想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
電車は、ゆっくりと西へ進んでいた。
窓の外、街の景色が少しずつ変わっていく。
高い建物が減り、緑が増える。
向かいの席で、荒木さんが腕を組んでいた。
「前回の御前試合はな」
唐突に、口を開く。
「俺と吉沢で優勝した」
さらっとした言い方だった。
「でも今回は」
「俺は出られねぇ」
号が、ちらりと顔を上げる。
「黒等級は出場禁止だ」
「危なすぎるからな」
鼻で笑う。
「黒同士で殴り合ったら」
「会場が残らねぇ」
「だから」
「俺ら黒等級は、会議室で観戦だ」
つまり。
「……荒木さんがいないってことは」
俺が言うと、
荒木さんはにやりとした。
「そういうことだ」
「ここぞとばかりに」
「勝ちを狙ってくるだろ」
「あの手この手で」
「連勝を止めに来る」
吉沢さんが、小さく息を吐く。
「だから」
「僕一人じゃ、荷が重いのさ」
荒木さんの視線が、俺と号に向く。
「御前試合は」
「出られるのは三人だけだ」
「お前ら二人が必要なんだよ」
一瞬、胸が熱くなる。
「大地」
「お前がいてくれて助かったぜ」
俺は、少し照れながら言った。
「俺も」
「吉沢さんのおかげで、強くなりました」
「任せてください」
荒木さんが、声を出して笑う。
「ハハッ」
「いい顔するようになったじゃねぇか」
「坊主」
ちらりと、吉沢さんを見る。
「さすがだな」
そのとき、ふと疑問が浮かんだ。
「……そういえば」
俺は、号を見る。
「号って」
「鳴海家、だよな?」
車内の空気が、少しだけ変わった。
号は、窓の外に視線を向けたまま言う。
「今の俺は」
「荒木家の養子みたいなもんだ」
一拍。
「それに」
「あの家は、俺がどっちで出ようが興味がない」
「……ひどくないか」
思わず、声が出た。
「家族なんだろ」
号は、少しだけ目を伏せる。
「ああ」
短く答える。
「鳴海家はな」
「強さがすべてだ」
「強いやつが偉くて」
「弱いやつは、人じゃない」
胸が、ちくりと痛んだ。
「そんな……」
俺が言いかけたところで、
荒木さんが口を挟む。
「かばうわけじゃねぇがな」
「鳴海家には」
「そういう役割がある」
「……役割?」
俺は、聞き返した。
「俺ら始点には」
「もともと、役割が決まってる」
荒木さんは、指を折りながら話す。
「鳴海家は」
「想界石がある御生万の城の守り人」
「俺、荒木は」
「御生万の門を守る役だ」
「楽座は」
「城の主として、想界石の管理」
「天舞は」
「裏から守る、暗部」
淡々とした口調。
「京都の御生万には」
「楽座と鳴海」
「東京の大結界には」
「俺と天舞だ」
一拍。
「城の守り人が」
「弱ぇんじゃ、話にならねぇ」
少しだけ、肩をすくめる。
「まぁ」
「今どき、時代遅れの考えだろうがな」
俺は、言葉を失った。
「……そんな役割が」
「だからだ」
荒木さんは続ける。
「俺らは」
「強くなきゃいけない」
「そのために」
「始点は、十年に一度集まる」
「始点総会議のあと」
「御前試合で競い合う」
「高め合うって名目だが」
「まぁ、潰し合いだな」
俺は、ゆっくり頷いた。
「……なるほど」
全部が、一本に繋がった気がした。
「今回行くのは」
「御生万の手前にある、羅生邸だ」
「想界連合の本部みたいなもんだな」
電車が、減速し始める。
「さて」
荒木さんが立ち上がる。
「もうすぐ、京都だ」
にやりと笑う。
「ここから」
「だいぶ、山奥に行く」
「迷子になるなよ〜」
俺は、拳を握った。
守るために。
後悔しないために。
御前試合は、
もう目の前だった。