想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
トンネルの奥は、闇が溜まっていた。
月明かりも届かず、空気が重い。
一歩踏み込むたび、靴音が不自然に反響する。
――ぐぅ……。
低く、引きずるような声が響いた。
胸の奥が、ぞわりと震える。
「……いる」
天歌が、短く言う。
次の瞬間だった。
――あ゛あ゛あ゛……。
泣き声。
それも、ただの鳴き声じゃない。
悲しみが、音になって漏れ出している。
姿が、闇の中から現れる。
獣のような体。
だが、どこか歪で、不自然だ。
目は虚ろで、焦点が合っていない。
喉を震わせるたび、声が洞内に反響する。
――まるで、誰かを探しているみたいだ。
「……動けない」
足が、重い。
体が、言うことを聞かない。
声を聞くたび、胸が締めつけられる。
「これ……能力か……?」
想いが、直接ぶつけられている感覚。
想獣も、想いが強ければ具現化する。
式もなく、制御もなく。
ただ、漏れ出している。
「……っ」
そのとき、一番最初に動いたのは天歌だった。
「うるさいわね」
一歩、前に出る。
「その汚い音――弾き飛ばしてあげる」
天歌の足が、滑らかに動き出す。
踊るようなステップ。
彼女の剣先が地面を叩くたび、火花が円を描いて闇を裂く。その舞は、怪物の泣き声すらも「伴奏」に変えてしまうほどに、残酷で、傲慢なまでに美しかった。
――舞舞。
踊ることで、己を高め、
踏み乱すことで、空間そのものを狂わせる。
不協和音が、次々と削ぎ落とされていく。
「……今だ!」
声が、戻る。
俺は、拳を突き出した。
――フィストガン。
衝撃が、弾丸のように飛ぶ。
想獣の体を、揺らす。
「ひっ……!」
花崎が、震えながらも両手を地面に向ける。
草が、一気に伸びる。
絡みつき、獣の動きを止める。
「と、止まって……!」
過剰になりかけた成長を、必死で抑えている。
「いい……!」
天歌が、踏み込む。
剣が、踊る。
刃が、想獣を切り裂く。
悲鳴が、響いた。
「……ママ……」
想獣が、崩れ落ちる。
「ママ……」
声は、次第に小さくなり――
光となって、消えた。
沈黙。
トンネルに、静けさが戻る。
「……終わった?」
花崎が、恐る恐る言う。
天歌は、剣を収めた。
「ええ。任務は――」
その瞬間。
「チッ」
聞こえたのは、明らかに“人の声”だった。
「だから嫌いなんだよ。ガキは」
空気が、凍りつく。
闇の奥から、粘りつくような「殺意」が染み出してきた。トンネルのコンクリートが、その怪物が歩くたびにミシミシと悲鳴を上げ、俺たちの肺から無理やり空気を絞り出すような重圧が立ち込める。
獅子のような頭部。
圧倒的な体躯。
立っているだけで、呼吸が苦しい。
――黒等級。
理屈じゃない。
本能が、そう叫んでいた。
影が、笑う。
「遊びは終わりだ」
次の瞬間、
世界が、揺れた。