ダンジョンの最奥にTSアイテムを置くな 作:いちごゴーレム
「よーし!」
大声で叫ぶ。ついに、幻惑魔法をちゃんと習得したぞ!
朝までかかりました。大変だね。
『どんだけ下手くそなんですか。普通もっと簡単にできますよ』
うるさい!元々魔法使うの苦手なのに、魔力が増えすぎて制御できてないだけなのに。半分ぐらいアリアのせいか。
『どうも、原因の一つの魔女のアリアです!でもレイくんが下手なのは転生者だからでしょうね。他の人に比べて、魔法とか魔力が未知のものってイメージが強いのでうまくいかないんでしょう』
えっ、そういうものなのか。
『魔法なんてのはイメージが大事ですからね。ふふふ、魔女にとっては得意分野なので困ったら聞いてくださいね』
……便利すぎて、これに頼りすぎるとダメな気がする。イメージできるように頑張るか。
『頑張ってください、下手くそくん。気が向いたらいい感じのイメージのやり方を教えて上げます』
気が向いたらなのかよ。
っていうか、それよりも問題があるんだよな。
『ほうほう』
服のサイズが合わない。制服を着るとなんかぶかぶかなんだけど。……ぶかぶかで行くしかないか。
『昨日買った女物を着ていく、という選択肢もありますよ!』
……いやでも、これ下着とかもいるよな。下着、下着なあ。……うーん。
いやさ、パンツはまだいいかもしれないけどブラまでつけたらもう終わりって感じあるじゃないですか。まだそこまで捨てたくない。パンツも別によくないけど。難易度が高すぎる。
とりあえずご飯でも食べるか。炊いたご飯と味噌汁を用意する。
『えっ、私無視されてる。魔女さんしょんぼりです。ちなみに、幻惑魔法はちゃんと服装も誤魔化せるので、ちゃんとサイズの合う女物を着ていくことをおすすめします』
ずずず、と味噌汁を飲むと暖まる。ご飯もほかほかで美味しい。
っていうか幻惑魔法、そこまでいけるんだ。……このまままだと結局、女物の服を着る機会はあるから今のうちに着ておくべきなのか……?
いやでもなあ……うーん。
『真面目な話ですが、男に戻れるとしてもまあまあ後になると思いますからね。慣れておいた方がいいですよ』
…………はあ。
…………覚悟を決めるしかないか。あの、魔女さん。着るの手伝ってもらってもいいですか?
『ははは、真剣でおもしろ』
こっちは面白くないんだけど?
食べ終わった食器を洗面台に持っていく。ふんっ、天城のやつよりも俺が作ったものの方が美味いな。
『何を張り合ってるんですか?しょうがないから、教えて上げますか』
食器をちゃんと片付けた後、魔女の話を聞きながらなんとか下着をつけることに成功し、そのまま勢いで服を着た。
ニットとワイドパンツの組み合わせ、心理的な抵抗もあんまりない服装なせいで口車に乗せられて着てしまった……。
鏡の前に立つ。うん、まあ素材がいいせいで似合ってはいるな。
『えへへ、どうも』
はぁ。なんでこの服装なの?
『ファンタジー世界では露出の多い服が普通ですからね!逆にこういうの着たかったんですよね』
お前の趣味かよ。まあいいか。
手を前にかざす。手のひらに力が籠るようなイメージをする。
足元に出てきた魔法陣が、俺を通りすぎていく。
鏡には、制服を着た俺が映っていた。服装もちゃんと変わって見える。問題はないか。……実際は変わってないからなんか違和感すごいな。
……やっぱ下着の感覚が落ち着かないな。
『恥じらうならちゃんと、幻惑魔法かけてないときにしてください!だんだんと心まで女になっていくレイくんが見たい!』
とりあえず、学校いくか。
『えっ、無視ですか?おーい』
準備をして、扉を開けた。随分久しぶりな気がする。
『でも、学校の様子を見るのは楽しみですね』
こういうの興味あるんだ。
『魔女という存在は、学校を楽しんだような人生を送ってないですからね……!』
毎回思うけど、どういう存在なんだよ。
『魔女というのは闇に落ちた汚れた魂なので』
ごめん、もっとわかんないわ。
校門をくぐって、そのまま校舎内に入る。……なんかたまに視線を感じるな。
『三日来なかったから、生きてたんかい!ってことなんじゃないですか?』
いや、そんな有名じゃないでしょ。あと、視線がなんか憐れんでるような感じなんだよね。
……俺の知らない間に学校でなんかあったか?
