想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第127話 照らし合う「想い」

 朝が来た。

 

 激動の一日を終えた俺たちは、転神町の地下で身を休めていた。

 外は崩壊した東京。

 だが、ここだけは不思議と静かだった。

 

 少しだけ眠っただけなのに、体は驚くほど軽くなっていた。

 それでも、心の奥ではずっと火が燃えている。

 

 落葉松を止める。

 

 その想いだけは、誰の中でも消えていなかった。

 

「さて――」

 

 相馬さんが立ち上がる。

 

「ゆっくり寝たことだし、作戦会議といこうぜ」

 

 その一言で、みなが一か所に集まった。

 

 俺たちは輪になるように座る。

 顔ぶれを見れば、ここまで戦い抜いてきた仲間たちが全員そろっていた。

 

 号、吉沢さん、瑠偉、花崎、優華、翔、勝吾さん、烈、安室さん、ハワード。

 そして俺。

 

 ここに来るまで、誰が欠けてもたどり着けなかった。

 

「まずは情報を整理しよう」

 

 そう切り出したのは俺だった。

 

「楽座落葉松は、俺たちを裏切った」

 

 場の空気が静まる。

 

「実の父である国重さんを殺して、想界石を奪った。そして、自分自身を想界石に付与した」

 

 その言葉の重さに、誰も軽口を叩かない。

 

「それだけじゃない。あいつは、この世界の人間すべてに式想を与えた。しかも、想界石の修正力を利用して、偽りの記憶まで植え付けたんだ」

 

 俺は拳を握る。

 

「式想があるのが当たり前の世界。そう思い込ませた」

 

「さらに、東京の大結界がある御沁を奪って、空へ上げた」

 

 号が続ける。

 

「現状、奴は想界石の力そのものを使っている」

 

 静かだが、よく通る声だった。

 

「あれに自身を付与した以上、もう他のものに付与することはできないはずだ。……まあ、それが弱点になるかどうかは分からないがな」

 

 そこまで聞いて、相馬さんが腕を組んだ。

 

「で、ここからどうする?」

 

 視線が号に向く。

 

 号は短く答えた。

 

「荒木家には、御沁に続く転移の扉がある」

 

 その言葉に、何人かが顔を上げた。

 

「あれを使えば、空に浮かぶ島に直接入れる」

 

「なら話は早いじゃねえか」

 

 翔が言う。

 

 だが、号は首を横に振った。

 

「問題は、その前だ。島の周囲には大量の想獣がいる。それだけじゃない。荒木家の屋敷周辺には、黒等級の想獣が集中している。簡単には近づけない」

 

「だからこそ、私たちがいる」

 

 安室さんが静かに口を開いた。

 

 その表情に迷いはない。

 

「そういうことだ」

 

 俺が頷く。

 

「転移の扉を使うためには、まず荒木家の屋敷までたどり着かないといけない。そのために、外で想獣を引きつける戦力が必要になる」

 

 そこで勝吾さんが口を開いた。

 

「質問なんじゃが」

 

 低い声が響く。

 

「なぜわしらも周辺と戦う必要がある? 全員まとめて転移させればよいのではないか?」

 

 それに答えたのは号だった。

 

「荒木家の転移は四人しか運べない」

 

 一瞬の沈黙。

 

 そして、みんなの視線が一斉に相馬さんへ向いた。

 

「……なんだよ」

 

「相馬さんがケチったからな」

 

 号がさらっと言う。

 

「おい」

 

「うちは兄貴がいないと貧乏なんだよ!」

 

 相馬さんが開き直るように叫ぶと、全員がなんとも言えない顔になった。

 

 呆れ。

 

 ため息。

 

 諦め。

 

 そんな空気が一斉に流れる。

 

「いや、威張るところじゃないでしょ……」

 

 花崎が小さく突っ込む。

 

 少しだけ空気が緩んだ。

 

「なら、誰が行くんじゃ?」

 

 勝吾さんの問いに、相馬さんが真っ先に手を挙げた。

 

