想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
朝が来た。
激動の一日を終えた俺たちは、転神町の地下で身を休めていた。
外は崩壊した東京。
だが、ここだけは不思議と静かだった。
少しだけ眠っただけなのに、体は驚くほど軽くなっていた。
それでも、心の奥ではずっと火が燃えている。
落葉松を止める。
その想いだけは、誰の中でも消えていなかった。
「さて――」
相馬さんが立ち上がる。
「ゆっくり寝たことだし、作戦会議といこうぜ」
その一言で、みなが一か所に集まった。
俺たちは輪になるように座る。
顔ぶれを見れば、ここまで戦い抜いてきた仲間たちが全員そろっていた。
号、吉沢さん、瑠偉、花崎、優華、翔、勝吾さん、烈、安室さん、ハワード。
そして俺。
ここに来るまで、誰が欠けてもたどり着けなかった。
「まずは情報を整理しよう」
そう切り出したのは俺だった。
「楽座落葉松は、俺たちを裏切った」
場の空気が静まる。
「実の父である国重さんを殺して、想界石を奪った。そして、自分自身を想界石に付与した」
その言葉の重さに、誰も軽口を叩かない。
「それだけじゃない。あいつは、この世界の人間すべてに式想を与えた。しかも、想界石の修正力を利用して、偽りの記憶まで植え付けたんだ」
俺は拳を握る。
「式想があるのが当たり前の世界。そう思い込ませた」
「さらに、東京の大結界がある御沁を奪って、空へ上げた」
号が続ける。
「現状、奴は想界石の力そのものを使っている」
静かだが、よく通る声だった。
「あれに自身を付与した以上、もう他のものに付与することはできないはずだ。……まあ、それが弱点になるかどうかは分からないがな」
そこまで聞いて、相馬さんが腕を組んだ。
「で、ここからどうする?」
視線が号に向く。
号は短く答えた。
「荒木家には、御沁に続く転移の扉がある」
その言葉に、何人かが顔を上げた。
「あれを使えば、空に浮かぶ島に直接入れる」
「なら話は早いじゃねえか」
翔が言う。
だが、号は首を横に振った。
「問題は、その前だ。島の周囲には大量の想獣がいる。それだけじゃない。荒木家の屋敷周辺には、黒等級の想獣が集中している。簡単には近づけない」
「だからこそ、私たちがいる」
安室さんが静かに口を開いた。
その表情に迷いはない。
「そういうことだ」
俺が頷く。
「転移の扉を使うためには、まず荒木家の屋敷までたどり着かないといけない。そのために、外で想獣を引きつける戦力が必要になる」
そこで勝吾さんが口を開いた。
「質問なんじゃが」
低い声が響く。
「なぜわしらも周辺と戦う必要がある? 全員まとめて転移させればよいのではないか?」
それに答えたのは号だった。
「荒木家の転移は四人しか運べない」
一瞬の沈黙。
そして、みんなの視線が一斉に相馬さんへ向いた。
「……なんだよ」
「相馬さんがケチったからな」
号がさらっと言う。
「おい」
「うちは兄貴がいないと貧乏なんだよ!」
相馬さんが開き直るように叫ぶと、全員がなんとも言えない顔になった。
呆れ。
ため息。
諦め。
そんな空気が一斉に流れる。
「いや、威張るところじゃないでしょ……」
花崎が小さく突っ込む。
少しだけ空気が緩んだ。
「なら、誰が行くんじゃ?」
勝吾さんの問いに、相馬さんが真っ先に手を挙げた。
「俺たちだ」
相馬さんの顔には、迷いが一切ない。
「御前試合で勝ったのは誰だったか、忘れてねえだろ? 一番強いのは俺たちだ」
どや顔だった。
勝吾さんは露骨に眉をひそめたが、すぐに鼻を鳴らす。
「……まあ、妥当かのう」
そして俺を見る。
「だが、どうやって落葉松を倒すつもりじゃ、小僧」
全員の視線が集まる。
俺は一度深く息を吸った。
「やつを、想界石に近づける」
「……それで?」
「あとは俺がやる」
言い切る。
勝吾さんの鋭い目が俺を射抜いた。
「できるのか?」
その問いに、俺は迷わなかった。
「できる」
拳を握る。
「いや、やる。俺に任せてくれ」
一瞬の沈黙。
それから勝吾さんは口元をゆがめた。
「……生意気なやつじゃ」
けれど、その目にはわずかに熱があった。
「任せたわい」
その隣で、勝吾さん自身も拳を鳴らす。
「なら、わしらは外で大騒ぎしてやるかのう」
血が滾っているのが、見ていて分かった。
その時だった。
地下室の扉が、ゆっくりと開いた。
「私たちも協力するわ」
その声に、みなが一斉に振り返る。
「姉さん……!」
そこに立っていたのは怜さんだった。
その後ろには、クレッシェとノクターンの姿もある。
「来てくれたのか」
号が言うと、怜さんは肩をすくめた。
「ええ。約束は守る主義よ」
クレッシェはにこにこと笑っているが、その目の奥は読めない。
ノクターンは相変わらず無表情に近かった。
二人を見た瞬間、瑠偉が顔をしかめた。
「……あいつら、なんでここにいるのよ」
それは当然の反応だった。
相馬さんも、すぐに目を細める。
「おいおい。なんでファズエットがここにいる」
ぴり、と空気が張り詰める。
ノクターンが一歩前に出た。
「あなた方だけではないんですよ。カデン――いや、落葉松に裏切られたのは」
低い声。
「奴はファズエットも裏切った。そして、ノイズ様を連れ去った」
その言葉に、場の空気がさらに重くなる。
「報いを受けさせる」
ノクターンの目には、はっきりとした殺意があった。
「殺すなら、そのあとにしてください」
相馬さんは鼻で笑う。
「もちろん、そうさせてもらう」
一歩踏み出す。
「裏切ってみろ。即刻殺すぞ」
ノクターンも引かない。
「君たちもね」
その笑みは薄く、冷たい。
一触即発。
そんな空気だった。
だが、俺は立ち上がった。
「もういい」
みんながこちらを見る。
「今は、落葉松を倒すことだけを考えるべきだ」
俺はノクターンたちを見る。
「信じるわけじゃない。でも、利用し合うくらいはできる」
そして仲間たちを見る。
「ここで争ってる暇はない。今だけは全員、同じ敵を見よう」
しばらく沈黙が落ちたあと、相馬さんが舌打ちした。
「……ちっ。分かったよ」
ノクターンも肩をすくめる。
「こちらもそのつもりです」
「戦力は、これで全部だな」
俺はみんなの顔を見る。
これが今、俺たちにできる全力。
足りないかもしれない。
でも、足りないならぶつけるしかない。
「みんな、行こう」
立ち上がる。
「荒木家の屋敷に向かうぞ」
その声に、全員が動き出した。
もう迷いはない。
最終決戦が、始まる。