想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

28 / 138
第28話 爆ぜる「想い」

 満腹亭の裏手。

 ネオンの光が届かない場所に、静かな影が集まっていた。

 

「……無事で、よかった」

 

 最初に声を出したのは、花崎だった。

 

 瑠偉は、小さく息を吐く。

 

「正直、もう少しお兄ちゃんが遅かったら――」

 

 一拍。

 

「確実に、殺されてた」

 

 その言葉は、淡々としていた。

 だが、軽くはない。

 

「……でも」

 

 瑠偉は、拳を握る。

 

「私だけじゃない」

「捕まってた人、たくさんいた」

 

 視線が落ちる。

 

「その中で……来枝 満(くるえだ みちる)って人がいて」

「すごく、良くしてくれた」

「自分だって鎖に繋がれて衰弱していたのに。……あんな震える手で、私の頭を撫でてくれた人を、あそこに置いていくわけにはいかないの」

 

 花崎が、静かに頷く。

 

「……俺も」

「怖くて、何度も心が折れそうだったけど」

 

 少しだけ、笑う。

 

「満さんがさ」

「“生きてれば、なんとかなる”って」

 

 短い言葉だった。

 でも、それがどれだけ救いだったかは、顔を見れば分かる。

 

「私も、花崎も」

「励まされたんです」

 

 瑠偉は、真っ直ぐ前を見る。

 

「だから」

「今度は、私たちが助けたい」

 

 その場に、静かな熱が広がった。

 

 怜が、短く頷く。

 

「……決意は、十分ね」

 

 振り返り、全員を見る。

 

「作戦を確認する」

 

 地面に、簡単な図を描く。

 

「正面は、安室たち」

「満腹亭の入り口を、真正面から叩く」

 

 一拍。

 

「その混乱に紛れて」

「私が確保していた“隠しの地下道”から侵入する」

「翔さまさまだね、彼が暴れてくれたおかげずいぶん楽になった」

 

 視線が分かれる。

 

「花崎、瑠偉」

「あなたたちは、私と一緒」

 

「捕らわれている人間――」

「特に、兄を含む被害者の救出が最優先」

 

 二人は、力強く頷いた。

 

 そして。

 

 怜の視線が、こちらに向く。

 

「吉沢」

「号」

「大地」

 

 一拍。

 

「あなたたちは、施設の中枢」

「実験設備の破壊と――」

 

 言い切る。

 

「幸田零士の排除」

 

 吉沢が、軽く肩を回す。

 

「了解」

「派手にやろうか」

 

 号は、静かに刀に手をかける。

 

「……今度は」

「逃がさない」

 

 俺は、拳を握った。

 

 後悔しないために。

 

 そのとき。

 

「――よし」

 

 無線越しに、安室の声が響いた。

 

『時間だ』

 

 遠くで、エンジン音。

 人数分の足音。

 

『行くぞ、お前ら』

 

 一拍。

 

『俺の人生』

『最後の、デカい祭りだ』

 

 笑う声。

 

『――ド派手にいくぞ』

 ノイズ混じりの声の向こうで、何十台もの大型バイクのふかし音と、男たちの雄叫びが重なった。かつてこの街を救った情熱を、安室さんが再び、そして最後に爆発させようとしているのが伝わってきた。

 

 次の瞬間。

 

 銃声。

 爆音。

 ガラスが砕ける音。

 

 満腹亭の正面が、炎と騒音に包まれた。

 

「……始まったわね」

 

 怜が、低く言う。

 

「行くわよ」

 

 隠された扉が、静かに開く。

 

 暗い地下道。

 湿った空気。

 

 俺たちは、そこへ足を踏み入れた。

 

 正面では――

 町の大人たちが、矜持を賭けて戦っている。

 

 地下では――

 俺たちが、奪われたものを取り戻す。

 

「行くぞ」

 

 吉沢が、背中越しに言った。

 

「全員、生きて帰る」

 

 誰も、異論はなかった。

 

 想いは、もう揃っている。

 

 あとは――

 突き進むだけだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。