想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
号が、俺の腹から刀を引き抜いた。
熱い痛み。
遅れて血が流れる感覚が来る。
俺が呆然としていると、次の瞬間――
吉沢さんの蹴りが顔面に叩き込まれた。
「ぐはっ……!」
視界が揺れる。
体が吹き飛ぶ。
床を転がりながら、なんとか受け身を取る。
吉沢さんは、苦しそうな顔で言った。
「ごめん、大地」
「僕は死にたくない」
一拍。
「だから代わりに死んでくれ」
俺は歯を食いしばりながら立ち上がる。
腹が痛む。
顔も熱い。
だが、それ以上に頭が混乱していた。
「……これが仲間の試練かよ」
拳を構える。
「精神の試練より、よっぽど精神にくるだろ……!」
悪態をついた瞬間だった。
号が踏み込む。
吉沢さんが横から来る。
さらに――
花崎。
瑠偉。
全員が、俺に向かって技を放ってきた。
俺は回避する。
防ぐ。
避けきれず、また傷を負う。
だが。
戦いながら、思い出していた。
精神の試練で、あの分身が最後に言った言葉を。
『その理想は一人では叶わない』
『仲間がいる』
『その仲間を、お前は信じ切れるのか』
――信じる。
その言葉が本当なら。
攻撃して倒すのは、違う。
それは、さっきの試練で学んだことだ。
まずは対話だ。
俺は号の斬撃を受け流しながら叫ぶ。
「なんで俺を襲うんだよ、号!」
号は刀を構えたまま答えた。
「落葉松《からまつ》に言われたんだ」
「俺の命を助ける代わりに、お前を殺せって」
その声は冷たかった。
「ここにいる全員」
「お前が死ねば助かる」
「だから死んでくれ」
「大地」
刀の切っ先が、まっすぐ俺に向けられる。
俺は息を切らしながら言う。
「だったら」
「俺と一緒に落葉松と戦おう」
「みんなで立ち向かえば、必ず勝てる!」
だが。
号は首を振った。
「無理だ」
「落葉松には誰も勝てない」
吉沢さんも続ける。
「悪いけど大地」
「精神論じゃ勝てない」
「やつは想界石と融合してる」
「もう神みたいな存在なんだ」
瑠偉も、花崎も。
誰も反論しない。
ただ俺を見ている。
それが、逆におかしかった。
「神に勝てるわけがない」
号が静かに言う。
「おとなしく従うべきなんだ」
その言葉を聞いた瞬間。
腹の奥が、熱くなった。
苛立ちだった。
「……ふざけるなよ」
俺は拳を握る。
「号が」
「みんなが」
「そんなこと言うわけないだろ」
一歩前に出る。
「お前らは、いつだって自分を信じてきた」
「負けそうでも」
「無理だって言われても」
「諦めたことなんて一度もなかった!」
号たちは黙ったまま、俺を見る。
「それ簡単だ」
俺はさらに拳を握りしめる。
「想界師だからだ」
「俺たち想界師は、想いがすべてだ」
「想いがないなら」
「それはもう死んでるのと同じなんだよ!」
拳に力を込める。
血が出るほどに。
――そのはずだった。
「……あ?」
違和感。
痛みが、浅い。
手を見る。
あれだけ握ったのに、血が出ていない。
そこで、気づく。
……おかしい。
俺は、さっきから号の刀も、吉沢さんの蹴りも受けてきた。
前王ガイアとの戦い。
分身との戦い。
そこで受けたダメージもある。
想力だって、かなり消耗しているはずだ。
なのに。
まだ動ける。
まだ戦えている。
腹に手を当てる。
傷はある。
でも、浅い。
血もほとんど出ていない。
痛みも、妙に薄い。
「……なんだこれ」
神殿の力。
そう考えることもできる。
だが、それでも不自然すぎる。
そもそも、この試練自体がおかしい。
力の試練は明確だった。
精神の試練も、答えがあった。
なのに、この仲間の試練はどうだ。
条件が曖昧すぎる。
まるで――
クリアさせる気がないみたいだ。
そこまで考えた時。
一つの記憶が、脳裏をよぎった。
楽座家での修行。
落葉松が作り出した、夢を見せる結界。
あの迷宮だ。
あの時も、表向きの条件は迷宮の突破だった。
だが本当の正解は違った。
自死による脱出。
あの結界は、そういう構造だった。
そして今のこの空間は――
あれに似ている。
「……そうか」
俺は小さく呟く。
号たちの姿を見る。
こいつらは、仲間じゃない。
仲間の皮をかぶった、試練だ。
だが。
ここで俺が死ねばどうなる?
それでクリア?
いや、違う。
今回は、王を見極める選定だ。
王が自死を選ぶなんてそんな答えなわけがない。
それに仲間を見捨てることにもなる。
仲間を信じる試練なのに。
なら。
仲間を救って。
自分も先へ進める必要がある。
……そんな方法が、どこに――
――あるじゃねえか。
あの時と、同じやり方が。
俺は、ゆっくりと顔を上げた。
そして。
天井を見つめる。