ダンジョンの最奥にTSアイテムを置くな   作:いちごゴーレム

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4.ガチで反省したい

 天城ユウマはぼんやりと、学校の机に座りながら頬杖をつく。

 

 ……いつも通りのはずなのに、胸があまり落ち着かない。

 

 脳裏に浮かぶのは今朝までいた少女のことだった。腹ペコで倒れていた、表情があまりわからない不思議な女の子。

 

 ふとした時に見せた、あの笑みに見惚れてしまった。ずっと無表情だったからだろうか。

 

 それから――最後の抱きつき。あの行動には何の意味があったんだろう。

 

 ――鼻腔をくすぐる匂い、背中に伝わる体温と柔らかさ。それから、甘く柔らかい声。回された細い腕。

 

 ――――ユウマ。

 彼女の声を思い出す。無事に帰れただろうか。

 

 困ってる女の子を助けたことは何回もあった。でも、あんな子は初めてだった。

 

「ど、どうしたの……?」

 

 声の方を振り返ると、隣の席の――四條マナがこちらを向いていた。……そんな心配されそうな顔だっただろうか。

 水色の髪、少し小柄で小動物を連想させそうな女の子。彼女も困っているところを助けた女の子の一人だ。席が隣なこともあって、こうやってよく話す。

 

「えっ、何が?」

「うーん、何か考えていそうだったから?」

「なんでもないよ」

 

 あの少女――アリアのことをなんとか振り払って曖昧に返す。

 

「そうなんだ。そういえば、昨日ね。変な女の子がいたんだって」

「……変?」

「なんか、汚れた格好で出歩いてる女の子。たぶん、そういうダンジョンに行ったんだと思うけど」

「なんでダンジョン?」

「汚れ方が普通じゃなかったらしいよ。日常的につくような感じじゃないんだって」

 

 汚れるようなダンジョンか。不人気で有名なダンジョンにそんなところがあったような気がする。

 ……デバフが多くて難易度のわりにしょっぱいところだった気がするけど。

 

「それからね、次は同じ女の子が上機嫌で買い物してたんだって」

「同じ子ってわかるの?」

「同じような服装をしてたんだって。ぶかぶかの服を肩出しながら着ていたらしいよ。あと、わかりにくいけど見た目も同じとか。えーっと、黒ずんだ青の髪の子だったかな」

 

 その特徴には見覚えがあった。ぶかぶかの服も、黒ずんだ青い髪も。

 

「……アリア?」

 

 思わず声が出た。

 ……でも、上機嫌なのは想像できないけど。

 

 じーっ、とマナの視線が刺さる。

 

「ふーん、知り合い?」

「その、昨日たまたまそんな子に会ったから」

「…………目立つ女の子がいたから、天城くんが関わってたんじゃないかな~って思ってたけど、本当にもう手を出していたなんて、油断ならないね……」

 

 私ももっと頑張らないと、と何か気合いを入れている。……なんだかその気合いはろくなことにならない気がする。

 

「……とんでもないこと言われてない?」

「でも天城くんのことだから、どうせそのまま手懐けちゃったんじゃないの……?」

「違うよ!?倒れたところをたまたま助けたけど……」

「ほら、やっぱり」

 

 と、話しているうちに、こちらに駆け寄ってくる足音が聞こえる。

 

「ユウマって、また女の子に手を出したの!?」

 

 とんでもない風評被害を拡散されようとしている。

 

 振り返ると、金髪を揺らしてこちらに近づいてくる女の子。少し制服を着崩して、派手に見えそうな装いをしている。

 

 御崎セナ――彼女もまた、困ってるところを助けて仲良くなった女の子のうちの一人だ。いつも騒がしくて早とちりしがちな女の子。

 

「手を出してないし……っていうか、またって何?」

「ユウマって、気付いたら女の子と仲良くなってるじゃん!!」

 

 そういいながら背後からしなだれかかってくる。……暑い。セナは少々スキンシップが激しめで、いつも引っ付いてくる。

 最初はドギマギしてたけど、少し慣れてしまった。……今も背中に当たる感触が気になったりはするけど。

 

「……うん、そうだね」

 

 セナの言葉を否定する前に、マナに肯定されてしまった。

 どうやら、僕に対しての認識はとんでもないことになってるらしい。

 

「倒れたところを助けたんだよね?だったらそれって……部屋に連れ込んだり?」

 

 ……それはそうだけど。

 マナはこういうところに鋭くて、毎回新しい女の子と何かしてないかと問い詰めてくる。

 

「えっ、じゃあ……そのまま一緒のベッドで寝て仲良くなったってことでしょ!?」

 

 対して、セナは普通に頭の中がピンク過ぎて変な方向に空回りしてる。人をなんだと思ってるんだ。

 

「大声でそんなこと叫ぶのやめてもらえる???そんなことないから」

「ふーん、でも天城くんならベッド譲りそうだもんね」

「……そうだけど」

「やっぱり、家に連れ込んでる!?」

 

 しまった、罠か。

 

 ……倒れた女の子を介抱するなら、そうなってしまうと思うんだけど。

 まるで人が、やましいことをしたみたいに。

 ……でも、三回抱きつかれてるからどっちかというと、やましいことをされてる方じゃない?

