそのまんまな名前ではっきりと書かれた看板に呆れ目を向けつつ、とりあえず接近する。

看板が目前に迫った、その時。

 

「待っとったで!というか遅過ぎや待ちくたびれたわ!!」

 

俊敏な動きでこちらに飛び出して来た、1つの白い影。

関西弁で三人に不満をぶつける葦毛のウマ娘。

その顔には奇妙な仮面を着けており素顔は見えない。

...が、誰だか見当は付いてしまう。

服装が完全に()()()だからだ。

 

「...タマモせんぱ」

「ちゃうちゃう誰がタマモクロスやねん!?ウチは人呼んでイナズマ仮面っ!試練を司る審判っちゅーわけや!」

「"タマモクロス"まで言ってないよね?」

「やめとけやめとけ。こういうのいちいち相手にしてっとキリないぞ...。」

 

タマモクロス、ではなくイナズマ仮面の事情を何となく察する三人。

そもそも"稲妻"と付くならもう隠すつもりがあるとは思えないのだが、わざわざ深掘りすることはしない。

案内人を置いてくれているだけマシだと思えるし。

後ろの茂みに見切れているのは寝袋だろうか。

もし自分たちの安全策のせいで野宿をさせてしまったのだとしたら、多少申し訳ない。

やぶ蛇ということで、三人は素直に黙っておくことにした。

 

「ほな、早速試練の説明行くで!この海の試練はズバリ、"宝探し"!海中に潜ってどこかにある宝箱を見つければクリアや!」

「宝、探し...?」

「結構簡単そう?」

「ナメとると痛い目見んで?ま、やってみてのお楽しみやな。」

 

ルール説明も一瞬で終わり、如何にも簡単そうなこの試練。

後は誰が行くかだが、相談するより先にトラウマを刺激されたミューズが自ら前に進み出た。

 

「宝探しなら、オレだろ...!」

「......そうなの?」

「いや、たぶん違うと思うけど...察してあげて?」

「...分かった。」

 

漢らしい立候補に困惑するノールとマスカレード。

触れない方がいいこともある。

再びそれを胸に刻み、やっぱり黙っていることにする。

 

「制限時間とかはないんですか?」

「無制限や。ただ、ゆっくりしとる余裕あるんか?」

「そりゃそうだ。さっさと見つけて来ますよ。」

 

さっとジャージを脱ぎトレセン水着姿になったミューズ。

簡単な準備運動を終え、綺麗なフォームで水中に飛び込む。

 

「がんばれ~。」

「ファイト。」

 

何ともやる気のない応援は、勿論ミューズの耳には届いていない。

水中は透き通って視界は良好。

珊瑚礁と小魚たちを横目に、黙々と目的の宝箱を探していく。

 

特筆すべきはその"心肺機能"だろう。

3日間、海よ山よと連れ回されたミューズ。

宝探しと銘打たれたにも関わらず、結局何も見つからなかった絶望の合宿。

しかし負担がかかったことにより、知らず知らずのうちに身体的な成長を遂げていたのだ。

以前は2000mが限界だった体力も、今やクラシックディスタンスをこなせる程に。

長い時間水中にいられるので、探索は非常にスムーズに進んでいった。

 

『お!あれじゃないか!?』

 

そしてついに見つけた。

海中に輝く、分かりやすいくらい定番の見た目な宝箱。

最近沈められたモノで間違いない。

本当に簡単な試練だった。

これなら今日中にもう一つは試練をクリア出来るかもしれない。

そう喜びながら真っ直ぐに宝箱へ向かうミューズ。

その背中を突如、()()()()が覆った。

 

『へ?』

 

恐る恐る振り返るミューズ。

その背後に佇んでいたのは。

 

「キュッキュウッッ!!」

『イカぁぁぁ!?!?』

 

見上げるような大きさの"イカ"。

いきなり現れた映画の中の怪物に思わず息を吐き出してしまう。

 

『まずっ...!?』

 

空気の補充と、とりあえずの逃走の為海上を目指すミューズだが、巨大イカは彼女を執拗に追跡。

彼女の足を自身の足で捕まえてしまう。

 

「おっそいなぁ、ミューズ。ついでに魚でも捕まえてるとか?」

「...彼女は、いつもあんなに頼れる感じなの?」

「全っ然。朝なんて本当は私が起こさないと寝っぱなしなんだから。」

「...アタシは起きれるけど、最近はソールさんが頼んでなくても起こしてくれる。」

「あー、お姉ちゃんタイプはどうしても世話焼いちゃうみたいだよ?オグリ先輩ってどうなんです?」

「あれはあれで意外としっかりしとるから、寝起きに関しては個々やな。たまに大ボケかますんはあるけど。」

「やっぱりタマモ先輩じゃないですか。」

「ちゃうて、イナズマバットやって。」

「名前、変わってる...。」

 

友人が生命の危機に陥っているのにも関わらず、ノールたちは仲良く談笑中。

タマモクロスもとい、イナズマ仮面も普通に会話に参加している。

そもそも海中の様子など彼女たちに分かるわけがないので、助けは元より期待出来ない。

どうあがいても絶体絶命である。

 

『くそっ...!このままじゃマジで死ぬっ...!?』

 

どんどん海中に引き摺られる体。

このままではやられる。

そんな弱気を抑え込み、ミューズは必死に頭を働かせる。

何か手があるはずだ。

今こそ、3日間のサバイバル経験を活かす時!

必ずヒントがあるはずだと、諦めない彼女の脳裏に浮かぶ光景。

あれは確か、ミューズが海中でサメに追いかけ回されていた時のことだ。

自分を助けようと駆け付けたゴールドシップが、真剣な表情で放った言葉。

思い出せ!

土壇場ではなんだかんだ頼りになるGⅠウマ娘。

腐っても名ウマ娘が、自分へ必死に送った言葉を!

 

『ぶべぼっ!ぼぼぶべぽっぽぉーー!!』

 

『分かるかバカヤロぉぉぉー!?!?』

 

そういえば、その時も同じツッコミをしたっけ?

海中で声が聞こえるわけがない。

絶対にわざとだろう。

危機的状況に置かれたフラストレーションが、ツッコミという形で解放。

自身の限界以上の力を引き出し、八つ当たり気味に巨大イカを蹴り上げるミューズ。

 

「ギュウーッ!?!?」

 

「わっ!?イカだぁ!?!?」

「...!?PVで、見たやつだ...!」

 

そのまま海上を突き抜けると、綺麗な弧を描いて陸地に打ち上げられてしまった。

突然のモンスター登場に戦くノールたち。

イナズマ仮面だけはうんうんと満足気な顔をしているが...。

 

「ぶはぁっ!!...し、死ぬかと思った...!」

 

兎にも角にも。

ゴルシたちの合宿が功を奏し(?)、ミューズは見事"海の試練"をクリアするのであった。

 

――――――――――――――――――――

 

イナズマ仮面特製のイカ焼きをご馳走になった午後。

三人は休む間も無く、次の試練の探索を始めていた。

つい先ほど判明したのだが、実は"重大な勘違い"が発生していたのである。

 

「まさか、()()()()6()()()()()だったなんて...。」

 

そう。

トライアスロンリレーの日程が、最終日の7日目ではなく6日目だったのだ。

ノールたちはこの特別合宿を"一週間"と認識していたのだが、実際合宿は6日目まで。

7日目については帰宅のみの予定となっている。

つまり、6泊7日を一週間と考えてしまったが故のミス。

途中で指摘しなかったタッカーも悪いが、今回の場合サプライズサバイバルを考えた学園サイドにも問題があると言える。

とはいえ、今更抗議しても手遅れ。

結局は間に合わせる為、試練達成を急ぐしか彼女たちに打つ手はないのである。

 

