ダンジョンの最奥にTSアイテムを置くな 作:いちごゴーレム
「……んんっ」
体がだるい。何かにくるまっている。あれ、俺っていつ寝たんだっけ。そういや、お腹空いててコンビニに行ったような。
目蓋を開く。視界がまだぼやけている。重い体を無理矢理起こす。ベットで寝てたらしい。……知らないベッドだな、おかしい。
待て待て、ちょっと思い出すぞ。コンビニに行こうとしたけど体がふらついてて、確かその時に天城に出会って……天城に!?
えっ、これもしかしてあいつの部屋に連れ込まれてる!?……体に異常はないよな。服も同じだし。
『面白い人がいますねー』
くそったれの魔女の声も聞こえている。はあ、そういや女にもなったんだった。なんか、シーツにいい匂いするなと思ったけど自分の匂いか、空しい。
ふと、辺りを見回すと薄暗い部屋が見える。少し離れたところにあるソファーに、天城ユウマの姿が見える。
……なんとなく、近づいてみる。こいつの顔を間近で見るのも久々な気がする。
こいつとは中学からなぜかずっと同じクラスだったから、ちょいちょい話してたな。ハーレム築いてる割りにあんま男の知り合いはいなくて、そういう意味だと俺が一番仲のいい男なのかもしれない。
『でも今、女ですよ』
あなたのせいですよ。それにしても、爆睡してるな。こんなに近づいても起きないし。
学校どうしよ。家に戻らないと行けないし。……なんか、こいつ起こさないとダメかな。
俺が結城玲だって説明するのは無理だし……。お腹空いてきた。そういや食べてないんだった。
妙な脱力感。体がふらつく。
――あ、ぶつかる。天城の背中に向けて突っ込むことになる。
「わっ……」
……なんか、天城に後ろから抱きつくような形になってしまった。でも、お腹が減って力がでない。……この体勢のまま動けないんだけど。
……ちょっとハズいな。うう、なんで女になってから男の背中に抱きつかないといけないんだ。
『あははは、推定主人公くんに抱きついてるー!面白すぎますよ』
こいつ。
なんか暖かい。倒れるときに抱きついたのを思い出してやだな。……もう、抱きつき魔じゃん。
『抱きつき系ヒロインってことですか』
誰がヒロインだ。……あの、動けないんですけどここからどうにかならないんですか。
『え、私に体を貸してくれるんですか!?どんなヒロインロールプレイしよっかなー!』
ダメそう。誰か助けてください。
「……あの、どいてもらっていい?」
起きてんじゃねーか!
『お、来ましたね。頑張ってくださーい』
うるさい!
どうするどうするどうする。どういう感じで接するのが正解!?いや、一旦返事するか。
「……ごめん、動けなくて」
なんかそれっぽく返事するか。
『無口系ミステリアスヒロイン!?』
なにがだよ。
――ぐぅぅぅぅ……
お腹の音が鳴る。……顔が熱い。
「ああ、お腹が空いてたのか。ごめんね」
ああもう、言葉にされるともっと恥ずかしい。ちょっとご飯食べないぐらいじゃこうならないのに!
なんか、後ろから見るこいつの耳が赤い気がする。
……照れられると、なんかこっちも恥ずかしいだろ!
「えっ……と、その。離すね?」
「……うん」
おっかなびっくりしながら、天城が俺を恐る恐る引き剥がす。なんでそんな割れ物を触るみたいな感じなんだ。
「ご飯食べる?」
「そこまでしてもらわなくても」
――ぐぅぅぅぅ……
「…………」
「はは、用意するね」
どうしてこんな辱しめを受けてるんだ。うう、殺してくれ。
『あはは、展開面白すぎていいですね』
もう、これに怒る気にもならない。
天城が朝食を用意してくれた。普通にご飯と味噌汁。聞きたいこともあるだろうけど、こっちを優先してくれる。いいやつだよ、本当に。
……これ、後で他のハーレムメンバーにバレて酷いことにならない?
『おっ、それはありですね!』
ねーよ!なしなし!