「俺たちだ」

 

 相馬さんの顔には、迷いが一切ない。

 

「御前試合で勝ったのは誰だったか、忘れてねえだろ? 一番強いのは俺たちだ」

 

 どや顔だった。

 

 勝吾さんは露骨に眉をひそめたが、すぐに鼻を鳴らす。

 

「……まあ、妥当かのう」

 

 そして俺を見る。

 

「だが、どうやって落葉松を倒すつもりじゃ、小僧」

 

 全員の視線が集まる。

 

 俺は一度深く息を吸った。

 

「やつを、想界石に近づける」

 

「……それで?」

 

「あとは俺がやる」

 

 言い切る。

 

 勝吾さんの鋭い目が俺を射抜いた。

 

「できるのか?」

 

 その問いに、俺は迷わなかった。

 

「できる」

 

 拳を握る。

 

「いや、やる。俺に任せてくれ」

 

 一瞬の沈黙。

 

 それから勝吾さんは口元をゆがめた。

 

「……生意気なやつじゃ」

 

 けれど、その目にはわずかに熱があった。

 

「任せたわい」

 

 その隣で、勝吾さん自身も拳を鳴らす。

 

「なら、わしらは外で大騒ぎしてやるかのう」

 

 血が滾っているのが、見ていて分かった。

 

 その時だった。

 

 地下室の扉が、ゆっくりと開いた。

 

「私たちも協力するわ」

 

 その声に、みなが一斉に振り返る。

 

「姉さん……!」

 

 そこに立っていたのは怜さんだった。

 

 その後ろには、クレッシェとノクターンの姿もある。

 

「来てくれたのか」

 

 号が言うと、怜さんは肩をすくめた。

 

「ええ。約束は守る主義よ」

 

 クレッシェはにこにこと笑っているが、その目の奥は読めない。

 ノクターンは相変わらず無表情に近かった。

 

 二人を見た瞬間、瑠偉が顔をしかめた。

 

「……あいつら、なんでここにいるのよ」

 

 それは当然の反応だった。

 

 相馬さんも、すぐに目を細める。

 

「おいおい。なんでファズエットがここにいる」

 

 ぴり、と空気が張り詰める。

 

 ノクターンが一歩前に出た。

 

「あなた方だけではないんですよ。カデン――いや、落葉松に裏切られたのは」

 

 低い声。

 

「奴はファズエットも裏切った。そして、ノイズ様を連れ去った」

 

 その言葉に、場の空気がさらに重くなる。

 

「報いを受けさせる」

 

 ノクターンの目には、はっきりとした殺意があった。

 

「殺すなら、そのあとにしてください」

 

 相馬さんは鼻で笑う。

 

「もちろん、そうさせてもらう」

 

 一歩踏み出す。

 

「裏切ってみろ。即刻殺すぞ」

 

 ノクターンも引かない。

 

「君たちもね」

 

 その笑みは薄く、冷たい。

 

 一触即発。

 

 そんな空気だった。

 

 だが、俺は立ち上がった。

 

「もういい」

 

 みんながこちらを見る。

 

「今は、落葉松を倒すことだけを考えるべきだ」

 

 俺はノクターンたちを見る。

 

「信じるわけじゃない。でも、利用し合うくらいはできる」

 

 そして仲間たちを見る。

 

「ここで争ってる暇はない。今だけは全員、同じ敵を見よう」

 

 しばらく沈黙が落ちたあと、相馬さんが舌打ちした。

 

「……ちっ。分かったよ」

 

 ノクターンも肩をすくめる。

 

「こちらもそのつもりです」

 

「戦力は、これで全部だな」

 

 俺はみんなの顔を見る。

 

 これが今、俺たちにできる全力。

 

 足りないかもしれない。

 

 でも、足りないならぶつけるしかない。

 

「みんな、行こう」

 

 立ち上がる。

 

「荒木家の屋敷に向かうぞ」

 

 その声に、全員が動き出した。

 

 もう迷いはない。

 

 最終決戦が、始まる。

 

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