ダンジョンの最奥にTSアイテムを置くな   作:いちごゴーレム

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2.魔女は好き勝手してくるし

「うげっ……」

 

 自分の匂いを嗅ぐと酷い。なんか汗と混じってついた泥とかが合わさって最悪だ。家につくまでに泥ぐらいは落としておきたいな。

 

『いけますよ』

 

 え、いけるの?

 

『――知識の神、ヴァイスの名の下にここに奇跡を発現させる。天空を押し止め、大地を繋ぐ森羅万象を再現する魔法の力よ、汚れを落とす風をここに』

 

 え、詠唱?この世界、詠唱とかあったんだ。

 

 肌を風が撫でる。体の表面をなぞりながら付着していた汚れを巻き上げていく。うん、結構ましになった。

 

『ははは、ごめんなさい。詠唱は雰囲気を出そうとしているだけです』

 

 ……もうやだこの自称魔女。このダンジョンが来る前に戻りたい。

 

 自分の部屋に戻ろうと外を歩いていると、周囲からすごいじろじろと見られている。チクチク視線が刺さって怖い。……匂うからかな。モンスターの体液もついちゃったしな。

 

 なんとか家についたけど……もの凄い疲れた。お風呂に入りたいな。……お風呂に、入るか。

 

 服を脱いで放り投げる。……これ忘れてたけど女の体なんだよな。自分の体を直視できない、なんか罪悪感あるし……。あー、もういいや適当に洗うぞ!

 

『なんか焦ってて面白いですね』

 

 面白くねーよ!!!

 

 シャワーで軽く流してから湯船に浸かる。長い髪がお湯の中に広がる。……あー、風呂は癒される。嫌なこと多すぎるもんな。

 

『嫌なことって?』

 

 うん、お前とかかな。ガチで誰なんだよお前。

 

『え、異世界の魔女です。よろしくね』

 

 ……なんなの本当に。お湯から出した右手にはまったままの黒い腕輪を見る。思えばこれをはめてからなんだけど、これが原因であってるのかな。

 

『はい、その疑問に魔女さんがお答えします!なんと、正解ですね!その腕輪をつけた影響であなたはこうして女の子になって、私の声が聞こえるようになってしまいました』

 

 あのー、これって戻るんですか?

 

『んー、戻りませんね!』

 

 …………ぶくぶくぶくぶく。顔を半分沈めて、泡を立てる。え、本当に戻らないの?

 

『その原因の腕輪を外してみたら戻るかもしれないですけど、たぶん外れないしあんまり雑な外し方すると大惨事になりそうですから』

 

 ……ぶくぶくぶくぶく。お風呂って気持ちいいなあ。というか、髪洗うの大変なんだけど。こんなに長い髪触ったことないし。わっ、なんかさらさらだな。

 

『そんなに現実逃避しなくても。今だと可愛い女の子になってて、さらに強くなってる!とてもいいと思いませんか?』

 

 そういえばなんで、強くなってるんだろう。

 

『それはですねー、体が私に近づいてしまってるんでしょうね。女の子になったのもたぶんそれですね、見た目的にも私に似てますから』

 

 ……この腕輪はこの魔女を名乗る異常存在になれる変身アイテムってことなのかな。

 

『ちょっと、誰が異常存在ですか!』

 

 異常ではあるだろ。

 

 浴室の鏡を見る。よく見ると青っぽい黒髪、体は少しスレンダーで、白っぽい肌の可愛いよりは綺麗という言葉が似合うような女の子。これが魔女の姿か。

 

 たぶんこれ、闇堕ちキャラが拾ってラスボス化するためのアイテムだよな。なんか存在がラスボスっぽいし。

 

 ……髪洗うか。

 

 大苦戦しながらなんとか髪を洗って乾かす。疲れがどっと全身を包む。

 

 ……服着ながら思うけど、男物しかないのまずいんじゃないか?

 

『おお、意外とTS生活への順応への兆し!』

 

 うるせー!もうどうしようもないこと考えててもしょうがないんだよ!

 うん、買わないとダメか。……やだなあ。

 

『おっ、そんなあなたに朗報です!』

 

 えっ、何。

 

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 えっ、あの。なにこれ、じわじわと体の中に何か気持ち悪いものが広がってくる。手足から感覚が消えていく、胸の奥に侵入されている。体の制御が効かない。

 

「と、いうわけで異世界の魔女、アリアちゃん一時的復活です。うわ~、手入れ適当ですね。あーでも櫛とかもないですね。全部買いそろえてあげますか」

 

 自分の口が、自分以外の意思で動いている。気持ち悪い。

 

「安心してください。後で返してあげますって」

 

 ……体を乗っ取られた。やっぱこいつ、ろくなやつじゃない!