 

 …………ダメだ、またアリアの吐息や匂いを思い出してしまう。セナに似たようなことをされているからだろうか。……みんな、距離が近すぎない???

 

「……ユウマ、顔赤いんだけど。やっぱり何かやった?」

「……してないって」

「その間は何!?」

 

 セナとマナの追撃はまだ終わらないらしい。騒がしい教室内で、もう一度アリアと会いたいなとふと思った。

 

「……一度、そのアリアちゃんとやらに会わないといけないみたいだね」

 

 ……おそらく動機は違うんだろうけど、マナも同じことを思っていたらしい。

 

 アリアがいたかもしれない場所が汚れるようなダンジョンだったか。確かそこは――

 

「……結城くんが行った場所もそんなところじゃなかった?」

 

 そう。クラスメイトの結城玲が行ったダンジョンもそこのはずだ。三日も前になるが、まだ帰ってきていないのでちょっとした噂になっている。

 

 昨日、アリアに出会ったのも彼が無事を確かめるために出かけていた途中だった。

 

 彼は大丈夫だろうか。数少ない男子の知り合いだから心配になる。彼はいつも一人だ、今回もソロで行ってるだろう。

 誘ってくれれば一緒に行ったのに。

 

 ……無事だといいけど。

 

 そう考えていた時に、ふと思った。

 

「もしかして、同じダンジョンに行ったなら結城くんとアリアって会ってたりしないかな」

「……!それだ!!!」

「結城くんに会ったら、そのアリアって子のことを聞けるかもしれないってことだね……!」

 

 そっちじゃなくて、結城くんのことを聞きたかったんだけど。

 ……まあ、アリアにもう一度会ってみたい気持ちもあるけど。

 

「結城くん探しってことだね」

「そうね、全部吐き出させてやるわ!」

 

 何やら盛り上がっている。

 ……無事帰ってきてほしいけど、帰ったら帰ったで大変じゃないかな。程々にしてあげてほしい。

 

 

◇◇◇

 

『あはははははっ!』

 

 頭の中に、くそったれ魔女の声が響く。

 

「ああああ、やらかしたー!!!!」

 

 部屋に戻ってきて早々、俺はのたうち回っていた。

 

 なんでかって? ……その、変なテンションで天城のやつにちょっかいを出してしまったから、ですかね……?

 

『いやあ、最後の方は最高でしたね』

 

 うるせー!

 

 ……っていうか、天城も露骨にそんな反応するなよ!お前、ハーレムで女子とまあまあ身体的接触してるだろ!

 

『それに関しては、レイくんのロールプレイがナイスってことでしょうね。なんか無表情系美少女みたいな雰囲気出してたじゃないですか』

 

 いや、してないけど!?

 

 ……お腹空きすぎたり、だるさとかであんまり表情は出せてなかった気がするけど。

 

 一度、鏡を見る。無表情の女の子が映っている。……たしかに、この状態でふと笑ってたら、くらっとくるのかもしれない。

 

『その表情が全然出ない時に、ふと微笑んだ時にあの赤面!そこで意識してしまった女の子から、最後に抱きつかれて囁かれる!くぅ~、パーフェクトノックアウトですよ』

 

 思い出すと、死にたくなってきた。なんで俺、あんなことしてるんだ。

 

 いや、そのテンションが上がってしまったんです。

 

 …………癖になりそうとか思ってた気がするんだけど気のせいだよな。

 

『性癖の開花を見ましたねえ』

 

 はあ。死のうかな。

 

 そういえば、この服は昨日のままか。着替えようかな。いや、この場合は女の子の服装になるのか?

 

 タンスを漁ると、綺麗に男物と買ったばかりの女物が別れてある。……意外とちゃんと整理したのか。

 

『ちなみに、それよりも学校のこととか考えた方がいいですよ』

 

 それは本当にそう。なんか見た目を元の姿に偽れるんだっけ?

