想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第40話 ざわめく「想い」

 ぜえ、はぁ。

 

 息が、切れる。

 肺が焼けるように熱い。

 

 足が、鉛みたいに重い。

 

 もう一歩動けば、

 その場に座り込みそうだった。

 

 山道は、どこまでも続いている。

 木々が生い茂り、空はほとんど見えない。

 

 どこまで登ればいいのか、

 もう感覚すら分からなくなっていた。

 

「……情けねぇな」

 

 頭上から、声。

 

 見上げると、

 荒木さんが、余裕の顔で立っていた。

 

 息一つ乱していない。

 

「鍛えたんだろ、坊主」

「その程度か?」

 

「……っ!」

 

 俺は、なんとか身体を起こす。

 

「どんだけ歩いたと思ってんだよ!」

「丸三日だぞ!?」

 

 息を整える暇もない。

 

「この大自然の山奥を!」

「延々と!」

 

 荒木さんは、首を傾げた。

 

「当たり前だろ」

 

 さも当然、という顔。

 

「本拠地が」

「見えたらダメだろ」

 

「遠くて当然だ」

 

 ……正論だ。

 

 正論だが。

 

「……さすがに、きついだろ」

 

 本音が、漏れる。

 

「まあ」

 

 荒木さんが、前を指差す。

 

「この階段の上が」

「ゴールだ」

 

「ほら」

「ラストスパートだぞ」

 

 ……鬼か。

 

 文句を飲み込み、

 俺は、最後の力で階段を上った。

 

 一段。

 二段。

 

 足が震える。

 

 それでも、登る。

 

 そして。

 

 その先に――

 

 それは、あった。

 

 深い緑の中に溶け込むように、

 巨大な屋敷が、静かに佇んでいる。

 

 歴史を感じさせる重厚な造り。

 山の空気に溶け込みながらも、

 明らかに、この場所の主である存在感。

 

 その背後には、門。

 

 さらに奥。

 

 本来、この山にはあるはずのない――

 

 巨大な城が、鎮座していた。

 

 まるで山そのものが、

 その城を守る壁になっているようだった。

 

 息を、呑む。

 

 今までの疲れが、

 一瞬で、吹き飛んだ気がした。

 

「……すげぇ」

 

 思わず、声が漏れる。

 

 ふと、疑問が浮かんだ。

 

「こんなにデカいのに」

「なんで、誰も気づかないんだ?」

 

 荒木さんは、肩をすくめる。

 

「大結界が」

「何重にも貼ってある」

 

「普段は」

「誰にも、認識できねぇ」

 

 一拍。

 

「一度、外に出たら」

「基本、戻れない」

 

「ただし」

 

 俺を見る。

 

「会議が近づいていくと」

「想界師なら、見える」

 

「……へぇ」

 

「まあ」

 

 にやりと笑う。

 

「俺みたいな黒等級は」

「いつでも出入りできるがな」

 

 確かに。

 

 隠さなきゃいけないほどの存在感だ。

 

 そこで、

 もう一つ、気づく。

 

「……あれ?」

 

「そういえば」

「号と、吉沢さんは?」

 

 山の途中までは、

 一緒だったはずだ。

 

「ああ」

 

 荒木さんが、あっさり言う。

 

「途中にあった転移の扉で」

「もう、中にいるぞ」

 

「……は?」

 

 脳が、一瞬止まった。

 

「ちょ、待て」

「なんで俺には教えてくれなかった!?」

 

 震える声で問うと、

 荒木さんは、きょとんとする。

 

「え?」

「教えてなかったっけ?」

 

 一拍。

 

「てへ」

 

 ――ブチッ。

 

 無言で、拳を振りかぶる。

 

「ちょ、待て待て!」

「悪かったって!」

 

「修行だよな?」

「な?」

 

「だから」

「その拳に、想力を溜めるのは――」

 

「ギャアアアア!!」

 

 大男の悲鳴が、

 山に、響き渡った。

 

 ――――

 

「ようやく来たか、大地」

 

 声に、顔を上げる。

 

 ロビーのソファーで、

 号が、くつろいでいた。

 

「あれ?」

「師匠は?」

 

「さあ」

 

 俺は、視線を逸らす。

 

 直後。

 

 どたどたと、

 荒々しい足音。

 

「おめぇ……!」

「マジで、打ちやがったな坊主!」

 

 荒木さんが、怒鳴り込んでくる。

 

「叩きのめしてやる!」

 

 反射的に、拳を構える。

 

「上等だ!」

「やってやる!」

 

「……お前ら」

 

 呆れた声。

 

 吉沢さんだった。

 

「マジで」

「子供かよ」

 

 しばらくして。

 

 落ち着いた俺は、

 荷物を部屋に置き、

 再びロビーに戻った。

 

「なあ、号」

 

「なんで」

「転移できること、教えてくれなかったんだよ」

 

 号は、少し困った顔をする。

 

「すまん」

 

「想界師の常識すぎて」

「忘れてた」

 

「……」

 

 不満そうな顔をすると、

 号は、苦笑した。

 

「で」

「これから、どうする?」

 

「御前試合は」

「明日の始点総会議の、次の日だ」

 

「今日は自由だな」

 

 一拍。

 

「とはいえ」

「山奥だし、やることもないが」

 

 そんな雑談をしていると。

 

 ――ガチャ。

 

 扉が、開いた。

 

「来たぜぇ!」

 

 やたらと陽気な声。

 

「この俺がな!」

 

 ギターの音。

 

 反射的に、背筋が伸びる。

 

 そこに立っていたのは――

 

 ――一発で、思い出す。

 

 あの、

 

 チャラ男だった。

 

 ……騒がしくなる予感しかしない。

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