想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
落葉松が手をかざす。
見えない力が奔る。
だが――
「興味がないんだよ、君たちには!」
その攻撃を、相馬さんは紙一重でかわした。
床を蹴る。
踏み込みと同時に、刀が閃く。
「そっちこそな!」
落葉松が相馬さんへ意識を向けた、その瞬間。
「紫電纏雷!」
横から号の雷撃が叩き込まれた。
紫電が爆ぜ、落葉松の身体を走る。
「小癪な……!」
落葉松がすぐに号へ狙いを変える。
だが、その死角から。
「よそ見してんじゃねぇぞ」
燈真さんの拳が、落葉松に叩き込まれた。
黄金の拳。
重く、深く、神の肉体を揺らす一撃。
さすがの落葉松も後ずさる。
それを見て、俺は息を呑んだ。
押してる。
この四人で、あの落葉松を押している。
落葉松は乱れた前髪をかきあげ、笑みを消した。
「……君たちは」
低い声。
「私をイラつかせるのが、本当に上手いね」
その瞳に、明確な殺意が灯る。
「いいだろう。そこまで言うなら殺してやる」
想力がうねる。
「それも――圧倒的にな」
空気が震える。
落葉松の目が妖しく光る。
「開眼――鏖魔絢爛《おうまけんらん》」
その瞬間だった。
「開眼――紫電天裁《しでんてんさい》!」
号の世界が広がる。
「開眼――臥竜剣参《がりゅうけんざん》!」
相馬さんの黄金が立ち上がる。
「開眼――万魂無双《ばんこんむそう》!」
燈真の魂が、世界を軋ませる。
三人が、同時に開眼した。
俺の真贋で塗られた白い世界に、三つの色が重なる。
紫。
金。
魂を揺るがす深い輝き。
白いキャンバスに、四つの色が走る。
それはまるで、四人の想いそのものだった。
落葉松が目を細める。
「なるほどね」
その声には、驚きと歓喜が混じっていた。
「君たちなりに考えたわけだ」
片腕を失ったまま、それでも落葉松は笑う。
「いいだろう」
想力がさらに膨れ上がる。
「君たちの世界ごと、塗り潰してあげる」
「さっきみたいにはいかねぇぜ!!」
相馬さんが刀を振るう。
その軌跡は黄金を引き裂きながら、落葉松へと迫る。
続くように、号が神速で踏み込む。
紫電が走る。
そして燈真さんが、静かに、だが確実に前へ出る。
一歩ずつ。
一歩ごとに圧が増す。
落葉松の力は確かに圧倒的だ。
だが、今は違う。
片腕を失っている。
さっきまでのように、完全な余裕はない。
さらに三人の開眼を、その身で受け続けるのは、どれほど神に近い存在だろうと無傷ではいられない。
初めてだった。
落葉松の顔から、あの余裕が消えたのは。
「どうした!」
相馬さんが笑う。
「さっきまでの高笑いが消えてるぞ!」
「……最高のスリルだよ」
落葉松はそれでも笑う。
だが、その目は本気になっていた。
そして、小さく息を吐く。
「これは、つまらないから使いたくなかったんだけどね」
嫌な予感が走った。
落葉松が静かに指を鳴らす。
「付与――停止」
その瞬間。
世界が止まった。
音も。
風も。
動きも。
すべてが止まる。
俺も、号も、燈真さんも、相馬さんも。
誰一人として動けない。
意識だけがある。
身体が、まるで世界そのものに縫い付けられたようだった。
落葉松だけが、ゆっくりと笑う。
「私の本気さ。これが」
止まった世界の中で、ひとり歩く。
「まあ、聞こえてはいないだろうけどね」
その足取りは穏やかだった。
楽しげですらあった。
「終わりというのは、実に悲しいものだ」
どこからかナイフを取り出す。
「これだけ楽しいものも、いつかは終わる」
落葉松は相馬さんの前に立った。
「君からだ」
ナイフを首に向ける。
「最初に殺してあげるよ」
刃が振るわれようとした、その瞬間。
――ギィン!!
止まっていたはずの相馬さんの刀が、振り下ろされた。
落葉松の目が見開かれる。
「なっ――!?」
避ける。
だが、完全には間に合わない。
刀が落葉松の身体を斬り裂いた。
鮮やかな線が走り、神の肉体が大きく裂ける。
落葉松が膝をついた。
「なぜだ……!」
信じられないという顔で相馬さんを見る。
「なぜ停止が解ける!」
相馬さん自身も荒い息を吐きながら、眉をひそめる。
「俺にも分からん」
けれど、すぐに笑った。
「だがな」
刀を構え直す。
「世の中、理屈だけじゃ説明できねぇもんもあるんだよ」
その目は真っ直ぐだった。
「人の想いなんてまさにそうだ」
踏み込む。
「動きたいと想ったから、動いたんだよ!!」
「貴様ぁぁぁ!!」
落葉松が怒りに顔を歪め、手を向ける。
だが、その前に。
「紫電纏雷――抜刀、残月《ざんげつ》」
号が消えた。
次の瞬間には、落葉松の背後にいた。
神速の斬撃。
紫の線が走り、落葉松の身体を再び斬り裂く。
「ぐああああっ!!」
落葉松がたたらを踏む。
「貴様ら……!」
そこへ。
燈真さんが、静かに近づいていた。
拳を引く。
何重もの壊れない障壁を、その拳に纏わせる。
拳そのものが、絶対に砕けない兵器になる。
「反省しやがれ」
次の瞬間。
燈真さんの拳が、落葉松の顎を打ち抜いた。
轟音。
その一撃で、落葉松の身体が宙へ跳ねる。
勢いのまま、世界そのものが軋む。
そして――
パリン。
硝子が砕けるような音とともに、白い世界が解けた。
真贋の世界が剥がれ、元の色が戻っていく。
神殿の床。
壁。
空気。
現実が、再び姿を現す。
落葉松は床を転がり、血とも光ともつかないものを吐き出しながら立ち上がった。
「きさまら……」
声が震えている。
「許さん……!」
その目には、これまでにない怒りが宿っていた。
「この力をもって……必ず殺してやる!!」
「ショーは終わりだ」
相馬さんが吐き捨てる。
だが、その瞬間だった。
空に、亀裂が走る。
びき、びき、と不穏な音が広がる。
俺たちは全員、顔を上げた。
空間そのものが裂けている。
落葉松はそれを見て、狂ったように笑い始めた。
「あはははははは!!」
両腕を広げる。
「こんな世界、なくなってしまえばいい!」
その笑みは、もう楽しさだけのものじゃなかった。
壊れかけている。
自分自身も。
「次はもっと、私の理想の世界を作るだけだ!」
「やめろ!!」
俺たちは止めようとする。
だが、開眼の反動が限界だった。
膝が砕けるように落ちる。
「くそ……!」
「まずいぞ……!」
誰もすぐには動けない。
その時。
神殿の扉が、勢いよく開かれた。
「落葉松様!!」
その声に、全員が振り向く。
そこに立っていたのは――ノイズだった。
息を切らしながら、真っ直ぐ落葉松を見る。
「おやめください!」
震える声で、けれど必死に叫ぶ。
「あなたの理想の世界は……こんな世界じゃない!!」
その言葉が、崩れかけた神殿に響いた。