鎮守府正門前
「よし! 心の準備出来たし入るか!」
「それじゃあ入らせて貰いますよぉ~?」
キ~~~バタンッ!
「意外と立て付け悪いのかな」
……さて、どうしたもんかな。
ブラック鎮守府って言うくらいだし、入った瞬間に悲鳴が聞こえたりするもんなのかな。
まぁ艦娘に会えるんだし、気合いは入れていかないとな!
……入った瞬間、予想通りだった。
「いやぁっ! やめて……提督、許して……!」
女の子の悲鳴が、建物中に響き渡る。
一人の声じゃない。複数。重なり合う、苦痛の叫び。
「助けて……もう、壊れちゃう……」
「痛い……痛いよぉ……」
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
声は廊下の奥から。俺は思わず走り出した。
心臓が早鐘のように鳴る。
ブラック鎮守府の話しは本当だったのか……?
当たって欲しくなかった。
突き当たりの大部屋。
扉は開け放たれていて、中の光景が丸見えだ。
――地獄だった。
部屋の中央に、恐らく小破以上の艦娘たちが並んでいる。
駆逐艦たち……いや、もっと。軽巡、空母……鎮守府の艦娘が、そこにいた。
制服はボロボロに引き裂かれ、身体には無数の痣と傷。
血が床に滴り、涙で顔を濡らしている。
彼女たちはうつろな目で虚空を見つめ、ただ震えるだけ。もう、抵抗する気力すら残っていないようだ。
そして、その中心に――1人の男が立っていた。
提督の制服を着た、肥えた体躯の男。
顔は赤らみ、目は血走っている。
手には鞭。今まさに、雷の背中に振り下ろそうとしているところだった。
「ふははは! お前ら艦娘なんて、俺の玩具だぜ!
もっと鳴けよ、もっと泣けよ! それが俺の楽しみなんだからよぉ!」
男の声は、酒臭く、狂ったように響く。クズ提督。
ここに残っている、唯一の人間。
他の人間、憲兵は逃げ出したか、辞めたか……この男だけが、鎮守府を支配し続けている様な光景をまざまざと見せつけられた。
艦娘たちを、暴行し、蹂躙し、壊し続けている。
バシッ!
鞭が雷の肌を裂く音。雷が小さく悲鳴を上げ、身体を縮こまらせる。
「次はてめぇだ、そこの兵器! さっさと跪け!
お前みたいな生意気なヤツは、特別に可愛がってやるよ!」
金剛が、震える手で床を掴む。
彼女の瞳に、わずかな抵抗の光が宿るが……すぐに消える。
もう、何度も繰り返されたような絶望だ。
他の艦娘たちも、同じ。
比叡は鎖に繋がれ、壁に凭れかかっている。
姉妹の榛名は膝を抱えて泣き、霧島はただ俯いている。
駆逐艦たちは群れのように固まり、互いに寄り添うが、それすら許されない。
クズ提督が、笑いながら近づき、足で蹴り散らす。
「全員、俺のものだ! この鎮守府は俺の王国だぜ!
新しい提督が来ても、すぐ逃げちまうんだよなぁ……ふはは!」
――俺は、扉の影からその光景を見ていた。
吐き気がする。
怒りが込み上げる。
でも……どうする? 一人で、このクズを倒せるか?
艦娘たちはもう、戦う力がない。ここで飛び出せば、俺も標的にされるかも……。
いや、待て。
俺は転生者だ。この地獄を変えるために、望んで来たはずだ。
「? 、ッ……!」
突然、雷が俺に気づいた。
「誰か…助けて……」
――始まる。
ブラック鎮守府の、初めての戦い。
俺は扉の影から飛び出した。
「何してんだよ!!! くそ野郎! テメェ見たいな奴は絶対許さねぇ!!」
声が自然と怒号になって、部屋中に響き渡った。
艦娘たちの視線が、一斉に俺に集まる。
金剛の瞳がわずかに揺れ、雷が小さく息を飲む。
でも、すぐにクズ提督が顔を歪めて笑い出した。
「は? なんだテメェ、新入りか?
