想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第124話 起き上がる「想い」

次の部屋に飛び込んだ燈真は、目の前の光景に舌打ちした。

 

「おい、馬鹿相馬」

 

 結界の中で、荒木相馬《あらきそうま》が眠るように倒れている。

 

「なにまんまとやられてんだよ。さっさと起きやがれ」

 

 燈真は拳を振るい、結界を叩き壊した。

 

 砕けた衝撃で、相馬が目を覚ます。

 

「……んだよ、いい夢だったのによ……」

 

 ぼやきながら上体を起こした相馬は、燈真の顔を見て固まった。

 

「……兄貴?」

 

 瞬きする。

 

「え、なんで……」

 

 ぽかんと口を開ける。

 

「俺、まだ夢見てんのか?」

 

「そんなわけあるか」

 

 燈真の拳骨が、相馬の頭に落ちた。

 

「いってぇぇぇぇ!?」

 

 相馬は頭を押さえ、涙目になる。

 

「この痛み……夢じゃねぇ……!」

 

 次の瞬間、勢いよく燈真に抱きついた。

 

「どこ行ってたんだよ兄貴!!」

 

「長旅だったんだよ。まったく」

 

 燈真は呆れたように言いながらも、少しだけ笑う。

 

「感動の再会は後だ。働け」

 

「おう?」

 

「お前なら、他の結界も簡単に斬れるだろ。寝てた分、仕事しろ」

 

 相馬はにやりと笑った。

 

「任せろっての」

 

 刀を抜く。

 

 次々と結界が斬り裂かれていく。

 

「お前ら起きろ――!!」

 

 封じられていた想界師たちが、次々と解放されていく。

 

 やがて、全員が一つの部屋へ集まった。

 

 勝吾が燈真を見て目を細める。

 

「……それで、なぜおぬしがおる。燈真」

 

「色々あったんだよ」

 

 燈真は肩をすくめる。

 

「大地が想界まで来て、助けてくれた」

 

 その言葉に、空気がざわめいた。

 

「大地が……想界に?」

 

「本当に無茶しやがるな、あいつ」

 

 相馬は呆れながらも、どこか嬉しそうだった。

 

「で、今その大地はどこだ?」

 

 相馬が問うと、愛華が静かに答えた。

 

「東京よ」

 

「東京?」

 

「落葉松《からまつ》も、そこにいるわ」

 

 一足先に東京へ向かった。

 

 その事実に、相馬の顔が引き締まる。

 

「そうか……」

 

 そして、ふと辺りを見回した。

 

「……号は?」

 

「大地と一緒よ」

 

 愛華の答えに、相馬はふっと笑った。

 

「さすがは俺の弟子だ!」

 

 胸を張る。

 

「俺より先に東京に向かってるとはな!」

 

 すると、愛華が冷ややかに言った。

 

「あんたは寝てただけでしょ」

 

「うるせぇ!!」

 

 相馬が即座に拗ねる。

 

 そのやり取りに、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。

 

 だが、燈真が前に出る。

 

「ふざけるのはここまでだ」

 

 全員の視線が集まる。

 

「落葉松にやられっぱなしじゃ、メンツが丸つぶれだ」

 

 燈真の声が低く響く。

 

「あいつの鼻っ柱を、全員でへし折るぞ」

 

 想界師たちの目に、再び火が灯る。

 

「準備しやがれ、お前ら」

 

 その一言で、場が沸き立った。

 

 だが、愛華が額を押さえながら言う。

 

「待ちなさい、馬鹿ども」

 

 全員が振り向く。

 

「東京にどうやって行くつもりよ」

 

 相馬が即答した。

 

「走って」

 

 愛華の拳が飛んだ。

 

「そんなので間に合うの、あんたぐらいでしょ!!」

 

「いてぇ!!」

 

 相馬が頭を押さえる。

 

 愛華は大きく息を吐き、前に出た。

 

「……私が転移させるわ」

 

「愛華、お前……」

 

 燈真が止めようとする。

 

 だが、愛華は首を横に振った。

 

「落葉松との戦いで、もう身体はボロボロよ。しばらく戦闘はできない」

 

 それでも、彼女の目は強かった。

 

「だからこそ、最後の仕事くらいはしてあげる」

 

 愛華の想力が広がる。

 

 空間が震え、光が捻じれ、巨大な転移の扉が開かれた。

 

 その先には、東京の気配がある。

 

「さあ、行きなさい!」

 

 真っ先に相馬が駆け出す。

 

「落葉松!! 絶対ボコボコにしてやるぜ!!」

 

 次々と仲間たちが扉を潜っていく。

 

 だが、その直後。

 

 愛華の膝が崩れた。

 

「愛華!」

 

 燈真が支える。

 

 細い身体が、思った以上に熱を失っていた。

 

「……大丈夫よ」

 

 愛華は苦しげに笑う。

 

「ちょっと、力を使いすぎただけ」

 

「無茶しやがって……」

 

「いいの」

 

 愛華は燈真を見上げた。

 

「早く行って。大地に……恩を返してあげて」

 

 燈真は唇を噛み、そして強く頷く。

 

「ああ。当然だ」

 

 愛華の額にそっと手を当てる。

 

「必ず戻る」

 

「ええ」

 

 愛華は静かに微笑んだ。

 

「信じてるわ」

 

 燈真は立ち上がり、最後に一度だけ彼女を見て、扉へ向かう。

 

 そして振り返らずに東京へと消えた。

 

 転移の扉が閉じる。

 

 部屋に静寂が戻った。

 

 愛華はその場に、ゆっくりと倒れ込む。

 

「あーあ……疲れた」

 

 天井を見上げる。

 

 張り詰めていた力が、もう残っていない。

 

 それでも、その顔には穏やかな笑みがあった。

 

「ありがとうね、大地」

 

 小さく呟く。

 

「あなたが動いてくれたから……ここまで来れた」

 

 瞼が重い。

 

 けれど、その心は不思議と温かかった。

 

「あと少し……」

 

 薄れていく意識の中で、愛華は願う。

 

「みんなを、お願いね……」

 

 静かな部屋に、その声だけが溶けていった。

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