想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
会議室を支配していたのは、
耳が痛くなるほどの沈黙だった。
吉沢は壁にもたれ、いつもの軽薄な笑みを消している。
目隠しの下の視線は、ただ一点――扉の前に立つ二人に向けられていた。
血の気の引いた顔。
裂けた制服。
それでも、背筋は折れていない。
――花崎と、瑠偉。
「……で?」
低い声。
「転神町で、何を見てきた?」
花崎が、わずかに肩を震わせる。
だが、口を開いたのは瑠偉だった。
「……クラブがあった」
一拍。
「満腹亭」
その名を出した瞬間、
空気が、わずかに沈む。
「表向きは、ただのクラブよ」
「音楽と酒と、人の熱気」
視線を落とす。
「でも……地下がある」
喉が鳴る。
「想魁者同士を戦わせる場所」
「賭けて、血を見て、笑ってた」
花崎が、思わず拳を握る。
「人も、売られてた」
「逃げようとした人間は……」
言葉が、途切れた。
瑠偉が、代わりに続ける。
「……実験場があった」
吉沢の呼吸が、わずかに止まる。
「想界師を使った実験」
「想力の抽出」
「人工想獣の生成」
ここで、
今まで黙っていた怜が、一歩前に出た。
「……それだけじゃない」
視線は、床に落ちている。
「私も、そこまでしか確認できなかったら」
一拍。
「でも――奥があった」
会議室の空気が、張り詰める。
「開眼の研究よ」
その言葉に、
吉沢の表情から、完全に温度が消えた。
「……開眼、だと?」
怜は、短く頷く。
「名家の血縁」
「潜在的に、開眼を保有している者を拉致する」
拳が、白くなる。
「感情が、最高潮に達した瞬間に殺す」
沈黙。
「その直後、想力が凝縮した眼球を摘出する」
「さらに感情を浴びせて――」
目を伏せる。
「“戯眼”を作る」
花崎が、耐えきれずに顔を歪める。
「……それを、体に埋め込む」
怜が、淡々と続けた。
「適合者は、疑似的に開眼を使える」
「でも、使いすぎれば眼は黒く濁る」
短く。
「回数制限付きの力よ」
重たい沈黙が、落ちた。
「……なるほど」
吉沢が、静かに言う。
「それが表に出れば」
「始点の“血統の神秘”は崩れる」
一拍。
「つまり――」
言い切る。
「上層部は、隠蔽に動く」
瑠偉が、顔を上げた。
「……だから」
声は、震えていない。
「黒等級が来る」
その一言で、
全員が理解した。
町が。
人が。
まとめて、消されるということを。
「……急ぐ必要があるな」
吉沢は、端末を取り出した。
「荒木さん」
通信が繋がる。
『……聞いたぞ』
低い声。
『転神町の件、最悪のパターンだな』
「ええ」
「掃除屋が来る前に、ケリをつけます」
即答だった。
『鳴海のじじいや、天舞が動いたら』
『大惨事じゃ済まねえ』
『分かった』
『俺も向かう』
『人を集めろ』
『迎え撃つ準備だ』
「了解です」
通信が切れる。
会議室には、
もう軽口は戻らなかった。
転神町は、
引き返せない段階に、踏み込んでいた。