想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第11話 揺れる「想い」

 トンネルの奥は、闇が溜まっていた。

 

 月明かりも届かず、空気が重い。

 一歩踏み込むたび、靴音が不自然に反響する。

 

 ――ぐぅ……。

 

 低く、引きずるような声が響いた。

 

 胸の奥が、ぞわりと震える。

 

「……いる」

 

 天歌が、短く言う。

 

 次の瞬間だった。

 

 ――あ゛あ゛あ゛……。

 

 泣き声。

 それも、ただの鳴き声じゃない。

 

 悲しみが、音になって漏れ出している。

 

 姿が、闇の中から現れる。

 

 獣のような体。

 だが、どこか歪で、不自然だ。

 

 目は虚ろで、焦点が合っていない。

 喉を震わせるたび、声が洞内に反響する。

 

 ――まるで、誰かを探しているみたいだ。

 

「……動けない」

 

 足が、重い。

 体が、言うことを聞かない。

 

 声を聞くたび、胸が締めつけられる。

 

「これ……能力か……?」

 

 想いが、直接ぶつけられている感覚。

 

 想獣も、想いが強ければ具現化する。

 式もなく、制御もなく。

 

 ただ、漏れ出している。

 

「……っ」

 

 そのとき、一番最初に動いたのは天歌だった。

 

「うるさいわね」

 

 一歩、前に出る。

 

「その汚い音――弾き飛ばしてあげる」

 

 天歌の足が、滑らかに動き出す。

 

 踊るようなステップ。

 彼女の剣先が地面を叩くたび、火花が円を描いて闇を裂く。その舞は、怪物の泣き声すらも「伴奏」に変えてしまうほどに、残酷で、傲慢なまでに美しかった。

 

 ――舞舞。

 

 踊ることで、己を高め、

 踏み乱すことで、空間そのものを狂わせる。

 

 不協和音が、次々と削ぎ落とされていく。

 

「……今だ!」

 

 声が、戻る。

 

 俺は、拳を突き出した。

 

 ――フィストガン。

 

 衝撃が、弾丸のように飛ぶ。

 

 想獣の体を、揺らす。

 

「ひっ……!」

 

 花崎が、震えながらも両手を地面に向ける。

 

 草が、一気に伸びる。

 絡みつき、獣の動きを止める。

 

「と、止まって……!」

 

 過剰になりかけた成長を、必死で抑えている。

 

「いい……!」

 

 天歌が、踏み込む。

 

 剣が、踊る。

 刃が、想獣を切り裂く。

 

 悲鳴が、響いた。

 

「……ママ……」

 

 想獣が、崩れ落ちる。

 

「ママ……」

 

 声は、次第に小さくなり――

 光となって、消えた。

 

 沈黙。

 

 トンネルに、静けさが戻る。

 

「……終わった?」

 

 花崎が、恐る恐る言う。

 

 天歌は、剣を収めた。

 

「ええ。任務は――」

 

 その瞬間。

 

「チッ」

 

 聞こえたのは、明らかに“人の声”だった。

 

「だから嫌いなんだよ。ガキは」

 

 空気が、凍りつく。

 

 闇の奥から、粘りつくような「殺意」が染み出してきた。トンネルのコンクリートが、その怪物が歩くたびにミシミシと悲鳴を上げ、俺たちの肺から無理やり空気を絞り出すような重圧が立ち込める。

 

 獅子のような頭部。

 圧倒的な体躯。

 

 立っているだけで、呼吸が苦しい。

 

 ――黒等級。

 

 理屈じゃない。

 本能が、そう叫んでいた。

 

 影が、笑う。

 

「遊びは終わりだ」

 

 次の瞬間、

 世界が、揺れた。

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