ダンジョンの最奥にTSアイテムを置くな   作:いちごゴーレム

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3.癖になってないけど?

「……んんっ」

 

 体がだるい。何かにくるまっている。あれ、俺っていつ寝たんだっけ。そういや、お腹空いててコンビニに行ったような。

 

 目蓋を開く。視界がまだぼやけている。重い体を無理矢理起こす。ベットで寝てたらしい。……知らないベッドだな、おかしい。

 

 待て待て、ちょっと思い出すぞ。コンビニに行こうとしたけど体がふらついてて、確かその時に天城に出会って……天城に!?

 

 えっ、これもしかしてあいつの部屋に連れ込まれてる!?……体に異常はないよな。服も同じだし。

 

『面白い人がいますねー』

 

 くそったれの魔女の声も聞こえている。はあ、そういや女にもなったんだった。なんか、シーツにいい匂いするなと思ったけど自分の匂いか、空しい。

 

 ふと、辺りを見回すと薄暗い部屋が見える。少し離れたところにあるソファーに、天城ユウマの姿が見える。

 

 ……なんとなく、近づいてみる。こいつの顔を間近で見るのも久々な気がする。

 

 こいつとは中学からなぜかずっと同じクラスだったから、ちょいちょい話してたな。ハーレム築いてる割りにあんま男の知り合いはいなくて、そういう意味だと俺が一番仲のいい男なのかもしれない。

 

『でも今、女ですよ』

 

 あなたのせいですよ。それにしても、爆睡してるな。こんなに近づいても起きないし。

 

 学校どうしよ。家に戻らないと行けないし。……なんか、こいつ起こさないとダメかな。

 俺が結城玲だって説明するのは無理だし……。お腹空いてきた。そういや食べてないんだった。

 

 妙な脱力感。体がふらつく。

 

 ――あ、ぶつかる。天城の背中に向けて突っ込むことになる。

 

「わっ……」

 

 ……なんか、天城に後ろから抱きつくような形になってしまった。でも、お腹が減って力がでない。……この体勢のまま動けないんだけど。

 

 ……ちょっとハズいな。うう、なんで女になってから男の背中に抱きつかないといけないんだ。

 

『あははは、推定主人公くんに抱きついてるー!面白すぎますよ』

 

 こいつ。

 

 なんか暖かい。倒れるときに抱きついたのを思い出してやだな。……もう、抱きつき魔じゃん。

 

『抱きつき系ヒロインってことですか』

 

 誰がヒロインだ。……あの、動けないんですけどここからどうにかならないんですか。

 

『え、私に体を貸してくれるんですか!?どんなヒロインロールプレイしよっかなー!』

 

 ダメそう。誰か助けてください。

 

「……あの、どいてもらっていい?」

 

 起きてんじゃねーか!

 

『お、来ましたね。頑張ってくださーい』

 

 うるさい!

 

 どうするどうするどうする。どういう感じで接するのが正解!?いや、一旦返事するか。

 

「……ごめん、動けなくて」

 

 なんかそれっぽく返事するか。

 

『無口系ミステリアスヒロイン!?』

 

 なにがだよ。

 

 ――ぐぅぅぅぅ……

 

 お腹の音が鳴る。……顔が熱い。

 

「ああ、お腹が空いてたのか。ごめんね」

 

 ああもう、言葉にされるともっと恥ずかしい。ちょっとご飯食べないぐらいじゃこうならないのに!

 

 なんか、後ろから見るこいつの耳が赤い気がする。

 

 ……照れられると、なんかこっちも恥ずかしいだろ!

 

「えっ……と、その。離すね?」

「……うん」

 

 おっかなびっくりしながら、天城が俺を恐る恐る引き剥がす。なんでそんな割れ物を触るみたいな感じなんだ。

 

「ご飯食べる?」

「そこまでしてもらわなくても」

 

 ――ぐぅぅぅぅ……

 

「…………」

「はは、用意するね」

 

 どうしてこんな辱しめを受けてるんだ。うう、殺してくれ。

 

『あはは、展開面白すぎていいですね』

 

 もう、これに怒る気にもならない。

 

 天城が朝食を用意してくれた。普通にご飯と味噌汁。聞きたいこともあるだろうけど、こっちを優先してくれる。いいやつだよ、本当に。

 

 ……これ、後で他のハーレムメンバーにバレて酷いことにならない?

 

『おっ、それはありですね!』

 

 ねーよ!なしなし!