ふははは! いい度胸じゃねぇか。
けどよ、艦娘は兵器だぜ? 兵器なんだよ?
人間様が何したっていいだろーが。笑」
鞭を軽く振りながら、クズ提督が肩をすくめる。
その顔は、完全に楽しんでいる。俺の怒りが、逆に燃料になってるみたいだ。
「兵器? 兵器だと?
お前……今まで何人泣かせてきた?
何人壊してきた?
お前みたいなクズが、艦娘を兵器扱いしてんじゃねぇ!!
お前こそが、ただのゴミだ!!」
「はぁ? 兵器に感情なんかいらねぇんだよ。
俺が気持ちいいように使ってやるのが、こいつらの役目だろ?
お前みたいな正義漢ぶった野郎が一番ウゼェんだよなぁ~」
クズ提督が一歩近づいてくる。
鞭を振り上げて、俺に向かってくる。
その瞬間――
視界の端に、床に転がっている刀が映った。
天龍の刀だ。
彼女の艤装の一部だった刀が、鎖が切れて落ちている。
俺は反射的にそれを拾い上げた。
刀身に、血と埃がこびりついている。
でも、柄を握った瞬間、何かが伝わってきた。
「……これ……借りるね、天龍」
俺は小さく呟いた。
すると、鎖に繋がれたままの天龍が、血まみれの顔をゆっくり上げた。
彼女の瞳は、もうほとんど光を失っていた。
でも、俺の言葉を聞いた瞬間――
「っぁ……! た……つた……の分も……!
てくれ……」
掠れた、ほとんど息だけの声。
でも、そこには確かな意志があった。
――たつた。
天龍の妹、龍田のことだ。
隣にいる…だがその体はボロボロで正に満身創痍、瀕死の状態。
このクズ提督のせいで……壊されて、消えてしまった。
俺の胸の中で、何かが爆発した。
「……ああ。わかった」
俺は刀を構えた。
クズ提督が嘲笑う。
「は? 刀なんか持ってどうすんだよ?
お前みたいな素人が――」
言葉の途中で、俺は動いた。
一瞬で間合いを詰め、刀の峰でクズ提督の腕を叩き落とす。
ガキンッ!
鞭が床に落ちる。
「ぐあっ!? てめぇ……!」
クズ提督が怒鳴るが、俺は止まらない。
次の瞬間、刀の柄で顎を打ち上げる。
続けて、腹に膝蹴り。
さらに、刀の鞘でこめかみを殴りつける。
ボコッ! ゴッ! ドスッ!
一撃ごとに、クズ提督の体が折れ曲がる。
「うがっ……! やめ……やめろぉ……!」
「やめろ? お前が今まで艦娘に言った言葉、全部返してやるよ」
俺は刀を振り回し、クズ提督の両腕を叩き、膝を砕き、最後に、顔面に拳を叩き込んだ。
ドガッ!
クズ提督は床に倒れ、動かなくなった。
鼻血と涎を垂らして、ぐったりと。
部屋が、静かになった。
艦娘たちの視線が、俺に注がれる。
金剛が、震える声で呟く。
「……貴方…は……?」
雷が、涙を浮かべて。
「……ほ、本当に……助けてくれた……?」
俺は刀をそっと床に置き、天龍の方を向いた。
「天龍……約束、守ったよ。
龍田の分も……全部、終わらせた」
天龍の唇が、微かに動く。
それは、かすかな笑みだった。
俺は深呼吸して、ゆっくりと全員を見回した。
「……もう、誰も傷つけさせねぇ。
この俺が、新しい提督だ」
ブラック鎮守府の、長い悪夢が――
ようやく、終わろうとしていた。
いやぁ書き始めると意外と進みますねぇ、補佐係のグロックさんには感謝です。こうして艦これを現代でも楽しめるはとても楽しいですね。