想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
第123話 溶け合う「想い」
扉の先へ踏み込んだ瞬間、燈真《とうま》は眉をひそめた。
そこは、静まり返った部屋だった。
隣にいるはずの大地の姿はない。
「……はぐれたか」
いや、と燈真はすぐに考えを改める。
「あいつのことだ。自分が行くべき場所に、先に飛ばされたんだろ」
思わず、口元が緩む。
「粋なことしやがる」
そう呟き、部屋を見渡したその時だった。
床に、倒れ伏す人影があった。
「……国重」
燈真の声が低くなる。
楽座国重《らくざくにしげ》。
その身体は、もう動かなかった。
近づく。
息はない。
冷えた現実だけが、そこにあった。
「死んじまったか……」
短く漏れた声に、悔しさが滲む。
「だが、無駄にはしねぇ」
燈真は静かに拳を握った。
「お前の無念、必ず晴らす」
そのまま奥へ進む。
すると、部屋の中心に巨大な結界が張られていた。
淡く揺らめく壁の向こうに、一人の女が立っている。
「……愛華」
燈真の目が見開かれた。
天舞愛華《てんまいあいか》。
ずっと探し続けた女が、そこにいた。
「燈真……」
結界越しに聞こえる声は、ひどく穏やかだった。
だが、燈真はすぐに結界へ手を当て、表情を険しくする。
「くそ……なんて強度だ」
ただの封印じゃない。
重なった呪いと想力が、何重にも絡みついている。
しかも、結界そのものが生き物のように拒絶してくる。
「俺の結界術でも、遠く及ばねぇか」
それでも、燈真は笑った。
「だがな――」
拳が、黄金に光る。
「この程度で、俺の何百年の想いは止められねぇぞ。落葉松《からまつ》ッ!」
拳を叩きつける。
轟音。
結界が揺れる。
もう一撃。
さらに一撃。
拳が裂ける。
血が飛ぶ。
それでも止まらない。
「たとえ血が出ようが!」
叩く。
「拳が砕けようが!」
叩く。
「この想いを伝えるまでは、俺は砕けねぇ!!」
黄金の拳が、何度も何度も結界を打つ。
やがて――
ぴしり、と亀裂が走った。
燈真の目が燃える。
「うおおおおおおおお!!」
渾身の一撃。
結界はついに砕け散った。
光の破片が舞う。
「愛華!!」
燈真は迷わず駆け寄り、その身体を抱きしめた。
愛華もまた、静かに彼を抱き返す。
「……ふふ」
小さく笑う。
「私も、愛しているわ。燈真」
その言葉を聞いた瞬間、燈真の肩が震えた。
「待たせた……本当に、待たせちまった」
声がかすれる。
「もう二度と離さねぇ」
抱く腕に、力がこもる。
愛華はその胸に額を預け、そっと目を閉じた。
「ええ。私も、もう離さないわ」
二人を隔てていた壁は、ようやく砕けた。
長すぎた時間が、ようやく報われる。
だが、愛華はそっと燈真の胸を押した。
「私はもう大丈夫よ」
「愛華……」
「早く、みんなを助けてあげて」
燈真は一瞬だけ迷い、そして深く頷いた。
「……分かった。すぐ戻る」
「ええ」
愛華は微笑む。
「信じてるわ」
燈真は立ち上がり、次の部屋へと走った。
その背を見送りながら、愛華は小さく息を吐く。
「あいかわらず……騒がしい人ね」
けれど、その表情は柔らかかった。
「……ふふ」