教室が見えてきた。扉を開けると数人がこっちを見た。
そして、なぜか逸らす。なんで?
クラスに別に友達みたいなやつはいないから、そのまま席につく。
『友達作ったらいかがですか?』
それは本当にそうなんだけど、この世界の原作ってなんだろうと思って、色々イベントあったりしないかなと探ってるうちに友達を作る機会を逃しまして。
「あ、あの……結城くん!」
「……は、はい?」
席に座って準備してると、水色の髪を揺らしてこちらを覗き込むように女の子が近づいてきた。……近い。何その勢い。
四條マナ。ハーレムメンバーの一人だ。関わったこともあまりないはず。……俺何かやらかしたかな。
「その、三日間来なかったけど大丈夫だった?顔色悪いよ?」
「え、うん。寝込んでただけだから」
……まあ幻惑魔法を朝まで練習してたせいで寝不足なだけだけどな!
普通に心配してくれたのかな。でもそれにしては、ずっと何かを聞きたそうにしてるんだよな。
「そうなんだ、何かの病気……?」
「どうなんだろ。あの汚いダンジョン行ったのがよくなかったかなあ」
「そう!そのダンジョン!」
うわ、近い。
まさか、女の子になってたから行けなくて……とか言えないからそれっぽいこと言ってたら、顔を寄せてくる。……いや、本当になんなの?
「…………その、アリアって子知らない?」
「……」
……???
なんで、アリア?
いや待て。もしかしてあれか。天城の家に行ったやつのことか?
だってそうだよな。アリアって名乗ったのそこだけだし。それ以外の時は見られてても、名前はわからないし。
……いや、まだ別人の可能性もある。うん、別人だよ別人。
というか、なんで俺に聞くんだよ。嫌な汗が背中に流れる。
『あはは、いい展開ですね。ノリノリでからかったハーレムくんから新ヒロインの存在を仄めかされて、気になった女の子はそれが本人だと気付かずにレイくんに聞きに来る!ははは、おかしー』
あー、うるせー!よし、誤魔化すぞ!
「あ、アリア……?ごめん、聞いたことなくて」
「その、黒ずんだ青い髪でちょっと大きめの服を着てる子らしくてっ。結構派手に汚れてたから、結城くんと同じダンジョンに行ったんじゃないかって思ったんだけど」
俺じゃねーか。もうこのときに幻惑魔法がほしかったな。
「へ、へぇ……ダンジョン内では会ったことないなあ」
「他に人はいなかったの?」
「うん、俺だけだったよ」
「………………そう、ごめんね。変なこと聞いて」
「いや、別にいいよ」
……なんかすごい間があったけど、席に戻っていった。怖いよ。
目がマジすぎる。深みのある青い瞳なのにもう漆黒みたいに見える。
『うーむ、見た目が昔の私っぽいですね……』
絶対嘘だろ。マナさん、ちっさくてかわいらしい系だし、色合いとかも全然違うじゃん。
『ふふふ、元々はこんなに髪は黒くないし、昔はとても弱かったので庇護欲をそそらせて私を守らせていましたよ?』
さいですか。定期的に過去を開示してくるのなんなの?
っていうか、こいつから語りかけられながら学校過ごすのだるすぎるだろ。
……にしても、もうハーレムメンバーに目をつけられてるとは思わなかったな。なんか変な視線受けてたのこのせいか?
あーあ、あいつアリアのこと問い詰められるよーみたいな。
「ねぇ、結城!あんたってアリアって子知ってる!?」
こういう感じに。バンッ!と机を叩かれる。勢いがいいね。
御崎セナ。金髪で制服を着崩しているせいで、ギャルっぽいイメージが強い。当然、ハーレムメンバーの一人。
これ、ここまでアリアの話が広がっているなら、全ハーレムメンバーに聞かれる流れにならない???