「文句言っても仕方ねぇ。明日の朝にクリアしてれば、何とか間に合うだろ。」

「...必ず、間に合わせる。」

「二人とも...そうだね。とりあえず2つ目、さっさと取っちゃおう。」

 

むしろ一日早く帰れるとも考えられる。

何事もポジティブシンキングが大事だ。

ミューズとマスカレードに励まされ、ノールは視線を地図へと戻す。

 

「さっきの試練からの位置関係的に、こっちだとは思うんだけど...」

「なんか視界が悪くなってきた気が...。無人島(有人島)なんだし、流石に猫科の肉食獣的なヤツはいないはず、だよな...?」

「...雰囲気では、恐竜まである。」

「ハリウッドデビューかぁー...。」

 

段々今にも猛獣が出てきそうなジャングル具合に、自然と小さく纏まっていく三人。

さっき巨大イカを目撃したばかりだからか、マスカレードの冗談も冗談には聞こえなくなっていた。

 

「...あれ、そうじゃない?」

「ん?...あー、ホントだ。相変わらず受験案内みたい。」

「その例えなんかやだな。胃が痛くなる。」

 

不安がピークに達しそうなところで、一気に視界が開けた。

日差しが届き僅かに輝いて見える緑の道。

その先に見覚えのある立て看板が違和感バリバリで設置されている。

"密林の試練はこちら!"だそうだ。

相変わらず元気そうである。

 

「ンンッ...コホン...よ、よく来たね!待ち過ぎて逃げたのかと思ったけど!」

「誰...!?」

 

海の試練と同じく、突如死角から掛けられる高飛車な声。

蔦だらけの木の上から飛び降りたのは、またも仮面を着けたウマ娘であった。

 

よく手入れされサラサラな美しい金髪。

仮面の上からでも分かる端正な顔立ち。

磨き上げられた抜群のスタイルを、ジャングルには似つかわしくない露出の多い勝負服で包んでいる。

謎のウマ娘は仄かに頬を染めながら、躊躇いがちに予め決まっているような口上を述べる。

 

「アタシの名前は、び...じょ、仮面...///」

「え?何て?」

「...び、"美少女仮面"っ!!この密林の試練をジャッジするウマ娘だ!!///」

「...自分で言うんだ?」

「すごい!あれゴールドシチ」

「ハァ!?違うからっ!ゴールドシチーなんてアタシ知らないしっ!?///」

「言ってない言ってない。毎度何なんだこの設定。」

 

露骨に動揺するゴールドシチー、ではなく自称美少女仮面。

もっと他にあるだろと思わなくはないが、くじ引きで負けた以上仕方がない。

重要なのは何故名前を隠す必要があるのかではなく、試練の内容を伝えることである。

 

「いいから試練のルールいくよっ!ジャングルに作った2000mコースを走って()()()()()()()()()()()()こと!コースにはトラップがたくさん仕掛けられてるから、普通に走れるとは思わないでよ!」

「対戦相手って...シチー先輩ですか?」

「アタシじゃないよ。まあ、走ってからのお楽しみってことで。」

「あ、認めた...。」

 

ナチュラル自認はスルーするが、ルールはやはりシンプル。

トラップというのが恐いが、基本がレースなら前回前々回よりははるかに取っ付きやすい。

 

「それで?誰が挑戦する?」

「私がやります!」

「クロワ、自信あんのか?」

「それはまあ、微妙だけど...やってみせるよ。私、ダービーウマ娘だから!」

「......そう。なら、任せる。」

 

立候補したのはノールだった。

既に二人はそれぞれで試練を乗り越えてくれた。

なら、次は自分の番だろう。

念入りに準備運動を終え、スタートラインへ足を運ぶ。

 

「いい?危なくなったらすぐ止まること!怪我だけは絶対しないでよ!」

「はいっ!」

 

パァン!というスターターピストルの音が鳴り、即席コースを駆け出すノール。

感覚としてはやはり芝よりダートに近いか。

コースの全容を彼女たちは知る由もないが、しっかりとコーナーが用意されたグルっと1周仕様。

イメージ的には中山の2000m。

それだけのコースをこのジャングル内に用意しているというだけで驚きだが。

()()()()()()()()()()が、ノールのすぐ真横まで迫っていた。

 

「ん...?」

『グェーー!!』

「ダチョぅぅーーー!?!?」

 

聞き馴染みのない足音を響かせ茂みから現れたのは、まさにTHE"ダチョウ"。

どう考えてもこんな島にいていい生き物ではないのだが、紛れもない天然モノである。

ちなみに、ノールとダチョウのレース映像は最先端ドローンより中継されている。

残り二人の反応は言うまでもない。

 

「ダチョウとレースって...」

『グェ!!』

「っ...そこまで言うなら、ダービーウマ娘として受けて立つよ!」

 

何も言っていない。

ただ鳴いただけである。

だが、ノールには分かった。

2000m走れないだろとか、レースが理解出来るわけないだろとか。

そんな俗説を決して許さない迫力が。

やると言ったらやる凄みが、その瞳にはあった。

 

「っ...!」

 

ダチョウのトップスピードを考えるより、体力勝負に持ち込む方が分がある。

そう考えてノールは先行策で主導権を握る。

距離的にはベスト。

相手が誰だろうと押し切るのみ。

しかし、問題はこれがただのレースでなく"試練"だということだ。

 

「うわぁっ!?!?」

 

突然、()()()()()()()()()()丸太。

減速し辛くも回避するが、せっかく取っていたリードが一気になくなってしまう。

怪我だけはするなと言うが、普通に考えて当たったら怪我以上確定である。

次から次に襲い掛かる丸太トラップを、スピードを下げることで何とか回避して捌いていく。

 

「このままじゃ...!」

 

気付けば着順は逆転し、ダチョウの背中がかなり遠く見える。

体内時計的にもう既に1000mは切っている状況。

そろそろスパートをかけなければいけないタイミングだ。

だが、次またいつトラップが降ってくるかは分からない。

どうすればいい?

どうすれば勝てる?

追い詰められた土壇場でも、ノールは考えることを諦めなかった。

極限であっても失わない冷静さに、諦めないド根性。

それこそが自分の強みだと知っていたから。

 

「それ、ならっ...!!」

 

考えた末に気付く。

あくまでも人が作った仕掛けで、丸太のスピードにも限界がある。

ならば、と。

全身全霊を込め、全力の力で踏み込む。

 

『グェ...!?』

()()()()()()()()()()()()()()()()()だッ!!」

 

元から避ける必要はなかったのだ。

罠はノールが一定の距離に近付くと発動する。

しかし、当然丸太が体に当たるまでには僅かでも時間がかかる。

ならば、当たる前に通り過ぎればいい。

言ってしまえば、残りの800mを上がり最速気分で走るだけ。

普通なら無理。

だが、ノールならそんなロングスパートも可能なのである。

何故なら。

 

「私はダービーウマ娘っ!クロワデュノールだあぁぁぁ!!!!」

 

かわす、かわす。

当たらない当たらない。

まるで丸太自体が恐れているかのようにも見える。

先輩たちに教えられたダービーウマ娘の誇りを胸に、ノールは加速を続け。

ゴール直前、ついにダチョウを抜き去って勝利を掴むのであった。

 

「ハァっ...!ハァっ...!」

「お疲れ。やっぱり、アンタもダービーウマ娘なんだね。」

「ま、鳥に負けてもらっちゃ困るしな。」

「あなたは、アタシが倒す。」

 