 

 ご飯が暖かい。味噌汁を飲むと体を奥から暖めてくれるみたいで、ポカポカする。

 

 気付いたら、全て食べていた。……めちゃくちゃお腹空いてたみたいで、ちょっと恥ずかしい。

 

「……よっぽどお腹空いてたんだね」

「うっ、その……」

「あんまりご飯を抜かないでね。今日みたいに倒れたら大変でしょ」

「……はい」

 

 おっしゃる通りなんですが、そこまで抜いたつもりはないんです。

 

「そういえば君って、名前は何て言うの?」

 

 ついに来てしまった。なぜか偽名を使わないといけない瞬間が。

 

 なんて名乗ればいいんだ。ええい、もうヤケクソだ。

 

「……私はアリア」

「……アリア、そうなんだ。僕は天城ユウマっていうんだ。よろしくね」

「うん、よろしく」

 

 もうこの魔女の名前を名乗ってやる。

 

『へぇ、いいですね。私が体乗っ取っても気兼ねなく名乗れます!』

 

 いや、乗っ取るなよ。

 

「君ってあそこで何してたの?」

「……コンビニでご飯を買おうと」

「……ああ」

 

 なんかその、察した感じの視線をやめろ!居たたまれないだろ!

 

「……その、助けてくれてありがと」

「どういたしまして」

 

 感謝は大事だ。ユウマのやつはにっこりと微笑んでいる。

 

 こいつがこんな顔を向けてくるのがなんだかおかしくて、思わず頬が緩んだ。

 すると、天城の様子が呆気にとられてるように固まった。

 

 えっ、なんなんだ。何かしたか?

 

『レイくん、結構やり手ですね』

 

 え、何かやったかな。というか、顔が変とかそういうこと?

 試しに聞いてみるか。

 

「……あの、何か顔についてる?」

「あっ、ご、ごめん!なんでもないよ!」

 

 天城が視線を泳がせる。不思議と顔が赤い気がする。……え、そういうこと?

 ……変に胸が高鳴る。なんか変な気持ちだ。まあいいか。

 

 食べ終わった食器を片付ける。流しに置いておけばいいかな。

 

「僕が洗うから、そこに置いてていいよ」

「わかった」

 

 言われた通りに食器を置くと、天城がそのまま洗い出したので、椅子に座ってそれをボーッと眺める。

 

 ……これ、帰るタイミングどうすればいいんだ。もうここにいる意味もないんだけど、勝手に出ていきづらい。

 

『私的には、もうちょっとここで問題起こしてくれた方が面白いですけどねー』

 

 余計なアドバイスどうも!

 

 ふと、視線を下に落とす。天城の持っているスマートフォンがある。

 

 気になったのは日付だ。

 

 ……おかしい。ダンジョンに潜ってから三日経った日付になっている。そんな長時間をダンジョンで過ごしていないはず。

 

 いや、そうじゃない。俺はあのダンジョン内で気絶していた。

 

『お寝坊さんですねえ』

 

 うん、言い返せない。

 

 っていうか、三日間も何も食べてないからこんなに力でなかったのか……。

 

 …………これ、学校も三日休んでることになるじゃん。

 

『やーい、サボり魔』

 

 悩みの種から煽られるとすごい腹立つな。

 

 不意に、洗い物を終えた天城の背中を見る。……こうして見ると大きいな。俺が少し小さくなった影響もあるだろうか。

 

 そういえば、こいつってさっき俺の顔に見惚れてたってことでいいのかな。

 

『おっ、顔の良さに自覚のあるタイプ!』

 

 いや、ほぼお前の顔だろ。

 

 …………なんとなく、顔を赤らめてる天城を思い出す。悪戯心が鎌首を持ち上げた。

 

 天城にそっと背後から近づいた。

 

 ――そして、その背中を後ろから抱き締めてみる。さっきのは事故だったけど、故意にやってみるとどんな反応をするのか気になった。

 

「う、うぇっ……!?」

 

 素っ頓狂な声をあげて、びくりと震える。

 

 じわっと暖かい体温を感じる。

 

「ユウマ」

 

 できる限りの、甘ったるい声で囁く。面白いぐらいに耳が赤くなってるのが見える。正面から見たらどれだけ真っ赤なんだろうか。

 

「今日はありがとう」

 

 助けられたのは本当だから、改めて感謝しておく。天城は何も言い返せないままひたすら縮こまっていた。普段は女の子に囲まれてるのに、慣れていないんだ。

 少し、優越感に浸りながらこの時間を過ごす。こんなんで、照れてるこいつもちょっとかわいいかもしれない。

 

 ちょっと癖になりそうになってきた。

 

「……あ、あの……どいてもらっても……」

 

 消え入りそうな声だ。

 

 ……ちょっと意地悪しすぎたか。パッと、離れると少し名残惜しさもある。

 

「じゃあ、そろそろ帰るね」

「……う、うん」

 

 まだ静かな様子の天城を後にして、俺は部屋を出た。ずっと、性悪魔女がくすくすと笑っているのが聞こえた。

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