想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
「おい」
低く、荒っぽい声が響いた。
「うるせぇ連中だな」
振り向くと、
鋭い眼光の男が、腕を組んで立っていた。
「今回の御前試合は」
「最初から諦めとけ」
鼻で笑う。
「どうせ」
「鳴海家が勝つ」
空気が、張りつめる。
「おいおい」
翔が、肩をすくめた。
「そりゃあ」
「ずいぶん、舐めてくれるじゃないか」
「こっちだって」
「負けるわけには、いかねぇんでね」
「はっ」
烈《れつ》が、吐き捨てる。
「怪物を抱えた家と」
「始点ですらない下っ端が」
「図に乗るなよ」
一瞬。
翔の表情が、変わった。
「……俺のことはいい」
一歩、前に出る。
「でも」
「お嬢様を、馬鹿にするな」
烈の口角が、吊り上がる。
「今、やってもいいぜ」
「どうせ」
「この烈様が勝つ」
「上等だ!」
翔も、拳を握る。
今にも、ぶつかりそうになった、その時。
「やめなさい、翔」
静かな声。
優華だった。
「ここは戦いの場ではありません」
「試合で戦いなさい」
同時に。
「烈」
もう一人の男が、烈の肩に手を置く。
「ここでは、控えよう」
柔らかな声。
「すまない」
男は、一礼する。
「我が友が、失礼した」
「私の名は」
「
「楽座家の者だ」
続けて。
「烈は」
「ご存じ、鳴海家」
そして。
視線が、俺に向く。
「それと……君は」
一瞬、笑う。
「ようやく」
「お目にかかれた」
「話題の少年」
「ど、どうも……」
思わず、言葉が詰まる。
「君の噂は、聞いているよ」
「一般人から覚醒して」
「転神町で、大暴れしたとか」
「あ、すまない」
急に、早口になる。
「つい、喋りすぎてしまった」
「家から」
「あまり、出られなくてね」
「こうして人と話すのが」
「楽しくて」
悪気のない笑顔。
なのに。
なぜか、背中が寒い。
「烈」
落葉松は、くるりと踵を返す。
「君は、喧嘩が早すぎるよ」
「ほら」
「僕らが長居するのは、良くない」
「食事でも」
「行こうじゃないか」
去り際。
烈が、振り返る。
「次、会うときは」
「戦おうぜ」
視線が、号に刺さる。
「……あと」
「号」
「てめぇは、目障りだ」
「とっとと、帰りな」
それだけ言って、
二人は歩き去った。
「……あいつなんてことを」
俺が言うと、
号は、何も言わなかった。
俯いたまま。
悔しそうな顔で。
「号……」
声をかけかけた、その時。
「……あんだよ」
荒木さんが、肩を鳴らす。
「お前ら」
「辛気臭ぇ顔しやがって」
「これから」
「祭りだぞ?」
「なんて顔してやがる」
「ほら」
「行くぞ、お前ら」
その言葉に、
俺と号は顔を上げた。
「……はい」
「じゃあ」
「またな」
天舞家と別れ、歩き出す。
「……なぁ」
ふと、俺は聞いた。
「どこに行くんだ、これ?」
「御前環だ」
荒木さんが、あっさり言う。
「御前試合で使われる」
「山中の巨大結界内にある闘技場だ」
「今日は」
「祭りの会場にもなってる」
「戦いの場でもあるし」
「交流の場でもある」
「ちょうどいいだろ」
廊下を抜ける。
外に出た、その瞬間。
――空気が、変わった。
山の奥。
巨大な結界が、
世界そのものを包み込んでいる。
視界が、歪む。
肌に、じわりとした圧。
そして。
その中心に。
巨大な闘技場――
《御前環》が、口を開けていた。
「……」
思わず、足が止まる。
高く、厚い結界。
幾重にも重なる光の膜。
その内側で、
無数の灯りが揺れていた。
屋台。
人の声。
音楽。
祭りの熱気が、
結界の内側に満ちている。
「……でか」
思わず、声が漏れる。
見上げる。
「大きな……結界に」
「闘技場……」
喉が、鳴る。
「……ここで」
「ここで」
「戦うのか」
胸の奥が、
きゅっと締めつけられた。
「この祭りがな」
荒木さんが言う。
「唯一の、いい点だ」
「よし!」
「まずは酒だ!」
そう言って、
荒木さんは人混みに消えた。
「俺は」
「ショーを見てくる」
号も、別の方向へ歩き出す。
俺も、足を進めた。
結界の内側。
想力を使った、豪華な見世物。
詩人が語る、想界師の歴史と逸話。
翔の、騒がしい演奏。
腕相撲に、笑い声。
闘技場の中央では、
試合前とは思えないほどの賑わい。
それでも。
足元に、確かに感じる。
この場所が――
「戦うため」に作られた空間だという事実。
祭りの熱気の奥に、
研ぎ澄まされた刃の気配がある。
串焼きを買おうとした、その時。
「あら」
背後から、声。
「あなたが」
「噂の少年ね」
振り向く。
とても、美しい女性。
だが。
どこか、不気味だった。
「ふふふ」
笑う。
「あなたは……」
そう言いかけた瞬間。
指が、
俺の唇に触れた。
「……やはり」
「そうなのね」
小さく、頷く。
「あなたには」
「期待しているわ」
「必ず」
「あの人のもとへ」
「頑張ってね」
次の瞬間。
――消えた。
影も、気配も。
何だったのか、分からない。
夢か、現実か。
それでも。
不思議と、
胸の奥に、安心感が残った。
「あんちゃん」
「焼けたよ」
屋台のおやじの声で、
現実に戻る。
「……あ、はい」
俺は、串を受け取る。
結界を、見上げる。
この場所で。
想いと想いが、
ぶつかる。
夜が明け。
朝日が、
《御前環》を照らす。
始点総会議が、始まった。
――運命が、動き出す音がした。