息も絶え絶えのノールを迎える仲間たち。

と、美少女仮面。

心底悔しそうに走り去っていくダチョウを見送りながら、言い知れぬ手応えを感じて微笑む。

合宿は無駄ではなかった。

改めて先輩たちに感謝しつつ、明日のトライアスロンに思いを馳せる。

残る試練は、後1つ。

 

――――――――――――――――――――

 

「あー!久しぶりに生き返ったなぁ!」

「...おいしかった。」

「何よりシャワーが嬉しかったよね~...。」

 

トレセン島2日目、つまり合宿5日目の夜。

ノールたちは焚き火を囲みながら久しぶりのリラックス時間を過ごしていた。

 

というのも、密林の試練をクリアしたことでちょっとした"ご褒美"を貰えたのだ。

 

『あ、施設のカギ渡しとくね。好きに使ってくれていいよ。後、差し入れも用意しといたから。』

 

女神だ。

誇張ではない。

この時、間違いなく美少女仮面はノールたちにとって女神だった。

 

知っての通り、トレセン島は無人島ではなく既に開拓済のトレーニング施設。

本来は自然で本能を刺激するトレーニングを行いつつ、しっかり休養が取れる設計になっている。

今回ゴールドシチーからカギを入手したことで、シャワーや宿泊場所等の一部機能が解放されたというわけだ。

 

「まさか最後の試練のすぐ近くに、泊まるとこがあるなんてね。」

「まあ、元から最後はここで休ませるつもりだったんだろ。疲れ切ってたらリレーも何もないしな。」

「だとしても、色々と問題がある。帰ったら、必ず理事長たちに抗議する。」

「あはは...それはまあ、同意かな。」

 

吊り橋効果というか、共通の敵がいるからか。

いつしか自然な会話が出来るようになった三人。

特別合宿前のケンカを思うとそれなりに感慨深い。

感慨ついでに、少し踏み込んだ話をしてみようと、ノールは思った。

 

「...マスカレードさんは、秋ってどうするの?やっぱり、菊花賞?」

「......アタシは、天皇賞(秋)に出る。」

「!...そっか。そうなる、よね。」

「?」

 

ノールにとって、クラシック世代で挑む天皇賞(秋)は特別だ。

ダービー2着から挑む天皇賞。

どうしても重なるイメージを、考え過ぎだと頭を振って掻き消す。

 

「オレも出るぜ、天皇賞(秋)。」

「ミューズも!?」

「流石に3000mは走れねぇからな。皐月と同じ2000mのGⅠがあるなら、そっちに出るのが普通だろ。」

「...そう。」

 

交差する視線は、静かな闘志のぶつかり合いを表している。

お互いに予想していたのだろう、その表情には緊張も驚きもない。

 

「で?そう言うお前はどうすんだよ?菊花賞で二冠制覇か?それとも、もう一回オレらとやるか?」

「えーっと...実はその、まだ迷ってて。」

 

煮え切らない表情に"やっぱりな。"と溜め息を返すミューズ。

悩んだ様子のノールに、マスカレードは直近で先輩たちに教わったことをそのまま伝えることにする。

 

「...悩めるのは、幸せなこと。選択肢がない者もたくさんいる。彼女みたいに。」

「おい。」

「選択肢があるだけ恵まれてるのは、分かるんだけど...。」

 

マスカレードの言うことは正しい。

でも、答えが見つからないのでは現実として困るのだ。

 

「もう少し、考えてみるね。」

「時間は、まだある。」

「ま、見つからないならそれこそ先輩やらトレーナーを頼れよ。後悔しないようにな。」

 

こればかりはライバルが意見するわけにもいかず、結局その時ノールが進路を決めることはなかった。

 

菊花賞に立つ自分に、

天皇賞(秋)を駆ける自分。

様々な可能性を模索し、夢想する。

そして答えを見つけることのないまま、いつの間にか深い眠りに落ちていくのであった。

 

――――――――――――――――――――

 

そして迎えた、合宿最終日の朝。

トライアスロンリレー当日。

英気を養ったノールたちは、間に合わないかもしれないという不安を押し殺し、最後の試練の場所へとやって来ていた。

 

『よく来たなァ!これが正真正銘、最後の試練だァー!!』

 

"迷いの試練はこちら!"とやはり分かりやすく書かれた看板の先。

無人島に似つかわしくない大モニターに、タッカーの姿が映っていた。

 

「何で遠隔なんだ?...って言いたいとこだけど。」

「見れば、分かる。」

 

何故これまで通り直接案内をしないのか。

それは、()()()()()()()()()()を見れば一目瞭然だった。

 

「最後は、"迷路"...!」

『ご名答。島の自然を利用した、超巨大迷路。それが君たち三銃士への最後の試練だァ!!』

 

ここに来てまた時間が掛かりそうなモノを...。

文句を言いかける三人だが、その時間すらも惜しいというのが今の気持ちだった。

 

『入り口は3つ。3人バラバラのルートで迷路を攻略し、制限時間内にマラソン行き直行船に乗り込めばクリアとなる。頼れるのは、己の本能のみだァッ!』

 

ルールは至ってシンプル。

上手く行けば余裕を持ってクリア出来る可能性もあるくらいだ。

三人はお互いに頷き、出発しようとそれぞれの入り口前へ移動する。

 

『ちょっと待ったぁァァ!!』

「な、何ですかっ!?」

「びっくりすんなぁもう...。」

『トライアスロンに間に合わせる為、さぞやる気に満ち溢れていることだろう。そんな君たちに、()()()()()()()()()()をプレゼントだ。』

「やる気、スイッチ...?」

 

意味ありげに笑うタッカー。

怪訝な目で追う三人に見えるよう、モニターのカメラの画角が変更される。

そしてそこには、あまりに予想外な光景が待っていた。

 

『わーはっはっはっ!おジャマ虫ども見てるぅー?!おは!シャイニーーング!☆』

「シャイニングちゃんっ!?!?」

 

映し出されたのは、これまた無人島には違和感バリバリの"小型ロケット"。

...に、くくりつけられたサトノシャイニングであった。

変な夢を見ているのかと頬をつねるが、しっかりと痛みが走る。

 

『君たちが間に合わない場合、彼女には文字通り()()()()()()()()!』

「え!?本当にシャイニングするってこと!?」

「悪の組織の人質か何かかあのバカ...!?」

 

最早合宿とか関係のないド物騒である。

流石に見た目だけの偽物だと思いたいが、

背後で見切れている、車椅子で博士っぽいウマ娘。

キーボードを忙しなく操作せる姿はものすごくリアリティがあり、ロケットが本物だと思わずにはいられなかった。

 

「ど、どうしてそんな酷いことを!?」

『彼女はこの島のルールを破り、単独で脱出を謀った。自家用フェリーを呼んでな!』

『仕方ない!だってワタシお金持ちだからー!☆』

「...飛ばされればいい。」

 

本当は何も考えず脱出しようと、夜中にジャングルを彷徨っていたシャイニングを保護しただけなのだが。

この際丁度いいということで、スパイス的な意味合いで人質へと配役されたのだった。

 

『友だちを救いたければ、早めを超えまさに最速でクリアしてみせるがいいっ!』

「友だちじゃない。お好きにどうぞ。」

「いやマスカレードさん!?私にはちゃんと友だちだから!焦るから流石にっ!」

 

個々にやる気の差はあるものの、再びそれぞれの入り口に立つ三人。

どのみち急がなくてはならない。

お互いに頷き合い、全員揃っての脱出を誓う。

 

「遅れんなよ?」

「置いてく。」

「全員でっ!帰ろうねっ!?」

 

『本能を解放し、自らの迷いを振り切れ!それでは、試練開始だァァーー!!』

 

