想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
ドアをくぐる。
次の瞬間、俺は神殿の前に立っていた。
振り返る。
重い門は、すでに閉じていた。
さっきまでの出来事が、まるで夢だったみたいに静かだった。
俺はゆっくり歩き出す。
「その顔を見る限り――」
聞き覚えのある声。
「無事、王になれたみたいだな」
顔を上げる。
そこには、手を振る燈真の姿があった。
俺は思わず笑う。
「おう」
「無事なれたぜ」
一拍。
「王にな」
燈真は口元を緩めた。
俺はそのまま続ける。
「あんたのおかげだ」
すると、燈真は首を振った。
「いや」
「もともとお前には、その素質があった」
「俺が関わらなくても、いつかは辿り着いてたさ」
「それでもだよ」
俺はまっすぐ燈真を見る。
「あんたに教わったことがあったから、ここまで来れた」
「ありがとうな」
燈真は一瞬だけ目を逸らした。
少し照れくさそうだった。
「……よせよ」
そう言って、わざとらしく話題を変える。
「それで」
「あいつに会ったんだろ?」
「原初の想獣に」
俺は頷いた。
そして、原初の想獣から聞いたこと。
落葉松を想界へ引きずり込み、台座に縛りつける作戦。
それを全部、燈真に話した。
話を聞き終えた燈真は、納得したように頷く。
「たしかにな」
「あいつの協力があれば、できる作戦だ」
そして、拳を握った。
「よし」
「行くか」
「地球に」
一拍。
「俺も、嫁や弟を救わなきゃならねえ」
その言葉に、俺も拳を握る。
みんなを助ける。
落葉松をぶっ倒す。
そのために、俺はここまで来たんだ。
「でも――」
そこで俺は気づく。
「どうやって地球に戻るんだ?」
燈真が、きょとんとした顔をした。
「え?」
「王様パワーで行けるんじゃないのか?」
俺は真顔で答える。
「そんな力ないぞ」
沈黙。
燈真が頭を抱える。
「やべぇ」
「帰る手段ねえぞ」
「ええええ!?」
俺も思わず叫んだ。
さっきまであんなに格好つけてたのに。
最後の最後でこれかよ。
二人して慌てふためいていると――
空間に、音もなくドアが現れた。
そして。
あの声が響く。
『君たちはまったく』
『最後まで慌ただしい人たちだね』
一拍。
『どうせそんなことだろうと思って、用意しておいたよ』
俺と燈真は顔を見合わせた。
なんというか。
さっきまであんなにいい感じで別れたのに、ものすごく恥ずかしい。
『ほら、僕の力はそう長くはもたない』
『早く行くんだ』
『ドアの向こうで、君たちを待っている彼らを救え』
その言葉に、俺たちは頷いた。
「……世話になるな」
燈真が言う。
俺も小さく頭を下げた。
「ありがとよ」
そして。
俺たちはドアを開き、その向こうへ踏み込んだ。
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誰かが、俺を呼んでいる。
遠く。
かすかに。
けれど、徐々にその声は鮮明になっていく。
意識が浮上する。
重たい瞼を開く。
「……っ」
体を起こす。
全身がだるい。
頭も重い。
だが、目の前の光景を見た瞬間、眠気なんて吹き飛んだ。
結界。
透明な壁の向こうに、人影が見える。
だるい体を引きずりながら近づく。
そこにいたのは――
「……兄貴?」
烈だった。
鳴海烈《なるみれつ》。
兄貴が、結界に閉じ込められている。
なんでだ。
どうしてこんなことに。
その時、記憶が徐々に戻ってくる。
そうだ。
俺はミュートが兄貴を殺そうとしたから、それを止めるために戦ったんだ。
がむしゃらに。
必死に。
じゃあ、勝ったのか?
勝ったなら、なんで兄貴は閉じ込められてる?
嫌な予感がする。
俺は走り出した。
城の中を見て回る。
部屋。
通路。
広間。
そこかしこに結界があり、その中に人がいる。
閉じ込められている。
みんな。
誰も彼も。
「なんだよ、これ……」
そのまま城の奥へ向かう。
すると、男が倒れていた。
急いで駆け寄る。
床は赤く染まっている。
嫌な予感が、さらに強くなる。
そして。
倒れている男の顔が見えた瞬間。
俺の喉がひくりと震えた。
「――国重《くにしげ》さん……?」
死体だった。
楽座国重。
もう、動かない。
俺は思わず口元を押さえる。
吐き気が込み上げた。
頭が真っ白になる。
それでも、足を止めるわけにはいかなかった。
さらに進む。
そこには、天舞愛華《てんまいあいか》が結界に閉じ込められていた。
そして――
肝心の想界石は、消えていた。
「……何があったんだよ」
その時だった。
「……おい」
声がした。
「おい」
かすかだった声が、少しずつはっきりしていく。
近づく。
床に、リボルバーが落ちていた。
俺はそれを拾い上げる。
すると、はっきりと声が聞こえた。
「まさか……まさかだぜ」
「生きてやがるとはな、号!」
その声で、すぐに分かった。
「……ビリー?」
ジョンの相棒。
銃の式神、ビリーだ。
「一体、何があったんだ?」
俺が聞くと、ビリーは短く答えた。
「簡潔に言えば――」
一拍。
「落葉松《からまつ》が裏切った」
俺は、思わず銃を落としかけた。
「……は?」
「みんなを結界に閉じ込めて」
「あいつは想界石と融合した」
「世界は変わった」
「今や、やつのものだ」
理解が追いつかない。
理解したくない。
「そんな……馬鹿な……」
だが、周囲の光景が、その言葉を否定してくれなかった。
俺は震える声で聞いた。
「……大地《だいち》は?」
ビリーが一瞬黙る。
そして。
「突然、消えちまった」
「俺にも分からねえ」
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥が冷えた。
俺だけが、生き残ったのか。
何もできずに。
また。
また俺は――
その時だった。
「その気持ちは分かるぜ」
ビリーが言う。
「俺も、ここでずっと孤独だった」
一拍。
「だがな」
声が強くなる。
「天はまだ、俺たちを見放しちゃいねえ!」
俺は顔を上げる。
「一人じゃ何もできねえ」
「だが、今は二人だ!」
ビリーの声が響く。
「俺たちで、みんなを救うんだよ!」
その言葉に、俺ははっとした。
そうだ。
想界師の役目。
俺たちは、救うためにいる。
俺は銃を握り直す。
「……そうだったな」
「ビリー」
「俺たちで、みんなを救おう」
「おう!」
ビリーが応える。
「行くぞ、号!」
「どこにだ?」
俺が聞くと、ビリーは言った。
「ちらっと聞こえたんだよ」
「落葉松《からまつ》の声をな」
一拍。
「やつは――」
「東京に向かった」