 

『ふっふっふっ、もちろん可能です。私をなめないでくださいね?』

 

 ……それだったら、一応登校しても問題ないか。

 

 女物の服装は、着方がわからないので元々持っている服装を着てみる。やっぱり少し大きい。肩がはみ出してしまう。

 これをおしゃれだと言い張って誤魔化すか。

 

『たまには、女の子の状態で天城ユウマさんに絡んでほしいですけどねー?』

 

 なんでだよ。あれやった後に話にいくの、気まずすぎるだろ。

 

『それに関しては完全に自業自得なのに』

 

 あと、普通に女の子のふりするのめんどくさい。一人称とか口調とかでおかしくなりそうになる。

 ……よくよく考えたら、そういう口調の女の子だと思われても問題なかったのでは?

 

『途中から変えるわけにもいかないから、女の子ロールプレイ続行ですね!楽しみだなー!』

 

 本当にやだこいつ。

 

 天城のやつはもう学校に向かっただろうか。今から行っても遅れるから、今日は休むか。明日からでいいや。

 

 あいつの部屋で朝ごはん食べたはずなのに、少し小腹が空いている。三日も食べてなかったんだ、ちょっとぐらいじゃ収まらないか。

 

 適当に選んだカップ麺にお湯を入れて、ボーッと待つ。

 

 それにしても、アリアって異世界の魔女って言ってたけど何者なの。

 

『私に興味がありますか、ふむふむ。いいでしょうとも!私はですね、元々とても弱くて強い人に寄生しながら生きていたのですが、なんか周りの人たちがみーんなどっか行っちゃって、私の周囲って誰もいなくなるんだって思うと腹が立って、全部ぶっ壊してやろうと思い、闇堕ちしたわけです。でも、それで暴れてたら勇者に殺されかけて、命からがら逃げだしてもっと力がいるぞ!と思い、でかい妖精を二匹頑張って食べて――』

 

 

 ごめん、長いです。

 

『とまあ、説明は一気にしてもわかりにくいので、少しずつしたいですね。少なくとも、いい人ではないので安心してくださいねっ!』

 

 わざとクソ長い話にしたのかよ。っていうか、いい人じゃないって自分から言うんだ……。

 

『ふふふ、私が気になるのもわかりますが、あなたは行動がずっと適当なのでなんとかした方がいいですよ』

 

 …………何も言い返せないな。

 

『転生者あるある、人生が適当になるのはわかりますけど、友達作らないし何の目的もなく不人気ダンジョンソロで挑むし、よくないですよ!』

 

 本気で詰められてる。……うん、ちょっと勢いで生きすぎたかもしれない。

 

『魔女は転生にも理解がありますからね、どうぞ反省してください』

 

 ……はい。

 

 もうそろそろいいだろうか、カップ麺を開く。問題なさそうだ。

 

 ずるずる、と麺を啜る。ジャンキーな味が染みる。

 

 昨日からずっと、感情が忙しすぎたので落ち着く。

 

 ……明日行くために、まず姿を偽るの試そうかな。

 

『おっ、いいですよ!ふふふ、私の幻惑魔法を見せてあげます。男物の服着てるからちょうどいいですね』

 

 がくん、と体が動きを止める。えっ、待って。また乗っ取ろうとしてる?

 

 まだカップ麺片付けてないのに。

 

 ――指先から感覚がなくなっていく。……二回目でも気持ち悪い。

 

「はい、異世界の魔女アリアちゃん再び復活です!いえい!」

 

 いきなりやるんじゃなくて、一旦確認するとかないんですか?

 

「え、めんどくさいし。さて、早速やりますよー!」

 

 こっちの意見は尊重してもらえないらしい。

 

 黒い腕輪にすっと触る。腕輪が徐々に肌と同じ色になって馴染む。よく見ても、そこに腕輪があるかわからないだろう。

 

 それから、手をかざすと魔法陣が出現した。すごい、魔法っぽい。魔法陣が動き、体を通り抜ける。

 

 何か変わっているんだろうか。

 

 鏡を見ると、そこには元の俺の姿がある。……え、あの一瞬で!?

 

「どうですか?私の天才的魔法」

 

 ……あのう、元の姿見せてなくないですか?

 

「あ、それは記憶から読み取れるので」

 

 えっ、今までで一番怖い発言だ。なんでもありだな、こいつ。

 

「まあ、このままこの体で遊んでもいいんですけど帰してあげますね」

 

 なんで勝手に乗っ取っておいて、恩着せがましいんだよ。

 

 というか、これ毎回乗っ取られないとこの幻惑魔法使えないの?

 

「そこは教えてあげるので大丈夫!」

 

 教えてもらえるんだ。

 

 がくん、と体が再び止まる。指先から体温が戻ってくるような感覚。体を返してもらったらしい。

 

『昨日の魔法の使い方見てる感じ、レイくんは下手くそですからね!今から練習してください!』

 

 甲高い魔女の声が頭に響く。……明日から学校に戻るけど、急にいなくなったことを問い詰められるよな。そんなことを思いながら、俺は魔法を練習した。

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