タッカーの合図を受け、今度こそ巨大迷路へと足を踏み入れるノールたち。

その姿を見届け、ぶかぶか白衣のウマ娘が愉快そうにニヤリと口元を歪める。

 

「それでは、実験と行こう。よろしく頼むよ、()()()()担当の諸君。」

「こんなの今回だけの特別よっ!"トゥインクル・トゥインクル☆"」

「ハッピーカムカム、福が…来ませりッ!!」

「オカルト?ううん、風水は決して根拠のないおまじないなんかじゃ...あれ?でもこれは...あの迷路の方向だけ、氣が乱れてる?」

「何故、私まで...。......え...?どうして、声が、たくさん...。」

 

個性的なメンバーがそれぞれ迷路に意識を向ける。

それだけでは何も起こるはずはない。

それが常識だ。

 

だが、白衣のウマ娘にとっては自身を含めた"ウマ娘"という生き物自体が、不可解で非常識な存在に思えていた。

今回のこれは、その謎を科学とはまた違ったアプローチで探る為の実験。

何も起きなければそれで構わない。

だが、もし。

もしその"何か"が起こったとしたら。

 

「..."接続"。揺らいでる。『走りたい』が、来るよ。」

 

不思議な雰囲気を持つ金髪のウマ娘が、空から迷路へ指を動かす。

すると突然、巨大迷路を()()()()()()()()()()()()

待ちわびていた"異変"が、起きてしまったようだ。

 

――――――――――――――――――――

 

『"お集まりの皆さん、大変長らくお待たせ致しました!ただ今より、トレセン学園プレゼンツ。燃えろ友情トレーニング!絆で繋げ!真夏のトライアスロンリレー!を開会致しますっ!!"』

 

快晴の空の元、実況のアナウンスで東京レース場に集まった大観衆が叫ぶような歓声を上げる。

特別合宿の成果発表であるこのリレーだが、同時にファンへの夏イベント的な側面もあった。

今年の上半期を賑わせた、若き重賞ウマ娘たちの競演。

更に往年のレジェンドウマ娘たちまで姿を見せるとあっては、ファンとしては見逃すわけにはいかない。

通常のGⅠ開催日以上に人が集まっても仕方がないことである。

 

『"実況は私、明坂が。解説にはなんと、生ける伝説。トレセン学園生徒会長、初代七冠ウマ娘ことシンボリルドルフさんにお越し頂きました!よろしくお願いします!"』

『"こちらこそ、このような大役を任せて頂き恐悦至極。肩書きに恥じぬよう、誠心誠意務めを果たさせて頂きます。"』

 

昔と変わらず凛々しい皇帝の言葉に、会場のテンションは更に上昇。

もう待てないと興奮する観衆に合わせ、実況はスムーズにルール説明へと進行する。

 

『"本日のトライアスロンについて、ざっくりとした説明を致します。今回、区間は全部で5つ。第1区が遠泳。第2区が自転車。第3区が水泳、第4区が長距離ラン。そして最終第5区が東京レース場での芝、またはダート2000m走となります。"』

 

コースは完全にウマ娘にしか成し得ない無茶苦茶なモノ。

要は"島を越えて陸地にたどり着き、更に海を渡ってレース場まで走って来い。

最後は中距離レースで決着だ!"ということである。

当然タスキの受け渡しがある為、いかに最終区間までにリードを広げるかが肝要だ。

やり方次第で適性距離外のスプリンターやマイラーも勝負が出来るという寸法。

観客たちは各区間を映像で見守り、最終的にレース場でアンカーたちに声援を送る。

かなり大掛かりなイベントではあるが、その辺りの企画力は流石トレセンと言ったところだろうか。

 

『"それでは早速、各区間の出走メンバーを紹介していきましょう!"』

 

巨大モニターの映像が切り替えられ、真っ青な海とスタート用の船が映る。

複数人のウマ娘が競泳水着姿で準備運動をしており、一人一人を順に紹介。

その度に歓声の嵐が巻き起こる。

 

「マグロ王はアタシだぁぁ!!」

「マグロ!?お刺身ですか!?大トロは、大トロは何人前握れますか!?」

「じゃ、じゃあ...ライス、がんばってご飯、炊くね...?」

「スペさんもゴルシさんも、ライスさんまで...ちゃんとリレーしてくださいよ?あたしたち、今回は頼れる先輩として!参加してるわけですから。」

「んじゃキタサンはマグロ祭り欠席な。集合写真は宣材切り抜きで。」

「ひどい!?ホントにやるなら参加しますからね!?」

 

『"第1区からかなり豪華なメンバーですね。こうして見ると、菊花賞や春天を勝利しているウマ娘が多いようですが。"』

『"そうですね。遠泳は見た目以上に体力を使いますから。ゴールドシップやキタサンブラック等、名ステイヤーたちが担当するのは道理でしょう。"』

 

先ほど話していたメンバーは4人全員が天皇賞(春)を勝利したウマ娘。

第1区間はさしづめ"ステイヤー頂上決戦"だ。

 

モニターは次に第2区間へ。

砂浜から上がった道路で、各ウマ娘が自身の乗る自転車のメンテナンス中だ。

 

「自転車なんて久しぶり。いいね、何だか楽しくなってきた。」

「あたしはバイトでよく使ってるの!自転車でも逃げ切っちゃうから、みんな覚悟してね!」

「自転車でも、先頭の景色は譲りません。」

「ふふ...流石に素晴らしい実力者ばかりのようです。私も、オルの代役として相応しい走りをお見せしましょう。」

 

『"第2区は一転してスピード自慢が集まりましたね。"』

『"足の回転の差が如実に出る種目です。他と比べて、マイラー寄りのメンバーが大半ですね。"』

 

第2区はバブルにアイネス、スズカにドリームジャーニー等。

朝日杯を始めとしたマイルで実績を持つウマ娘が多く集っていた。

自分の足ではない、自転車という道具でどこまでスピードを発揮出来るかがポイントになるだろう。

 

リズムよく、次は第3区画。

第1区間と同じく海の見えるロケーションだ。

 

「はーっはっはっはっ!!よくぞこの舞台に馳せ参じたね!我が生涯のリヴァーレたちよ!!懐かしきその熱を以て燃え上がらせておくれよ!このボクという太陽をっ!!」

「はぁ...別にあなたの為に来たわけではないわ。」

「おいおい!世紀末覇王にトップロード、しかもセンパイダービーウマ娘までいやがる!水泳なんかじゃ満足出来ねェ!!終わったら勝負しようぜ!ちょっとくらいレース場使ってもいいだろ!?」

「まずは先輩として、リレーをちゃんとこなしましょうポッケちゃん。でも、またこうしてアヤベさんやオペラオーちゃんと競えるなんて...すごく嬉しいですっ!私、絶対負けませんっ!!」

 

『"第3区は、なんと三冠を分け合った覇王世代が揃い踏みですね!?"』

『"邂逅相遇。というより、運命かな。ジャングルポケットを含め、テイエムオペラオーに一度は土を付けた強者が揃った。覇王包囲網再び、と言ったところだろうか。"』

 

合わせたわけでもないのに重なってしまう、クラシックの頂点を競ったライバル同士。

ジャパンカップで激突したポッケも加えて、因縁の深い組分けとなる。

あまりに熱い展開に、ポッケと同じく普通のレースを見たいと観客のヤジまで飛んでいた。

 

しかし、運営は泰然自若。

モニターは長距離ランを担当する第4区間を映し出す。

 