「ねえ、聞いてんの?」
「あ、ごめん。四條さんにも言ったけど知らないよ」
「なんだ、マナのやつもう聞いてたんだ。ってかほんとに知らないの?」
「……うん」
訝し気にこちらを見つめてくる。怖いよ。
『嘘ついてるのは本当ですからね』
はあ、ダンジョン行かなきゃよかったな。
「ふーん、そ。また思い出したりしたら教えて」
と言い去っていった。一難去ってまた一難も去った。……一時的に平和か。
「結城くん!」
まだ来るんかい。いい加減にしろ、と言いそうになりながらも振り返るとそこには天城の姿が。
「ああ、天城。おはよう」
「あ、うん。おはよう……じゃなくて、無事だったんだね。よかった」
またアリアについて聞きに来たのかと身構えていたら、ホッと胸を撫でおろしていた。このパターンで普通に心配しているのありかよ。
「いやあ、ちょっとダンジョン行った後体調崩してさ」
「そうだったんだ……昨日、本当は結城くんの家に様子を見に行こうとしてたんだけど」
「えっ、そうなの。そんなに気にしなくていいって」
ってか、昨日あんなところであったのはそういうことだったんだ。……家に来られたらさすがにやばかったな。
『いちゃつきルートが正解だったか』
いちゃついてはねーだろ!
『三回抱き着いてたのに』
……俺の後悔をほじくり返すのはやめてもらえますか。
「……そういえばさ、結城くんってあのダンジョンで他の人見た?」
「え?」
おいおいおいおい、この流れってさあ。
「アリアって子がそのダンジョンにいたかもしれなくて」
お前もかよ!もういいよ!
「いや、誰もいなかったよ。これ聞いてくるの三人目なんだけどさ、ガチでなんかあったの?」
落ち着け、普通な風に振舞うしかない。
「いやその……昨日ちょっと会っただけだから」
そういう天城の様子は少し物憂げな状態だった。……その後、何かを思い浮かべたのか少し顔色が赤くなる。
……何を思い出してるんだ、なあ。
『そりゃあレイくんが抱き着いた時の吐息と体温と体の感触とか』
具体的に言うな!!!
……深呼吸して、落ち着ける。
「そうか、よくわからんけど見つかられたらいいな」
「そうだね」
……なんとか乗り越えたか。ヘビーだわ。
『どんどんぱふぱふー!レイくんの女かどうかバレるかギリギリ生活ー!』
はあ……。胃が痛い生活だ。頑張るぞー……。
◇◇◇
「げっ、ANサーチャーにでかいの引っかかったんだけど」
ダンジョン、それは突然この世界に湧き出した異世界からの漂流物。元は正常だったこの世界は、それの漂流と、そこからあふれ出す魔力によって酷く歪められてしまった。
そんなダンジョンに対する管理をする組織がある。それが探索者協会、ダンジョンに入る探索者たちはこの組織に基本的に登録することになる。
ダンジョンの危険度、ダンジョンから発見されたものの管理などを担っている。
その探索者協会の会長室、奇妙な機械をいじりながらため息を吐く少女が一人。
「この反応はー、うーん……魔女じゃんやっば」
うげー、と言いながら少女は椅子にどかっと座る。
そんな様子を気にすることもなく、その部屋の主である探索者協会の会長は書類を片付けていた。そして口を開く。
「魔女、か。それは問題か?」
「いやー、魔女なんて異世界的常識に当てはめるならとっとと殺すべき害獣っすよー。しかもこの感じ、ろくな魔女じゃないし」
「そうか。私は魔女を知らないからね。様子見はしときたいね」
「ふーん。じゃあ、私が行った方がいいなあこれ」
「そんな強いのかい?」
「魔女がいて話題にそこまでなってないってことは、たぶんそこらのやつは相手にならないんで。んじゃやってきます」
そういうと、少女は椅子から立ち上がる。いつの間にか手元の機械は消えていた。
「そうかい、何かあれば報告よろしくね。レギナ」
「へーい」
レギナ、と呼ばれた少女は返事だけ返すとすぐさまどこかへと消えてしまった。
「態度さえよければいいんだけどね」
一人の部屋に会長の声だけが響いた。