想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
「……なるほど」
安室 仁は、腕を組んだまま静かに頷いた。
「事態は理解した」
一拍。
「期限は――日没まで、だな」
空気が引き締まる。
「正直に言えば」
「ごろつき相手なら、負ける気はしない」
安室は淡々と続けた。
「だが、特殊な能力者が相手となると」
「勝てるかどうかは、分からん」
視線を上げる。
「……だからこそ、助かる」
号が、一歩前に出た。
「分かった」
短く、即断。
「俺たちが――正面から行く」
安室が、低く言った。
「満腹亭の入り口を叩く」
「派手にな」
視線が、こちらに向く。
俺は、号と目を合わせてから頷いた。
「その間に」
「俺たちが、地下に潜る」
一拍。
「全部――潰す」
安室は、口元を歪めた。
「いいね」
短く笑う。
「実に、役割分担がはっきりしている」
そして、静かに手を差し出した。
「正面は任せろ」
「地下は――君たちだ」
その手を、俺は強く握り返した。
固く、握手が交わされた。
「この戦いが終わって」
「もし生きていたら――」
安室が、低く笑う。
「宴でも、しようじゃないか」
吉沢が、肩をすくめる。
「もちろん」
「後始末は、全部僕の仕事だけどね」
だが、その声に迷いはない。
全員の視線が、交わる。
想いは、ひとつだった。
そのころ――
満腹亭・地下深層。
錆びた鎖の音が、静かな空間に響いていた。
壁に繋がれた男は、全身が血と傷で覆われている。
それでも、背筋だけは崩れていなかった。
「てめえ……何者だ」
目の前に立つ想魁者が、吐き捨てる。
「よくも俺らの施設を、荒らしやがったな」
男は――笑った。
「当然のことだろう?」
かすれた声。
「かわいい妹に」
「傷をつけたんだからね」
「……きも」
鈍い音。
バットが、容赦なく振り下ろされる。
「――ぐっ……!」
痛みに、身体が強張る。
だが、男は顔を上げた。
「君たちみたいな」
「力に溺れた、軟弱な連中には」
歪んだ笑み。
「分かるわけがないさ」
「妹の、可愛さなんてね」
「立場、分かってんのか?」
想魁者が、苛立ちを隠さず叫ぶ。
「いつ殺されても、おかしくねえんだぞ!」
「てめぇのせいでこっちは大勢やられたんだぞ!」
男は、血を吐きながら――なお、笑った。
殴られても、殴られても、男は笑い続けた。
その瞳は、眼前の敵など見ていなかった。ただ一点、愛する妹と再会する未来だけを狂信的に見つめている。その狂気に、想魁者はバットを握る手がわずかに震えるのを止められなかった。
「俺は、信じている」
一拍。
「妹が」
「必ず、俺を助けに来るとね」
視線が、鋭くなる。
「その時が」
「君たちの、最後だ」
「ハハハハハ!!」
殴られても、殴られても、
男は笑い続けた。
さらに、別の場所。
「分かってんのか、てめぇら!!」
幸田 零士が、部下を殴り飛ばす。
「情報が、漏れたんだぞ!!」
床に叩きつけられた男が、震える。
「確実に――」
「“あいつら”が、動く」
幸田の声が、低く沈む。
「想界師はな」
「血統が、命なんだ」
一拍。
「その“秘密”を研究する行為が」
「どれほどの罪か、分かってるか?」
歯を食いしばる。
「この町ごと、消す気だ」
「だから、隠してたんだ!!」
怒りが爆発する。
「力を持っておきながら」
「たった一人に手こずりやがって!!」
「す、すいません……マスター……!」
「言い訳なんか、いらねえ」
幸田は、冷たく言い放つ。
「――“あれ”を起動しろ」
「なっ……!」
部下の顔が、青ざめる。
「あれは、危険すぎます!」
「まだ、未完成で――」
「どのみち、消されるんだ」
幸田は、笑った。
「だったら」
「奴らに、目にモノを見せてやる」
部屋の奥から、数千人の呻き声を合成したような、ひどく耳障りな駆動音が響き渡った。それはあまりに冒涜的な、命を弄ぶ怪物の咆哮だった。
さらに――
別の場所では。
重厚な空間で、
老人たちが円卓を囲んでいた。
「……なるほど」
白髪の老人が、鼻で笑う。
「そのような研究をしていたとは」
冷たい視線。
「所詮、下賤なる者どもだ」
「我々に、なろうとするなど」
一拍。
「――万死に値する」
周囲が、一斉に頭を下げる。
「よいな」
「「はい」」
老人が、静かに告げた。
「執行命令を下す」
短く。
「――消せ」
老人はそう言うと、手元の高価な茶器にゆっくりと湯を注いだ。
別の老人が、豪快に笑う。
「こりゃあ」
「久しぶりの、祭りじゃのう」
「ガハハハハ!!」
日没まで、あとわずか。
人の想いが、
家族の想いが、
欲と恐怖が、
正義と隠蔽が――
すべてが、同じ場所へ流れ込んでいく。
転神町は、今。
引き返せない夜を、迎えようとしていた。