「光栄です。素晴らしい走りで絆を紡いだ、あなた方と競う機会を頂けるなんて。」

「won't let my guard down. -----お前も、強者だ。」

「もぐむぐ...ごくん。...二人とも。」

「な、なんでしょう...?」

「...ゴクリ。」

「二人の髪はサラサラでフワフワだな。何か気を付けていることがあるのか?最近は白くなって来たからか、所々引っ掛かるんだが...。」

「へ?髪、ですか...?」

「......おすすめを、教える。」

「イェーイ!ワガハイはトウカイテイオーだぞー!カイチョー見てる~!?ボクの大活躍、ちゃんと見ててね~!!」

 

『"まったく...相変わらずだな、テイオー。"』

『"あはは...第4区はオールスターと言いますか、人気の高いウマ娘が集まりましたね。"』

『"ええ。最終区間をクラシック級ウマ娘に任せるチームがほとんどですから、実質的なアンカーを担っているんでしょう。まあ少し、マイペースな者が多い気もしますが...。"』

 

上り坂も下り坂もある長いロードコース。

担当メンバーは応用力に優れたウマ娘が選ばれている。

特に有マ記念を制したテイオー、クリスエス、ピサ、そしてオグリの競演はまさにファンからすれば夢そのものである。

 

非常に豪華なウマ娘たちばかりだが、主役はあくまでも今を駆けるクラシック級ウマ娘たち。

モニターは再び東京レース場に戻り、コースに並んだ若手ウマ娘をフォーカスする。

 

『"そしてお待たせしました。最終第5区。上半期を盛り上げたクラシックウマ娘たちがずらりと東京レース場に並んでいます!"』

「ちょっとあなた。少しは愛想良くしたらどうなの?」

「アタシに指図しないで。うるさいだけよ、あんなの。」

「っ...仮にも樫の女王でしょう!?あなたには誇りというものがないの!?みんなあなたを応援してるのにっ!」

「うるさい...!誰が頼んだってのよ!」

 

何やら揉めている桜と樫の女王からはカメラをずらし、モニターは笑顔で手を振る重賞ウマ娘たちでいっぱいに。

しかし、すぐに観客も一番の主役たちがいないことに気付いてしまった。

 

『"おや?ティアラの二人はいるのにクロワデュノールとミュージアムマイルの姿が見えませんね。上位争いで存在感を示したマスカレードボール、サトノシャイニングもいないようですが...。"』

 

実況の指摘にざわつく観衆。

既にファンの多い4人、しかもダービーウマ娘が不在ともなれば不満の声が上がるのも当然だ。

やぶ蛇だったかと慌てる明坂を制し、ルドルフが少し声音を変える。

 

『"お待たせして申し訳ありません。ですが、彼女たちは今、総仕上げの最中です。必ず一回りも二回りも成長した姿をこの場で見せてくれるでしょう。一日千秋の心境は承知の上。今はただ信じて、彼女たちの到着を待ってやっては頂けないでしょうか?"』

 

堂々としながらも真摯な言葉。

野次は皇帝を称える歓声へと変わり、レース場の雰囲気は再び祭りの様相を取り戻す。

 

『"チーム分けはモニターの表示通り、お手元のパンフレットもご参照ください。それでは、いよいよ出走となりますっ!"』

 

ノールたちの到着を待たず、スタートの合図が夏の府中に木霊する。

アンカー出走まで、残り時間はあと僅か。

 

――――――――――――――――――――

 

「なん、だろ...急に、何も...見えなく...っ」

 

迷路に入ってから数分。

あれだけ強かった日差しは見る影もなく、視界を白く重々しい靄が包む。

しかも、異変はそれだけではなかった。

何故かノールの意識まで朦朧としていき、ふらふらとまるで彷徨うような足取りとなってしまう。

やがて起きているとも、眠っているとも分からない程意識が溶け。

 

「ぇ...?」

 

気付けばノールは、()()()()()()()()()()()()()()()

わけが分からず顔をペタペタと触るが、その手もやはり小さく、動揺は更に強まる。

 

『"ドゥラメンテ二冠達成ー!!阻む者は誰もいなかったぁぁーー!!"』

「っ...?」

 

突如聞こえた実況に周囲を見渡すと、そこはもう"東京レース場"だった。

目の前を駆け抜けたのは、二冠ウマ娘ドゥラメンテ。

ゴール板にはハッキリと"日本ダービー"の文字が書かれていた。

 

「...すごいっ!かっこいいー!!」

 

あまりにおかしいこの状況も、今のノールにはもう気にならないようだった。

大歓声で迎えられるダービーウマ娘を、キラキラとした憧れの眼差しでただ見つめる。

しかしその視界に、遅れてゴールしたあるウマ娘が映り込んだ。

 

「っ...負け、ちゃった...っ」

「ぁ...おねぇ...?」

 

キタサンブラックだ。

あれはもう、悔しいとか悲しいとかそういうレベルの表情ではない。

ただ1つの輝きを失ったかのような絶望。

どうすればいいのかまったく分からないという、()()()()()()()ウマ娘の顔だった。

 

「あたしはあたしらしくっ...!泥臭くても絶対にっ!諦めないっっ!!」

『"内からキタサンブラックだ!祭りだ淀は祭りだ!キタサン祭りだっ!!"』

「やった...やった!やったぁ!おねぇー!!」

 

場面は一変し、舞台は京都。

菊花賞を制したのは、先ほど絶望したはずのキタサンだった。

決して楽勝とは言えないギリギリの勝利。

それはその後のレースでも同じ。

根性で競り勝つような、綱渡りの戦い。

いずれも命を削るような魂の激走。

それを何度も何度も繰り返す。

 

「どう、して...?」

 

幼いノールには、レースに出ることすら恐ろしく思えた。

あれだけ頑張ったのに。

あんなに願ったのに。

負けたら全部台無しなのに。

なのに、なぜ?

なぜ戦い続けられるのかとキタサンを観察し続ける。

 

「恐いのっ...私もう、走れなくなっちゃった...あの時のことを思うと、足が...足がもう、動かなくてっ...!」

「...大丈夫。だって、ダイヤちゃんはすごいから。あたしの自慢の親友で、ライバルなんだから。また、走れるよ。絶対に。」

「無理...無理だよっ!気持ちだけじゃ、思い出だけじゃ勝てないっ!走れないっ!キタちゃんだって一緒じゃない...!!」

 

やがて辿り着いたのは、ノールがまったく知らない光景。

身体を震えさせながら嗚咽混じりに叫ぶダイヤに、微笑んだままのキタサン。

キタサンはダイヤの手を優しく握り、"それでも"と言葉を返す。

 

「走れるよ。勝てるよ。あたしには...ううん、あたしたちに限界なんてない。何回も、何度も諦めかけてきた。けど、諦めなかった...!あたしは負けない。有マ記念で、勝つ!だから見てて、ダイヤちゃん。あたしの引き際、最後の祭り。終わりじゃない、進み続ける為のラストランをっ!」

 

そして、舞台はついにあの有マ記念へ。

ノールの記憶にも確かに焼き付いた、スターの引き際。

大好きな姉が、みんなの永遠の愛バとなった瞬間。

 

「やっぱり、おねぇはすごいや。」

 

何度も何度も絶望し、諦めかけて。

それでも必ず立ち上がり、限界を超えて見せたその偉大な背中。

近くにいた存在が、また遥か遠くに行ってしまったような感覚がして。

自分のちっぽけさを思い知らされるような気分だった。

 

その余韻を掻き消すように、次に現れたのはイクイノックスのレースシーン。

天才と呼ばれた彼女がいかに傷つきながら走り続けたのか。

体質故に憧れと同じ舞台を走れず、憧れと同じレースでトゥインクル・シリーズを終えることも出来なかった。

"最強"でありながら、完璧"ではなかった悔しさを。

ノールが知り得ない、等身大の彼女の想いが目の前に広がっていた。

 

