ダンジョンの最奥にTSアイテムを置くな   作:いちごゴーレム

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よろしくお願いします


1.たまにはTSするのも悪くない(ヤケクソ)

「……んっ……」

 

 頬に冷たい感触がする。ぼうっ、と天井を見つめる。薄暗くて、岩肌があるような空間。体がべたべたとしていて気持ち悪い。泥がついている。

 

 そういや、ダンジョンにいたんだっけ。

 

 体を起こそうとするときに、体に妙な違和感がある。手足の感覚が違う。体を起こしてから手足を確認する。なんだか小さいような。

 

「……んんっ、なにこれ」

 

 喉の調子もおかしい気がする。俺の声はもっと低かったし、まるで女の声になったみたいだ。

 

 ふと、視線をしたに下げる。胸元に膨らみが見えた。

 

「んっ……」

 

 ……まじか。触れてみると、柔らかい感触がする。手の体温が伝わる。完全に体の一部だ。

 

 …………いやいやいや、そんなことないって。そういえばスマホを持っていたはず。インカメを起動する。

 

 いえーい。……うん。

 

 黒く伸びた髪、少し肌が白くて泥にまみれていても美しさがわかる、そんな少女がそこにいた。

 

 …………えーっと。

 

「どういう状況だよ!」

 

 ああ、なんか叫ぶ声も違和感があるっ!

 叫んだ勢いで長い髪が垂れて視界を狭める。なんかもう、なんかさあ。ズボンもスースーするし。

 

 なんでこうなったんだっけ。今までを振り返ってみる。

 

 

 めちゃくちゃ省略すると、俺は転生者でなんか不人気なダンジョンに行ったらいいもの見落とされてたりしないかな、とぼっちでダンジョンに潜ってる。

 

 ……ちょっと省略しすぎたかな。

 

 俺――結城玲はこの現代にダンジョンが出るタイプのファンタジー世界に転生してきた。こういうのって、原作があるものだと思うんだけどあいにく俺は知らない。

 

 ただ、主人公みたいな存在はいる。困ってる人を放っておけないタイプで、いつの間にかハーレムを作ってる。うらやましいね、本当に。

 

 そんな世界で俺は高校生になってもぼっちでダンジョンを潜っている。……友達いないんだからしょうがないじゃん。

 

 こういう作品って、誰も潜ってないようなところにお宝があったりするから、そういうのにチャンスをかけて汚くてデバフまき散らすようなモンスターが出てくるダンジョンに来ている。

 

 んで、奥の方に誰も見つけてなさそうな空間がたまたまあった。なんで調べられてないかっていうとめっちゃ汚いからみんな詳しく見てないだけだと思う。

 

 その空間の中心にある黒い腕輪を拾って、試しにはめたんだっけ。今も、その腕輪がついたままだ。

 

 ……もしかして、この腕輪をはめたからってことかな。

 

 えっ、ダンジョンの奥地にTSアイテムを設置するタイプなの……????

 

 いやいやいや。そんなまさか。ってかこれ外れないし、なんなの本当に。

 

『そう思いますよね』

 

 ついに、幻聴まで聞こえてきた。あれだ、一旦帰ってから考えるか。ここ汚いし。体中が気持ち悪い。早く風呂に入りたい。うう、ベタベタして気持ち悪い。

 

『そうなんですよね。こんなところに封じられてていやがらせ半端なくてですね』

 

 戻るだけなら多分問題なさそうかな。この体のままだと戦えるかはわからないけど。

 でも、不思議と力が漲っている気がする。腕輪の効果って他に何かあるのかもしれない。

 

『あの?聞こえてないふりやめてもらえます?おーい』

 

 ……うん、幻聴か。なんか腕輪から響いている気がするけど。

 

 にしても女の子になってるのとかどうしようかな。なんでそもそも性別変わるんだよ。

 

『うーん、私のせいですかね』

 

 えっ、このうるさい声のせい?

 

『え、聞こえてるじゃないですか。さすがに温厚な私でも怒りますよ、ぷんぷん』

 

 えっ、うざ。TSとうるさい声の二重苦か……。

 

『泣きますよ?』

 

 というか、この声なんなんだろう。妖精みたいな感じかな。

 

『どうも、魔女です!』

 

 ……めちゃくちゃ厄ネタじゃん。魔女って名前で厄ネタじゃないことないんだから帰ってね。いや、帰るは俺の方なんだけど。

 

 重たい体を起こして立ち上がる。気だるげだけど、問題なく動けそう。元々持っていたナイフも使えそうだし。

 

『戦闘もありってことですね!』

 

 やけにテンションの高い声を無視して、今いる部屋を出る。この場所、扉を持つだけでも嫌な感触がするから本当にやだな。

 

「よいしょっと」

 

 出口まではそんなに遠くないはずだから、軽く走ってみる。ふわっと浮くように進む。なんだこれ、体が軽い。

 

 うわっ、正面に蜘蛛みたいなモンスターがいる。

 

「……えいっ」

 

 ぐっ、と地面を踏みしめて跳ぶ。空気が頬を撫でる。蜘蛛が反応するよりも速く接近する。

 すれ違いざまに反射的にナイフを振るうと、容易くそいつの顔面を裂いた。うげ、血のように変な粘液が飛び散って体につく。

 

 ……前までだったら、こんな一撃で倒せなかったはずなんだけど。なんか強くなってる?

 

『ふっふっふっ、どうですか?私の力。あなたの体に宿ることによって、大幅に強化しています!』

 

 この腕輪、いいこともあるんだ。うーん、それならいいのかなあ。

 

 おっ、奥にもう一匹いる。倒せるけど、同じようにやると汚れちゃうのがやだね。

 

『じゃあ、魔法使いましょうよ!』

 

 うるさい声だ。でも、確かに遠距離なら汚れないし。

 

 魔法ってあんまり使ったことないから、使い方が曖昧なんだけど。体に巡る魔力をイメージする。それを手に集めるように祈る。

 

「んぐっ……」

 

 体が熱い。体内で何かが暴れている。いや、なんか違う。魔力の制御が出来ていない。

 

「……はっ……はっ」

 

 体に膨れ上がるそれを、なんとか押し込めるようにしながらも手のひらから何かエネルギーのようなものが放たれる。バチバチと火花のようなものが弾けて、そのまま進んでいった。

 

「……ふーっ」

 

 土煙でよく見えないけど、モンスターには命中したらしい。叫んでるような声が聞こえてた。土煙が晴れると、焼き焦げたような後だけがある。モンスターの残骸すら残らなかったらしい。

 

『ふーん、魔法の制御が下手だとこうなるんですね』

 

 なんかバカにされてる。許せない。

 

『エロい声だしてる人に凄まれましても』

 

 いや、出してないけど!?戦ってるんだから、声ぐらいちょっと出るし。

 

 もういいや、先目指しちゃおう。走っているうちに、光が見えてすぐに出口に来た。早く帰ろう。

 

 久々に、外の空気を吸った気分だ。太陽が眩しい。

 

 ……それにしても、女の子になったときの対処法って教えてくれる人いるのかな。

 

『私でよければ』

 

 いや、魔女さんはいいです。……帰ってから考えよう。

 

 …………うん、まあ一旦TSを楽しむぞー!ははは……。はあ。

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