ご飯が暖かい。味噌汁を飲むと体を奥から暖めてくれるみたいで、ポカポカする。
気付いたら、全て食べていた。……めちゃくちゃお腹空いてたみたいで、ちょっと恥ずかしい。
「……よっぽどお腹空いてたんだね」
「うっ、その……」
「あんまりご飯を抜かないでね。今日みたいに倒れたら大変でしょ」
「……はい」
おっしゃる通りなんですが、そこまで抜いたつもりはないんです。
「そういえば君って、名前は何て言うの?」
ついに来てしまった。なぜか偽名を使わないといけない瞬間が。
なんて名乗ればいいんだ。ええい、もうヤケクソだ。
「……私はアリア」
「……アリア、そうなんだ。僕は天城ユウマっていうんだ。よろしくね」
「うん、よろしく」
もうこの魔女の名前を名乗ってやる。
『へぇ、いいですね。私が体乗っ取っても気兼ねなく名乗れます!』
いや、乗っ取るなよ。
「君ってあそこで何してたの?」
「……コンビニでご飯を買おうと」
「……ああ」
なんかその、察した感じの視線をやめろ!居たたまれないだろ!
「……その、助けてくれてありがと」
「どういたしまして」
感謝は大事だ。ユウマのやつはにっこりと微笑んでいる。
こいつがこんな顔を向けてくるのがなんだかおかしくて、思わず頬が緩んだ。
すると、天城の様子が呆気にとられてるように固まった。
えっ、なんなんだ。何かしたか?
『レイくん、結構やり手ですね』
え、何かやったかな。というか、顔が変とかそういうこと?
試しに聞いてみるか。
「……あの、何か顔についてる?」
「あっ、ご、ごめん!なんでもないよ!」
天城が視線を泳がせる。不思議と顔が赤い気がする。……え、そういうこと?
……変に胸が高鳴る。なんか変な気持ちだ。まあいいか。
食べ終わった食器を片付ける。流しに置いておけばいいかな。
「僕が洗うから、そこに置いてていいよ」
「わかった」
言われた通りに食器を置くと、天城がそのまま洗い出したので、椅子に座ってそれをボーッと眺める。
……これ、帰るタイミングどうすればいいんだ。もうここにいる意味もないんだけど、勝手に出ていきづらい。
『私的には、もうちょっとここで問題起こしてくれた方が面白いですけどねー』
余計なアドバイスどうも!
ふと、視線を下に落とす。天城の持っているスマートフォンがある。
気になったのは日付だ。
……おかしい。ダンジョンに潜ってから三日経った日付になっている。そんな長時間をダンジョンで過ごしていないはず。
いや、そうじゃない。俺はあのダンジョン内で気絶していた。
『お寝坊さんですねえ』
うん、言い返せない。
っていうか、三日間も何も食べてないからこんなに力でなかったのか……。
…………これ、学校も三日休んでることになるじゃん。
『やーい、サボり魔』
悩みの種から煽られるとすごい腹立つな。
不意に、洗い物を終えた天城の背中を見る。……こうして見ると大きいな。俺が少し小さくなった影響もあるだろうか。
そういえば、こいつってさっき俺の顔に見惚れてたってことでいいのかな。
『おっ、顔の良さに自覚のあるタイプ!』
いや、ほぼお前の顔だろ。
…………なんとなく、顔を赤らめてる天城を思い出す。悪戯心が鎌首を持ち上げた。
天城にそっと背後から近づいた。
――そして、その背中を後ろから抱き締めてみる。さっきのは事故だったけど、故意にやってみるとどんな反応をするのか気になった。
「う、うぇっ……!?」
素っ頓狂な声をあげて、びくりと震える。
じわっと暖かい体温を感じる。
「ユウマ」
できる限りの、甘ったるい声で囁く。面白いぐらいに耳が赤くなってるのが見える。正面から見たらどれだけ真っ赤なんだろうか。
「今日はありがとう」
助けられたのは本当だから、改めて感謝しておく。天城は何も言い返せないままひたすら縮こまっていた。普段は女の子に囲まれてるのに、慣れていないんだ。
少し、優越感に浸りながらこの時間を過ごす。こんなんで、照れてるこいつもちょっとかわいいかもしれない。
ちょっと癖になりそうになってきた。
「……あ、あの……どいてもらっても……」
消え入りそうな声だ。
……ちょっと意地悪しすぎたか。パッと、離れると少し名残惜しさもある。
「じゃあ、そろそろ帰るね」
「……う、うん」
まだ静かな様子の天城を後にして、俺は部屋を出た。ずっと、性悪魔女がくすくすと笑っているのが聞こえた。