「.....。」

『それで?』

「え...?」

 

決して輝かしいばかりではなかった、二つの背中。

その真実を垣間見て踞るノールに、誰かが声を掛けた。

 

『自分にも出来るって、まだ思えるの?』

 

誰かとは、()()()()()だった。

普段と変わらない、成長した今のノール。

それが幼い自分に、呆れた声で語り掛けて来た。

 

『よく考えてごらんよ。これまでは偶々上手くいっただけ。ダービーだって、後一歩で負けてた。菊花賞に行っても、天皇賞に行っても。きっと勝てっこない。あの二人がどれだけのギリギリを超えて来たか、よく分かったでしょ?お前に...私なんかに、同じことが出来るわけないじゃん。』

 

そうなんだろうか。

...たぶん、そうか。

自分の言葉に否定出来る部分はまったくない。

お姉はすごい。

イクイノックスさんもすごい。

でも、私はすごくない。

なら、出来ないに決まっている。

 

『このまま止まっちゃいなよ。諦めれば、これ以上傷つくことなんてない。ダービーを勝てたんだから十分じゃないか。』

 

どちらの背を追いかけたとしても、待っているのは届かない絶望。

ならいっそ、止まってしまえ。

諦めてしまえ。

その方がいい。その方が、気楽で。

だからきっと、たぶん。

 

「...そう、かな?」

 

()()()()()()と思った。

諦めることだけは、絶対に出来ない。

自分があの二人に憧れたのは、彼女たちが成功者だったからではないと。

今ならハッキリと分かる。

 

彼女たちは、諦めなかった。

もしギリギリの先で敗北を重ねていたとしても、彼女たちは決して諦めなかっただろう。

最後の最後まで止まらず、どんな困難な道のりでも走り続ける。

憧れに届かないと絶望しても、それでも信じて進んで行く。

その姿こそが、ノールの目指した輝きだったはずだ。

 

「私がお姉より強いとか、イクイノックスさんよりすごいとか。そんなの、思えるわけない。だけど、思う必要なんてない。」

 

憧れは、超えることを諦めない覚悟。

憧れを超えるとは、道をなぞりその成否を比べることではない。

 

「どんなに難しくて不相応な夢でも、逃げずに立ち向かう。ボロボロになっても、歩みを止めたりしない。私は、進み続けなきゃ。」

 

言葉と共に脳裏に浮かんでは消える、敗北の可能性たち。

 

惜敗続きで結局勝てずに引退する姿。

大怪我を負って、志半ばでレースから去る姿。

みんなの王者とは程遠い、先細りのレース人生。

 

そんな光景を垣間見ても、ノールの答えは揺るがない。

 

「二人も憧れを追ってた。届かないと知っても...それでも自分らしく、自分の限界に挑戦し続けたんだ。だから、私もそうする。お姉たちが勝てなかったダービーを獲ったウマ娘として...今出来る()()()()()()を、私は選ぶ。」

 

ダービーウマ娘としての誇りを胸に。

"未踏"の頂きを目指すと、ノールは決意した。

その挑戦もまた、数多ある可能性の1つ。

しかしその末路を見せることはせず、もう一人のノールは静かにほくそ笑む。

 

『後悔するよ。絶対にね...。』

「それでも...やってみなきゃ、何も始まらないでしょ?」

 

幼かったノールの顔は、いつの間にか今の姿に戻っていた。

挑戦的に笑う彼女に納得したのか、それとも諦めてしまったのか。

もう一人のクロワデュノールは段々と景色に溶け消えていき、気付けば目の前には大自然が広がっていた。

太陽輝く空に潮騒が響くジャングル。

 

「あれ...?私、どうして...?」

 

自分は確か迷路に入って、それから。

思い出そうとしても思い出せない、何かがあったはずなのだが。

 

「...でもなんか、スッキリした気がする。」

 

昨日まであれ程悩んでいた進路に対して、今はすんなりと答えを返せている。

それだけで、妙な達成感がノールの中に満ちて来るのだった。

 

「...早く行かなきゃ。」

 

少し進んだ先に"ゴール"と書かれたゲートが設置されている。

釈然としない部分はあるが、今はとにかくリレーに合流しなくてはならない。

真っ直ぐに駆け出し、ノールはついに迷路を抜け出した。

 

「あ。」

「お?」

「ん...」

 

タイミングを合わせたように、左右から同時に飛び出してくるミューズとマスカレード。

ぶつかりそうになるのを急ブレーキで抑え、お互いの顔を見合う。

 

「ま、楽勝だったな。」

「...こういうのは、慣れてる。」

「すごいな二人とも。私は結構大変だった...?気がする。」

「...でも、嬉しそう。」

「見つかったかよ?答えは。」

「うん...決めたよ、自分で。」

 

分からないなりに互いの身に起きたことを察し、軽口も交えて笑い合う。

僅かな時間だったが、彼女たちは確かな成長を得たようだ。

待ち構えていたタッカーが拍手で迎え、裏方のウマ娘たちもそれに続く。

 

「Congratulation!迷いの試練!見事クリアだァー!!」

「遅いぞおまえらー!早く助けろ輝かせろー!うーしゃいしゃい☆!」

「態度でかいし意味わかんねーし最後のはお前のじゃねーだろ割られるぞ海みたいに。」

「えー、これにてトレセン島の試練無事クリアとなるわけだが、改めてこの合宿の趣旨を」

 

最後らしく上手いことまとめようとタッカーが長話を始めるが、簀巻きシャイニングはやかましく騒ぎっぱなし。

とりあえず解放してあげては?と口を挟もうとするが、三人は生来真面目な性分。

歳上が熱く語っているのに邪魔するなんて、とても出来なかった。

そんな微妙なやり取りを完全に無視し、カタカタと興奮した様子でキーボードを叩くウマ娘がいた。

 

「素晴らしい!外見上は霧がかかったくらいだが、この迷路の走破タイムを見たまえ!明らかに速すぎる!まるで誰かに案内してもらったかのようだ!リレーとやらのデータも是非取らせて欲しいねぇ!非常に興味深いよぉ!!」

「ロジカルじゃねぇ...大体こんなヤツら集めたからって何で天候が変わる?霧ってのは」

「コーヒーは、いかがでしょうか...?暑いので、アイスでご用意したのですが...。」

「ありがとう、頂くよ。ところで、ここにあったリモコンはどこに?そろそろ彼女を放してあげないと」

 

何やらごちゃごちゃとした裏方。

まるでまとまりのないカオスな状況の中、その更に奥ではちょっとした揉め事が起こっていた。

 

「ヤダヤダ!ここ暑くてきらーい!早く帰らせなさいよー!」

「フギャー!?お待ちくださいスイープさん!?それはロケットのリモコンであって帰りの水上バイクとはまったく関係ありませんっ!テキトーに扱うとシャイニングさんの運勢が急転直下の大大大凶にぃ~!?」

「スイープちゃんの吉方位はこっち!落ち着いて、一旦戻って来てくれないかな?」

「何よ、キッポーって?...それって、新しい魔法!?」

「魔法?ううん、違うよ。風水は根拠のないおまじないなんかじゃ」

「アンタ今魔法をバカにしたわね!?もう許さないっ!カボチャの魔法をかけてやるんだからっ!!」

 

駄々を捏ねるトンガリ帽子のウマ娘の手には、分かりやすいくらいに危険そうなテーピングをされた赤ボタン付きのリモコンが。

説得むなしく、杖代わりに振るわれたリモコンは宙を舞い、よりにもよって()()()()()()()()()()()地面へと落下した。

 

