想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第17話 積もる「想い」

 七月だった。

 

 朝の空気が、少し重い。

 制服の袖が、もう邪魔に感じる。

 

 期末試験は終わった。

 教室には、どこか浮ついた空気が漂っている。

 

「もうすぐ夏休みだな」

「予定、決まってる?」

 

 そんな声が飛び交う中で、

 俺は、窓の外を見ていた。

 

 日差しが強い。

 春の名残は、もうどこにもない。

 

 放課後。

 

 体育館の扉を閉める音が、重く響いた。

 外の熱気とは違う、こもった空気。

 

「準備はいいか」

 

 吉沢の声が、静かに通る。

 

「はい」

 

 床に足をつく。

 ゴムの感触が、はっきり伝わる。

 

「じゃあ、始めようか」

 

 合図と同時に、衝撃が来た。

 

 受け止める。

 踏ん張る。

 流す。

 

 腕が重い。

 脚が熱を持つ。

 

 それでも、止まらない。

 

「呼吸、止めない」

「力を、逃がす」

 

 短い指示。

 無駄な言葉はない。

 

 拳を振る。

 衝撃を返す。

 

 以前なら、ここで一度、足が止まっていた。

 今は、そのまま次の動きに移れている。

 

「……よし」

 

 吉沢が、短く言った。

 

 その一言で、十分だった。

 

 休憩の合間、床に座り込む。

 息を吐くたび、胸の奥がじんわり痛む。

 

 苦しい。

 それでも――前ほど、嫌じゃない。

 

 逃げたいと思う前に、

 次の動きを考えている自分がいた。

 

 夜は、机に向かう。

 

 教科書を開き、問題を解く。

 汗の残る指先で、ページをめくる。

 

 途中で、端末が鳴る。

 

 任務。

 

 息を整え、外に出る。

 

 想獣は、数体。

 連携を取り、確実に処理する。

 

 息は乱れる。

 だが、恐怖はない。

 

 終わったあと、空を見上げる。

 

 ――ちゃんと、前に進んでいる。

 

 そんな日々が、続いていた。

 

 きつい。

 忙しい。

 

 それでも、不思議と嫌ではなかった。

 

 ある日の夕方。

 

 帰り道、端末が震えた。

 画面を見る。

 

【緊急連絡】

 

 それだけ。

 

 足が、自然と止まる。

 周囲の音が、遠のいた。

 

 次の瞬間、指が動いていた。

 

 内容を確認し、

 行き先を見て、

 深く息を吸う。

 

 ――来た。

 

 家に戻り、最低限の準備をする。

 靴を履き直し、外に出た。

 

 向かう先は、

 想界師連合・関東・東京支部。

 

 建物の前に立つと、

 中の空気が、いつもと違うのが分かった。

 

 静かだ。

 だが、張りつめている。

 

 中に入る。

 

「来たか」

 

 吉沢の声。

 

「はい」

 

 視線を上げた、その先。

 

 そこに――鳴海号がいた。

 

 壁にもたれ、腕を組んでいる。

 表情は、いつも通り静かだ。

 

 だが。

 

 目だけが、動いていた。

 

 俺と、視線が合う。

 

「……よう」

 

「久しぶりだな」

 

 短い言葉。

 それで、十分だった。

 

 集められた理由は、まだ告げられていない。

 

 それでも分かる。

 

 この夏は、

 もう――ただの夏休みでは終わらない。

 

 七月の境目で、

 俺たちは、確かに立っていた。

 

 次の一歩を、踏み出す前で。

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