想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
俺は拳を握る。
全身の筋肉がきしむ。
それでも、止まれない。
「うおおおおおっ!!」
一瞬で拳を肥大化させ、そのまま前方へ打ち出す。
「フィストドライブ!!」
巨大な拳の噴射を推進力に変え、俺は一気に落葉松へと迫る。
だが――
落葉松は焦らなかった。
ただ一歩、わずかに身をずらす。
それだけで回避される。
「まだだ!」
俺はそのまま拳を連続で短く放出する。
拳の先を伸ばすように、何度も、何度も。
「フィストウェポン!!」
伸びた拳が鞭のようにしなる。
角度を変え、軌道を変え、落葉松を追い詰める。
けれど、それすらも。
「甘い」
落葉松は冷静に見切っていた。
最小限の動きだけで、全部を避ける。
そして、静かに手を差し出す。
「付与――衝撃」
次の瞬間。
「がああああっ!?」
見えない何かが、俺の全身をまとめて叩きつけた。
骨が軋む。
内臓が揺れる。
俺は白い床を跳ねるように吹き飛ばされ、なんとか踏みとどまる。
落葉松は首を鳴らした。
「どうしたんだい、大地」
その顔には、まだ余裕しかない。
「そんな小手調べでは、興が削がれるな」
静かに笑う。
「君なら、もっと見せられるはずだろう?」
まるで教師みたいな口ぶりだった。
「私は待ってあげるよ」
両手を広げる。
「さあ、準備しなよ」
その目が細くなる。
「後悔するなよ?」
……上等だ。
俺はふらつく足を踏みしめる。
拳を固める。
想力。
純力。
その両方を、限界まで拳に込める。
胸の奥にある想いまで、全部乗せる。
止める。
友達だから。
ここで止めなきゃいけない。
「吹き飛びやがれ――!!」
拳が光を帯びる。
「フィスト・ペネトレーター!!」
白い奔流が、俺の拳から解き放たれた。
ただの砲撃じゃない。
貫くための一撃。
想いそのものを乗せた、俺の全力だ。
だが、落葉松は微動だにしない。
「付与――無限」
周囲の空間が、ぴんと張り詰めた。
空気そのものが変質する。
「今、この空気は無限だ」
落葉松の声は静かだった。
「壊れることはない」
俺の一撃が、目の前の空間にぶつかる。
そこで止まる。
まるで永遠に届かない壁みたいに。
「さあ」
落葉松が笑う。
「どうするんだい?」
「無限なんて……関係ねぇ」
俺はさらに踏み込む。
「ぶち破るだけだ!!」
全身全霊で想いを込める。
拳が裂けようが関係ない。
血が噴き出そうが止まらない。
痛みなんて、どうでもいい。
俺は、友として止める。
それだけだ。
「うおおおおおおおおおっ!!」
白い力が、さらに膨れ上がる。
その瞬間。
ぴしり、と。
目の前の“無限”に、ヒビが入った。
落葉松の目が見開かれる。
「……なっ」
もう一筋。
さらに一筋。
無限の壁が、確かに割れていく。
「馬鹿な……無限だぞ」
落葉松が初めて動揺を見せる。
「壊れるも何も、ないはずだ……!」
俺は叫ぶ。
「知るか!!」
割る。
届かないなら届くまで。
止まらないなら止まるまで。
「俺は――お前を止める!!」
落葉松の口元が、逆に吊り上がった。
「……いいだろう」
その目に、狂気じみた歓喜が宿る。
「まさか世界を割る気か」
腕を広げる。
「受けて立つよ」
笑う。
「来い、大地!!」
「ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇ!!」
俺は全部を解放した。
白が、弾ける。
世界が爆発したみたいな轟音。
衝撃波が四方八方へ走り、俺自身もその反動で吹き飛ばされる。
「がっ……!」
床を転がり、背中から叩きつけられる。
息が詰まる。
視界が揺れる。
煙が、ゆっくり晴れていく。
その向こうに立っていたのは――
片腕を失った落葉松だった。
想界石で作られた肉体の一部が、ごっそり吹き飛んでいる。
血ではない。
白く光る破片のようなものが、腕の断面からこぼれていた。
それでも。
それでも、落葉松は笑っていた。
「……はっ、はは」
肩を震わせる。
「ははははははは!!」
楽しそうに。
心の底から嬉しそうに。
「さすがだ、大地」
断たれた腕を見下ろしながら、なお笑う。
「想界石でできたこの肉体を吹き飛ばすとはね」
俺は息を切らしながら、それでも立ち上がろうとする。
だが、身体が言うことをきかない。
もう残っていない。
想力も。
純力も。
力が、空っぽだった。
落葉松はそんな俺を見て、静かに言った。
「君は本当に、想像以上だ」
一歩。
また一歩。
失った腕も気にせず、こちらへ歩いてくる。
「だが」
その声が冷える。
「君にやれるのは、片腕までだ」
俺の前で止まる。
見下ろす。
「ここで終わりだ」
手を向ける。
「君を殺す」
くそ。
身体が動かない。
意識が沈む。
まだだ。
まだやらなきゃいけない。
ここで終わるわけには――
でも、視界が暗くなる。
「……バイバイ、大地」
落葉松の声が遠く聞こえた。
その攻撃が放たれようとした、瞬間。
カン――!!
甲高い金属音が、神殿に響いた。
落葉松の攻撃が、弾かれる。
「……なに?」
俺の前に、一人の背中が立っていた。
いや、一人じゃない。
相馬さんだ。
刀を構え、俺をかばうように立っている。
「おいおい」
相馬さんが、にやりと笑った。
「俺たちを忘れるなよ、落葉松」
落葉松が目を細める。
「……退場したはずだが?」
その後ろで、さらに複数の気配が立ち上がる。
号。
燈真さん。
みんなが、ふらつきながらも立っていた。
相馬さんは肩で息をしながら、刀を構え直す。
「アンコールだぜ」