「「「あっ。」」」

「「ん?」」

「少し、香りが...気温の問題、でしょうか。」

「待ってくれ!?まさか...!」

 

ポチっとな。

奇跡的に押されてしまったスイッチに博士が気付くが、時既に遅し。

ゴゴゴッ!という点火音を響かせ、シャイニングをくくりつけたままミニロケットが目を覚ます。

 

「お?なんだ?なんだなんだ?おっ?おおっ?」

「で、あるからしてェ!本能とはつまり...ん?」

「シャイニング、ちゃん...?」

 

校長先生の話並みに長い締めの言葉。

今にも寝落ちしそうなノールたちの目にも、その異変は飛び込んで来た。

 

「え。確かこのロケットは見た目だけで飛べないと」

「それを"派手に打ち上げられるようにしてくれェ!"と言ったのはキミだろう!?」

「何?何でちょっと浮いてんだあれ。」

「...煙たい。」

「シャイニングちゃん...!?」

 

轟音と煙を巻き上げ浮上していくロケット。

漸く事態を理解したノールが駆け寄るが、今更どうすることも出来ない。

 

「...ちょっと、地球照らしてくる☆」

「いや冗談言ってる場合じゃ」

「シャぁぁイニーーーーングッッ!!☆」

「うわぁシャイニングちゃあぁぁーん!?!?」

 

キメ顔とサムズアップを残し、ついに遥か彼方へ打ち上げられるシャイニング。

ノールの叫ぶ声も、最早シャイニングには聞こえない。

彼女は本当の意味で、皆を照らす太陽となったのだ。

 

「"観測"。届いてる、青い星。綺麗、だね。」

 

第4区ランナーが最終区間に到達するまで、残り約20分。

 

――――――――――――――――――――

 

『"一進一退の攻防が続くリレーもいよいよ後半戦っ!先頭はトウカイテイオー!すぐ後ろにシンボリクリスエス!ヴィクトワールピサは少し離れた位置で脚を溜めているぞ!!"』

 

長かったトライアスロンリレーも既に第4区終盤。

漸く視界に入った東京レース場目掛け、走者たちがラストスパートをかける。

途中区間ではゴルシが逸走してカツオを追い掛けたり、スズカが止まれなかったり、オペラオーに巻き込まれる形で全員がサメに追われたり。

そこそこのアクシデントはあったが、なんやかんや上位4チームが接戦で最終局面を迎えていた。

 

「カイチョー!見ててねぇ~!!」

「まだ、だ...!」

「させませんっ...!」

 

長距離走は本来向いていない面子のはずだが、そこは流石のレース巧者。

しっかりと全員が体力を温存し、抜け出そうとするテイオーに食らいついていく。

このまま三人の勝負になると思われた、その時。

 

『"外から外から!オグリキャップ!!オグリ来たオグリ来た!!葦毛の怪物は未だ健在だぁぁ!!"』

「私は、負けられないっ...!みんなと、勝つんだ...!特賞の大豊作にんじん祭りは絶対に渡さんっ...!!」

「やっぱ食い意地じゃーーん!?!?」

 

外側から凄まじい勢いで追い込むオグリキャップ(腹ペコ)。

食への渇望、もとい勝利への渇望を胸に三人を抜かして一気に先頭に立つ。

しかし、三人も決して離されない。

有マ記念ウマ娘たちによるまさに夢の対決に、会場は大盛り上がり。

そんな歓声と走る先達たちの熱量を感じ取り、ついに主役たちが到着しようとしていた。

 

「あれだ!ナビだとあそこが目的地になってる!」

「東京レース場じゃねぇか!?トライアスロンなのに最後はガチンコさせる気なのか!?」

「...好都合。博士、あとどれくらいですか?」

『海岸まではすぐだ!しかし会場まではとても...』

 

水上バイクを華麗に乗りこなすのは、メカウマ娘ことフルダイブ型ロボットST-2(サティ)

その後部座席にノールたちは搭乗していた。

目的地と思われるレース場は見えることには見えるのだが、岸に辿り着いてから向かう距離を考えると時間が明らかに足りない。

ST-2にダイブしたシュガーライツ博士は少し躊躇いながら、何かを決意したように手元のボタンを押下。

 

「な、なに!?」

「えちょっ!?」

「...デジャブ。」

 

後部座席の三人の体に、背後から突然ランドセルのような噴射口付きの装置が取り付けられた。

脳に過るは星になった輝き娘。

装置が似たようなものだと察し、三人は同時に走ウマ娘灯を見た。

 

『間に合わせる為だ!大丈夫!シャイニングと違って命の心配はない!』

「シャイニングちゃんは心配しかないってことです!?」

「怪我したら訴えるからなトレセン学園!?」

「...テイク、オフ。」

『三人とも!健闘を祈るっ!』

「祈るなら無事にしてえぇぇー!?!?」

 

勢いよく吹き上がるジェット噴射。

何故か少し楽しそうなマスカレードはともかく、残り二人は絶叫し情けない声をハウリングさせながら宙を舞う。

しかし、安心して欲しい。

こちらはライツ博士謹製の高性能ジェットパック。

何とGPS搭載型、自動で目的地まで運んでくれる便利過ぎるアイテムである。

テストは数回しかしていないが、勿論死人は出なかったので問題ない。

 

「テイオーさあぁぁーーん!?!?」

「え...えぇ!?ノルちゃんが飛んでるー!?」

 

クルクルと回転しながら、いつの間にか駆ける先達たちの真上までやって来るノールたち。

当然驚くが、事情を聞く間もないまま彼女たちは東京レース場に入場。

唖然とする観客たちと同期のアンカーたちを尻目に、ジェットパックを脱ぎ捨て着地する三人。

最早考えている暇などない。

 

『"なな、なんとぉ!?ここでクラシック二冠を湧かせた主役三人が空から登場だあぁぁ!!"』

「ノルちゃん!」

「はいっ!」

「マスカレード。」

「任されました!」

「ミューズさん!」

「おっしゃあ!」

 

それぞれの先輩から想いとタスキを託され、三人は府中のターフを疾走する。

待ちに待った光景に、観客たちのテンションは最高潮。

ノール、マスカレード、ミューズ。

各々を呼ぶ声が会場全体に響き、その様相はまるでグランプリ。

当人たちも予想だにしなかったレースとしての再戦に、どうしようもなく血が滾ってしまっていた。

 

『"先頭はダービーウマ娘クロワデュノール!マスカレードボールとミュージアムマイルはマイペースで上がっていくが他を突き放した走り!やはり最後はこの三強か!!勝負はついに最終直線ですっ!!"』

 

あっという間の2000m。

府中の長い直線が、彼女たちの雌雄を決する舞台となった。

ダービーを彷彿とさせるデッドヒート。

三人は同時にスパートをかける。

 

「アタシはもう二度と負けない...!!」

「前みたいにはぜってぇさせねぇ!!」

「私が勝つっ!ダービーウマ娘を、なめるなぁぁ!!」

 

ノールが離せばマスカレードが詰め寄り、ミューズは徐々に加速し前に迫る。

実力伯仲の、意地と意地の張り合い。

残り100m。

三人はまったくの横並びとなり、そのままゴール板が目前へと迫ってくる。

 

『"クロワかマスカレードかミュージアムか並ぶ並ぶ抜かせない抜かせない!!まったく横並びで今っ"』

 

「シャーイニ~~ング!!☆」

 

「「「は?」」」

 

ゴール板を駆け抜けようとした次の瞬間。

謎の飛行物体が三人を抜き去った。

その物体は空中で錐揉み回転をすると、呆然とした顔でしゃがみ込むノールたちの前に華麗に着地した。

 