 

「ふふふ、まともなやつに魔女なんて呼称は使われません。特に、自分から言う人には要注意です」

 

 実例を出されたら何も言えないんだけど。……あの、本当に返してくださいね。

 

「私、傍観してるのも大好きなので当然返しますよ」

 

 そう言いながら魔女さんは俺の部屋を物色しだした。せめてましな服装とかを探しているらしい。そういえばアリアとか言ってたっけ。それが名前なのかな。

 

「ええ、魔女としての名前はアリアですよ。うーん、服もあんまり合わないですねーサイズも変わったから仕方ないかもですが」

 

 なんで含みのある言い方なんだよ、謎をちりばめてくるタイプのキャラやめてね。

 

 着てもいいと思った服装を見繕ったらしくて、俺の体を乗っ取ったアリアはそのまま外に出た。

 

 勝手に服を数着選んで買っていくし、その……下着も何着か購入していた。それから必要な日用品をいくつか。

 

 ……異世界の魔女とか言いながら、現代に順応しすぎだろ。

 

「ふふっ、魔女とは現代にも異世界にも適応できるものなんですよ」

 

 え、そうなんだ。……そういうものなのか?

 

 気が付けば、アリアの両手には買った袋がたくさんある。店員も何回か見返してくるし。

 

「まあ、認識阻害的な魔法をかけることもできるんですけど、目立って帰りますか」

 

 こいつ、本当に何なんだよ。ダンジョンの時と同じで周囲の視線に刺さりながら帰ることになる。最悪だ。

 

 うう、じろじろ見られてる。なんなんだよ。

 

「私の姿が美少女すぎましたか。魔女は美貌も当然持ち合わせているものですからね」

 

 ………………そっか。

 

 思考を放棄して、ぼーっとしている間に家についた。とりあえず、荷物を片付けている。

 

 ところで、いつ体を返してくれるんだろう。

 

「え、使います?」

 

 必要がないなら返してほしいけどね。

 

「いいですよ。でも明日からどうします?」

 

 え、明日なにかあったかな。

 

「え、学校通ってるんですよね」

 

 …………そうだった。どうしよ。

 

「いっそのこと女の子のまま行ってほしいけど、顔が別人ですからね。俺は結城玲だぞ!って言いに行ってもいいですけど、たぶん面倒なことになるし……ここはがんばって元の姿を偽りますか」

 

 えっ、そんなことできるの。っていうか面倒なことってなんだよ。

 この世界、ファンタジーなんだからこういう事案とかあって解決してくれたりしないの?

 

「うーん、私が宿ってる存在って普通に処分した方がいいのでまずいんじゃないですか?」

 

 怖いこと言うなよ!

 ……元の姿を偽る方法を教えてもらうしかないか。

 

「ふふふ、後で教えますよ。よし、整理終わったので返しますね」

 

 気が付くと買ったものが全部仕舞われている。……この魔女のこともいまいちよくわからないな。

 

 急に、ぐんっと体が揺らいだ。指先から徐々に感覚が戻ってくる。乗っ取りをやめてくれたらしい。

 

 ――急に体ががくん、と揺れた。体から力が抜ける。

 

『おー、レイくん。ご飯食べてないから力出なくなってますね。私が動いてたときもちょっとだるかったですからねー』

 

 レイくん言うな。……確かにすごいお腹減った。コンビニでも行くか。

 これ、この魔女が体が動かしたせいもあったりしない?

 

『着替えません?』

 

 いや、お腹減ってるからそれはもう後でいいよ。

 

 気だるげな体を無理矢理動かして外に出る。

 

 ……サイズ合ってない服装だから肩とか出てるのなんか嫌だな。

 

 コンビニは近くにある。すぐに行けるはずだ。外を歩くと、もう日が暮れている。

 

 そういえば、ダンジョンにはちょっとしかいなかったような気がしてるけど結構時間経ったのかな。

 

『まあ気絶してましたからねー』

 

 お前のせいみたいなもんだろ。腕輪つけたときに気絶したんだから。

 

 だるさがまた、体に乗ってくる。足が重い。……ご飯食べてないだけでこうなるのか?

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

 声がする。顔を上げる。……ああ、くそっ。体がろくに動かない。

 

 赤い髪、少し童顔よりの少年。俺よりも一回りぐらい大きいだろうか。

 

 こいつのことは知ってる、こいつがハーレム野郎だ。

 

 天城ユウマ、この世界の主人公みたいなやつ。困った人を放っておけなくて助けまくったらいつの間にかハーレムになってたやつ。

 

『いやあ、タイミングいいですね』

 

 よくない。体がふらついて、倒れそうになる。それを支えられた。これ、絶対ユウマのやつに支えられてるよな。

 

 無意識に、あいつに抱きつくようにして体を預けた。なぜか安心感があって少しイラッとする。

 

『んー、このムーブ。完全にヒロインですねー』

 

 これ以上、悩みごとが増えるのはやめてほしいんだけど。

 

 そう思いながら、俺は意識を手放した。最後に見えたユウマの顔は少し焦ってそうで面白かった。

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