想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

128 / 138
第128話 満ちあがる「想い」

 荒木家の屋敷、その周囲には想獣の大群がひしめいていた。

 

 見渡す限り、異形、異形、異形。

 

 地を這うもの。

 空を舞うもの。

 巨躯を誇るもの。

 黒い想力をまとい、唸り声を上げるもの。

 

 その数は、もはや数えきれない。

 

 しかも、ただ多いだけじゃない。

 どれも強力な個体ばかりだった。

 

 普通なら、この場に立っただけで心が折れる。

 

 だが――

 

 俺たちは、もう引かなかった。

 

 号がジョンに向き直る。

 

「ビリーを返す」

 

 そう言って差し出そうとしたが、ジョンは首を横に振った。

 

「いや、まだ君が持っていてくれ」

 

 ジョンはビリーに想力を込める。

 

「ビリーはきっと役に立つ。最後まで君と行くべきだ」

 

 ビリーがふっと笑った気配がした。

 

「ってわけだ、号。よろしくな」

 

 号は小さく笑い、拳を突き出す。

 

「もちろんだ」

 

 拳と拳がぶつかる。

 

 短いやり取りだったが、それだけで十分だった。

 

 俺は吉沢さんの前に立つ。

 

「吉沢さん」

 

「ああ」

 

「生きて、また会おう」

 

 吉沢さんは優しく笑った。

 

「当然だ。僕の分まで戦ってこい」

 

 俺と吉沢さんの拳が、静かにぶつかる。

 

 周りを見れば、誰一人として万全じゃない。

 

 傷だらけだ。

 疲労もある。

 痛みも残っている。

 

 それでも、全員の目に宿る光だけは消えていなかった。

 

 俺は一歩前に出る。

 

「みんな」

 

 声を張る。

 

「最後の戦いだ」

 

 全員の視線が集まる。

 

「絶対に生きて、東京に朝日を照らすぞ!」

 

 一瞬の静寂。

 

 そして、次の瞬間――

 

「おおおおおおおお!!」

 

 雄叫びが響いた。

 

 みんなの想いが、爆発するみたいに空気を震わせる。

 

「行くぞ――!!」

 

 俺たちは、想獣の群れへ突っ込んだ。

 

 転移するメンバーは四人。

 

 俺。

 号。

 相馬さん。

 燈真さん。

 

 俺たちは周囲を見ない。

 ただ前だけを見る。

 

 屋敷へ。

 

 転移の扉へ。

 

 そこにたどり着くことだけを考える。

 

 俺たちの進む道を、仲間たちが切り開いていく。

 

 右から飛びかかってきた巨大な想獣を、勝吾さんが真正面から迎え撃った。

 

「ゆけぇぇぇぇぇ!!」

 

 鬼と化した勝吾さんが、その巨体を押さえつける。

 

 別の想獣が俺たちへ狙いを定める。

 

 だが、その直前に翔さんの音が割り込んだ。

 

 感情を乗せた旋律が衝撃となり、想獣の突進を逸らす。

 

「前だけ見て進め!」

 

 その声に背を押される。

 

 さらに、死角から飛来した攻撃を吉沢さんが叩き落とす。

 

「止まるな!」

 

 俺たちは走る。

 

 ただ、走る。

 

 息が荒くなる。

 足が重い。

 それでも止まれない。

 

 仲間たちが、命を張って道を作ってくれている。

 

 無駄にはできない。

 

 ようやく、荒木家の屋敷が目の前に迫る。

 

「見えた!」

 

 号が叫ぶ。

 

 そのまま俺たちは玄関を駆け抜け、転移の扉がある場所へ向かう。

 

 だが――

 

「お久しぶりです」

 

 その声とともに、目の前に二つの影が現れた。

 

 一つは、杖をついた不気味な想獣。

 もう一つは、獅子の姿をした巨大な想獣。

 

 俺は息を呑む。

 

「……こいつら」

 

 最初期に戦った因縁の相手だ。

 

 獅子の想獣が低く唸る。

 

「ここは通さない」

 

 杖の想獣も口元を歪める。

 

「落葉松様の計画を邪魔されては困りますのでね」

 

「厄介なのが来やがったな」

 

 相馬さんが刀に手をかける。

 

 だが、その瞬間だった。

 

 獅子の想獣の身体が、横から吹き飛んだ。

 

「なっ!?」

 

 見れば、ハワードが獅子の想獣を片腕で掴み、そのまま強引に引きずっていくところだった。

 

「こいつはジャスティスマンの獲物だ」

 

 マントを翻し、ハワードは振り返る。

 

「行きたまえ!」

 

「ハワード!」

 

「正義は後ろを振り返らない!」

 

「いや振り返ってるだろ!」

 

 思わず突っ込む俺の横で、号が呆れた顔をする。

 

「今さらだ」

 

 その直後、杖の想獣が舌打ちする。

 

「ちっ……」

 

 だが、そいつもまた横から襲った衝撃で大きく吹き飛ばされた。

 

「こいつは私が相手してあげるわ」

 

 そこに立っていたのはクレッシェだった。

 

 無邪気な笑顔。

 

 けれど、周囲の空気は彼女の想力で不穏に軋んでいる。

 

「助かる!」

 

 俺は叫び、そのまま仲間たちと屋敷の奥へ駆け込んだ。

 

 転移の扉の前にたどり着く。

 

「行くぞ!」

 

 相馬さんが先に飛び込み、俺たちも続いた。

 

 視界が歪む。

 

 空間がねじれ、身体が引きずられる感覚。

 

 次の瞬間――

 

 俺たちは別の場所に立っていた。

 

「ここが……」

 

 目の前には、巨大な神殿があった。

 

 荘厳で、冷たく、どこか現実感がない。

 

 まるで神の住処みたいな場所だった。

 

「……やつの居場所か」

 

 俺は拳を握る。

 

「行くぞ、おめぇら!」

 

 相馬さんが先頭を切る。

 

 俺たちは神殿の中へ駆け込んだ。

 

 長い回廊を抜け、広間へ出る。

 

 そこで、俺たちは足を止めた。

 

 部屋の中央に、一人の人間が立っていたからだ。

 

 黒い想力をまとい、静かにこちらを見つめる人間。

 

「……ノイズ」

 

 俺が名を呼ぶ前に、相馬さんが吐き捨てるように言った。

 

「あの時ぶりだな」

 

 ノイズは露骨に嫌そうな顔をした。

 

「貴様らか」

 

 その声音には、憎悪がにじんでいた。

 

「落葉松様のお手を煩わせるまでもない」

 

 ノイズの目が、黒く光る。

 

「貴様らは、僕が殺す」

 

 空気が一気に張り詰めた。

 

 俺は拳を握り直す。

 

 ついに来た。

 

 ここが、本当の最終決戦の入り口だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。