「すたっ!...ふふっ...ふはわぁーはっはっはっ!!ついに!ついに倒したぞクロワデュノールぅぅ!!わたしこそ最光だあぁぁ!!☆」

『"なんとなんとっ!最先着はサトノシャイニングだぁぁぁ!!"』

「えぇぇーっ!?!?」

 

まさかの勝者サトノシャイニング。

勝敗よりどうやって無事にあのロケットを使いこなしたかが気になってしょうがない。

そんなのありか!?と驚きシリアスを忘れるノールたち。

高笑いするシャイニングの声だけがレース場に響く。

 

「シャイニング。」

「なんだオグリンっ!わたしは最強のサトノシャイニングなんだがっ!わっはっはっはっ!!」

()()()()()()()()()。」

「わっはっはっはっ!......TASKIぃ?」

 

オグリから手渡されたタスキと、他のアンカーが掛けているタスキを見比べる。

一瞬の間を置いて滝のように吹き出す冷や汗。

 

『"なんとサトノシャイニングはタスキを受け取らずゴールしてしまっていました!!大会規定により失格となりますっ!!"』

『"そもそも走っていないのだから...いや、何も言うまい。失格だ、シャイニング。"』

「うっっそおぉぉーーんっっ!?!?!?」

 

断末魔を上げてパタリと倒れるシャイニング。

壮絶な討死であった。

 

「じゃ、じゃあ...勝ったのは」

「オレか?」

「アタシ...」

 

ロケットが失格になった以上、勝ったのは三人の内の誰かとなる。

期待を込めて判定を待つが。

 

『"クロワデュノール、マスカレードボール、ミュージアムマイル。彼女たちはタスキを受け取る地点が後ろ過ぎます。よって、三人共に失格です。"』

「「「嘘だあぁぁ!?!?」」」

 

絶対皇帝による無慈悲な判決。

確かに、ノールたちは決められた白線より後ろでタスキを受け取っている。

まさか走り出す前に勝負が決まっているとは誰も思うまい。

見事なズッコケを見せ落ち込んだ後、三人は誰からともなく笑い出す。

 

「はっ...何だったんだよあの最終直線!」

「ふふっ...骨折り損。全体的に。」

「ははっ!本当だね!でも...楽しかったぁー!!」

 

思えばあまりに濃い一週間だった。

素晴らしい先輩たちに色々なことを教わり、突然無人島に放り込まれ。

ライバルと確かな友情を築き、自らの迷いを乗り越えた。

無茶苦茶だったけど、楽しかった。

本当に楽しかったと、三人は声を出して笑い合う。

 

『"繰り上がりの着順を発表する前に、今年の上半期を代表してクロワデュノールさん。何か一言、感想を頂けますでしょうか?"』

「え!?わ、私ですか?」

 

向けられたマイクに驚くノール。

ミューズとマスカレードに背中を押され、背筋を正して何とか言葉を捻り出す。

 

「えっと...まずは、今日は私たちウマ娘の為に集まってくださり、本当にありがとうございます!私もみんなも、とても貴重で大切な時間を過ごせました。この経験を忘れず、力に変えて。私たちはまた更に強くなります!ですから、楽しみにしていてください!これからも、応援宜しくお願いしますっ!!」

 

瞬間、会場全体は拍手喝采の嵐。

真面目なノールらしい挨拶に苦笑いしながら、同期のウマ娘たちもまた観客たちへ頭を下げ感謝を表す。

 

『"素晴らしいコメントありがとうございます!これからが本当に楽しみな方々ばかりで"』

「あ、すみませんっ!もうちょっとだけいいですか?」

 

まとめようとする司会のコメントを遮り、ノールが再びマイクを握った。

困惑し、静まり返る会場。

気まずい気持ちはある。

それでも、言わなくては。

これは自分自身の逃げ場を無くす、大切な儀式でもあるのだから。

 

「私、行きます。ダービーウマ娘として、今出来る全力を果たす為に。」

『"行く、とは...?"』

 

明坂の質問に頷き、深く息を吸う。

菊花賞でもない、天皇賞(秋)でもない。

憧れを超える為に、クロワデュノールがした選択。

それは。

 

「私は、()()()()()()()()!」

 

――――――――――――――――――――

 

『これもすっごくいいんですけどっ!私たちもっとトレセン学園を盛り上げなきゃいけないと思うんです!』

『ふんふん』『たしかに』『ほぉ』『はあ』

『せっかくのお祭り騒ぎちょっとだけスピードアップしませんかっ!?』

『音頭でスピードあっぷー?』

『さあみんなはっじまるよー!』

『はやっ!?』

 

花火が夜空を照らす祭りの最中、中心ステージで歌い踊るノールたちを遠巻きに見守る。

 

「驚きましたか?突然のことでしたし。」

「いや。なんと言うか、ノールならそうするかもなって。」

 

浴衣姿のクロノと話しながら、イベントの後夜祭を楽しむ。

...楽しめては、いないか。

だって。

今自分の頭には、かつて行くことすら叶わなかった舞台がずっと浮かび続けているんだから。

 

笑顔でパフォーマンスをこなすノールを見つめ、自然と拳を握り締める。

彼女なら、きっと出来る。

手が届くはずだ。

最果ての悲願でさえも。

 

「これからが、本当の戦いだね。」

「トレーナーさん...。」

 

だからこそ、俺だ。

俺が絶対に、クロワデュノールを。

 

「凱旋門賞ウマ娘に、してみせるっ...。」

 

――――――――――――――――――――

 

 

「Tu as encore fait tout ce chemin depuis le Japon? Juste pour perdre.」

 

「未踏。...下らん。道化にもなれぬか。無駄足だったな。」

 

 

遥か遠き悲願、"凱旋門賞"。

 

 

「だって今日は、ぼうるちゃんが勝つ日なんだからっ!」

 

「キミを倒しに来たんだ。日本風にいえば..."復讐"、かな?」

 

「どんなに怖くて情けなくても、逃げないって決めたから!それが約束なの!大切な、大切な友だちとした約束!」

 

「願いを一番に背負っているのはこの私。なら、勝つのは私に決まっているでしょ?」

 

「あの人は、どうでもいいけど...。でも、グランプリ連覇出来たら...おじいちゃん、喜んでくれるかな...。」

 

「有マで勝つ。それでオレが、最強だ。」

 

「あなたを倒し、女王を倒し。アタシが世界最強を証明する。」

 

 

そして、

"天皇賞(秋)"

"ジャパンカップ"

"有マ記念"。

 

秋シニア三冠を巡り、

強者たちが今躍動する。

 

 

「なかなか面白かったよ。多少は、ね。」

 

「楽しかった?フランス旅行。」

 

「そんなもんじゃねーだろお前は...ッ!!」

 

「強いのにっ...スゴいのにっ...!なんで諦めるのっ!?走ってよっ!勝ってよぉっ...!!」

 

 

命沸く沸点。

削り合いになったとしても、

彼女たちは疾走し舞い続ける。

悔しくて、悔しくて。

それでも、競うことを止められない。

 

 

 

「もうあなたの背中は見ない...。

さよなら、クロワデュノール。」

 

 

 

次回より。

クラシック後編、開幕。

 

 

 

「無理、だったんだ...。

私じゃ、やっぱり...世界最強(イクイノックスさん)になんて、なれないんだ...っ」

 

 

 

 

それでも、走れ。

 

 




オリジナル部分だからかめちゃくちゃ長くなりすみません。
次回からいよいよ本番。
熱くなるのはここからですね。
読んで頂き、本当にありがとうございました!
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