想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
神殿の最奥。
扉を開いた先にあったのは、広大な空間だった。
天井は高く、壁は白く、どこか神聖さすら感じる造りをしている。
その中心。
段差の上に据えられた玉座に、男は座っていた。
楽座落葉松。
俺たちを見下ろしながら、楽しそうに笑っている。
「君たちはしぶといね、まったく」
落葉松は頬杖をついたまま、軽い調子で言った。
「もうショーは終わったというのに。まだ私のあとをつけてくるなんて、ずいぶん熱心なファンじゃないか」
「悪いが、ファンじゃねぇ」
相馬さんが前に出る。
「アンチだ」
刀を抜き、まっすぐ落葉松に向ける。
「このくそったれたシナリオ、俺たちがぶっ壊してやる」
落葉松は立ち上がった。
玉座からゆっくりと降りるその姿には、妙な余裕がある。
「素直じゃないファンだ」
口元が楽しげに歪む。
「いいだろう。なら、エキシビジョンマッチといこうか」
落葉松が片手をかざす。
その瞬間――
「っ!?」
俺たちの身体が一斉に吹き飛ばされた。
目に見えない圧力だった。
壁に叩きつけられ、肺の空気が一気に吐き出される。
「ぐっ……!」
「がはっ!」
床を転がりながら、俺は歯を食いしばった。
ただ手をかざしただけだ。
それだけで、これか。
落葉松は静かに俺たちを見下ろしていた。
「見ていただろう?」
その声は穏やかですらある。
「私は想界石と融合した。もう神なんだよ」
神。
軽く言っているのに、その言葉が妙に重かった。
「無駄なんだ。すべて」
落葉松が一歩踏み出す。
「君たちの、その想いとやらも。この力の前では無力だ」
「それは……」
俺は立ち上がる。
「やってみないと分からないだろ!!」
純力を全身にまとい、一気に踏み込む。
「うおおおおおおっ!!」
拳に白い光を集める。
「フィストブラスター!!」
白い奔流が、一直線に落葉松へ放たれる。
だが落葉松は避けない。
いや――避ける必要すらなかった。
「その力があろうが」
空間がゆがむ。
白いエネルギーが、落葉松の手前でねじ曲げられ、逸れていく。
「この世界では、私がすべてだ」
同時に、号と相馬さんが左右から飛び込んだ。
「紫電纏雷――抜刀、月輪!!」
「重装――百華繚乱!!」
雷をまとった斬撃と、重なり続ける黄金の一太刀。
どちらも必殺級の一撃。
だが、それすらも空間の歪みに呑まれて届かない。
「っ……!」
号の目が細くなる。
「邪魔くせぇな!」
相馬さんがさらに踏み込む。
その直後。
「はああああああっ!!」
燈真さんが黄金の拳を振り抜いた。
今までの誰よりも近く、深く、落葉松の懐に入り込む。
拳が直撃する。
鈍い音が響いた。
落葉松の身体が、わずかに後ずさる。
「……へえ」
初めて、落葉松の表情が少しだけ変わった。
「君は燈真か」
薄く笑う。
「君たち夫婦は本当に厄介だね」
声色は穏やかなのに、瞳の奥は冷たい。
「私の計画を、いつも邪魔してくれる」
燈真さんが睨み返す。
「愛華の借りは返すぜ」
落葉松の声が少しだけ低くなる。
「次は命を奪う」
「させねぇよ!」
俺は横から殴りかかった。
落葉松の頬をかすめるように拳が振り抜かれる。
その瞬間、落葉松は楽しそうに笑った。
「いいぞ、大地」
心底嬉しそうだった。
「最高だ」
ぞくりとするほど純粋な歓喜。
「君のおかげで、私はまだ楽しめそうだ」
次の瞬間。
空気が変わった。
落葉松から溢れ出た想力が、神殿全体を満たしていく。
重い。
圧倒的だ。
存在そのものが押し潰してくるみたいだった。
「まずい!」
相馬さんが叫ぶ。
だが、もう遅かった。
落葉松の目が妖しく光る。
「開眼――」
静かな声。
「鏖魔絢爛《おうまけんらん》」
世界が、一変した。
さっきまでの神殿は消えていた。
代わりに現れたのは、極楽浄土のような光景だった。
花が咲き乱れ、空はやわらかな光に満ち、風は穏やかに吹く。
あまりにも美しい。
美しすぎて、逆に現実味がない。
そして、その美しさとは裏腹に――
「がはっ!?」
「っ、ぐ……!」
俺以外の全員が、一斉に血を吐いた。
号が膝をつく。
相馬さんが床に手をつく。
燈真さんでさえ、口元から血を流している。
「なにが……!?」
理解するより早く、俺の身体も横から殴り飛ばされた。
「っ、がああああ!!」
景色が回転する。
地面を転がり、ようやく止まる。
顔を上げると、落葉松がすぐ目の前にいた。
「私の力は付与だ」
微笑みながら告げる。
「すべてに付与できる」
指を軽く振る。
「彼らには“ダメージ”を付与した」
その言葉が、ぞっとするほど自然に響く。
「まあ、さすがに一撃で殺すことはできないみたいだけどね」
落葉松は仲間たちを見回し、少しだけ感心したように言う。
「やっぱり黒等級は頑丈だ」
そして、俺を見る。
「さて。どうするつもりだい、大地」
この場でまともに動けるのは、俺だけ。
それを分かったうえで、試すように聞いてきている。
「君しか動けない」
落葉松は楽しそうに首を傾げた。
「どうするつもりかな?」
俺は立ち上がる。
息を整える。
拳を握る。
「……塗り替えるだけだ」
白い光が、俺の周囲に集まる。
「真贋《しんがん》!!」
純白が広がる。
極楽浄土のような世界が、白く塗り潰されていく。
花も、空も、光も。
全部まとめて、白が食っていく。
落葉松はそれを見て、目を細めた。
「ほう」
その声には、本気で感心している色があった。
「それが君の活路というわけか」
白の世界の中で、俺は落葉松を睨む。
「たしかに凄まじい力だ」
落葉松は自分の周囲の世界が塗り替わっていくのを見ながら、まるで講義でもするように語った。
「その白いオーラで、世界そのものを塗り替えるとはね」
だが、次の瞬間、その笑みが少しだけ深くなる。
「……でも、勘違いしていないかい?」
落葉松の声が、静かに響く。
「開眼とは、ただ世界を広げる力じゃない」
白い空間の中で、落葉松だけが妙に鮮明に見えた。
「本質は――魂に近づくことだ」
その一言で、空気が変わる。
「世界を広げるのは、あくまで副産物にすぎない」
落葉松の想力が、さらに深くなる。
さっきまでとは違う。
密度が違う。
存在の格が、一段上がったみたいだった。
「今の私は、先ほどより何倍も強いぞ」
白い世界の中で、落葉松は不敵に笑う。
「君一人で勝てるかい?」
俺は拳を固める。
怖くないわけじゃない。
勝てる保証なんてどこにもない。
それでも。
「当然だ」
言い切る。
俺の声は、思ったよりはっきり出た。
落葉松は、それを聞いて満足そうに笑った。
いよいよだ。
本当の最終決戦が、始まる。