想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第43話 荒れる「想い」

 会議が、始まった。

 

 昨日の祭りの熱が、

 まだ完全には冷めきっていない。

 

 それでも。

 

 屋敷の中は、せわしなく動いていた。

 足音。

 衣擦れ。

 低く抑えた声。

 

 ここで決まる。

 

 ここで出た命令が、

 今後の想界師たちの行動を縛る。

 

「――では」

 

 円卓の奥。

 

 年老いた男が、口を開いた。

 

「始点総会議を」

「開始する」

 

 場が、静まる。

 

「今回の議題は」

「転神町の一件と、その対応についてだ」

 

 一拍。

 

「まずは」

「事件の概要を整理する」

 

 老人の指が、円卓を叩く。

 

「転神町では」

「抗争が激化していた」

 

「それ自体は」

「問題ではない」

 

「だが」

「そこに、想魁師の関与が疑われた」

 

 ざわめき。

 

「東京の想界師が」

「調査に入ったが」

 

「次々と」

「連絡が取れなくなった」

 

 空気が、重くなる。

 

「そこで」

 

 老人は、視線を動かした。

 

「近藤大地」

「鳴海 号」

「天歌 翔」

「鳴海 怜」

 

「以上四名が」

「改めて調査を開始」

 

 俺は、息を呑む。

 

「その結果」

 

「判明したのは」

「二点」

 

 声が、低くなる。

 

「始点の血統のみが扱える秘伝」

「――《開眼》」

 

「それを」

「人工的に再現しようとする研究」

 

 円卓が、ざわついた。

 

「そして」

 

「想獣の」

「人工発生」

 

 ――一斉に、声が上がる。

 

「由々しき事態だ!」

 

「我々の神秘を汚すゴミどもめ!」

 

「即刻」

「罰を与えねばならん!」

 

「威厳の問題だ!」

「始点の名に関わる!」

 

 怒号。

 

 憤怒。

 

 上層部の老人たちは、

 感情を抑えきれていなかった。

 

「静粛に」

 

 別の老人が、声を張る。

 

「この件は」

「我々の神秘に関わる重大事案だ」

 

「だが」

 

 視線が、鋭くなる。

 

「問題は」

「それだけではない」

 

 矛先が、変わった。

 

「荒木」

「貴様の対応だ」

 

 場の空気が、凍る。

 

「貴様の対応は」

「実に、甘い」

 

「もしや」

「貴様こそが――」

 

「我々に潜む」

「鼠ではあるまいな?」

 

 睨みつける。

 

 荒木は、鼻で笑った。

 

「たく」

「うるせぇじじいどもだ」

 

 椅子に深く腰掛け、

 足を円卓に乗せる。

 

「まず大前提だ」

 

「俺は」

「転神町の化け物を片付けた」

 

「それも」

「被害は最小限でな」

 

 ざわり。

 

「血統の神秘よりもだ」

 

「俺たち想界師には」

「秘匿の義務がある」

 

 視線を横に投げる。

 

「鳴海のじじいに任せてたら」

「町ごと消し炭だ」

 

「証拠も」

「何も残らねぇ」

 

「それに」

 

 声が、低くなる。

 

「町が丸ごと消えたら」

「想界石の修正力が、どうなる?」

 

「違和感どころじゃねぇ」

「最悪、暴走する」

 

「そんなもん」

「俺らに、止められるか?」

 

 上層部は、

 忌々しいものを見る目で荒木を睨む。

 

「それに」

 

 荒木は、続けた。

 

「てめぇらの方こそ」

「対応が遅ぇんじゃねぇのか?」

 

「もっと」

「危機感を持って動いてりゃ」

 

「被害は」

「もっと減らせたはずだ」

 

「俺に文句言う暇があるなら」

「まず、まともに働け」

 

「荒木ぃ!」

「不敬だぞ!」

 

「今日という今日は」

「許さん!」

 

 吠える老人たち。

 

「ガハハハ!」

 

 その空気を、

 笑い声が切り裂いた。

 

「相も変わらず」

「毒舌なやつじゃのう」

 

 別の老人が、笑う。

 

「だが」

 

「荒木の言うとることも」

「間違っとらん」

 

 一拍。

 

「十年前の戦争以来」

「わしらは、少し気が抜けておった」

 

「だからこそ」

「気を引き締めねばならん」

 

 頷きが、広がる。

 

「それに」

 

 鳴海家の老人が、言う。

 

「やつらの計画は」

「まだ、終わっとらんじゃろ」

 

「戯眼などという」

「恐ろしいものを」

 

「十も作っておいて」

「何もしない馬鹿はおらん」

 

「……わしなら」

 

 低く。

 

「戦争するわ」

 

「鳴海」

「嘘でも言ってはならん」

 

 背の高い、いかつい男が制す。

 

「我々が守ってきた神秘を」

「脅かす存在を」

 

「黙って見逃すわけにはいかない」

 

「必ず」

「報いを受けさせると誓おう」

 

「……ふぁああ」

 

 場に、似つかわしくない声。

 

「ねぇ」

「まだ終わらないの?」

 

 眠たそうな女の声。

 

「楽座のおっさん」

 

「昨日」

「流行りのドラマ見てたら」

 

「夜更かししちゃってねぇ」

 

「貴様はどこまでむかつく女だ……!」

 

 拳を震わせる楽座家当主。

 

「あー」

 

「今の時代」

「女も活躍するのよ」

 

「あと」

 

「私の名前は」

「“女”じゃなくて」

 

天舞 愛華(てんまい あいか)

 

「美しい名前があるの」

「注意してね」

 

「……荒木燈真《あらき とうま》の残り火め」

 

 低く吐き捨てる。

 

 次の瞬間。

 

「それ以上」

 

 愛華の声が、変わった。

 

「あの人を」

「馬鹿にするなら」

 

「殺すわよ」

 

 真顔。

 

 一瞬で、空気が凍る。

 

「……まあまあ」

 

 老人が、杖を鳴らす。

 

「やめい」

「馬鹿ども」

 

「それにしても」

 

「情報が」

「少なすぎるのう」

 

「……あ」

 

 愛華が、思い出したように言う。

 

「忘れてた」

 

「私」

「あいつらの調査してたの」

 

「はい」

「これ、情報」

 

 ――爆弾が、落とされた。

 

「なにぃ!?」

「それを、早く言わんか!」

 

「ごめんごめん」

 

 書類を、放る。

 

 そこに記されていたのは。

 

 ――歪音十三奏(ファズエット)。

 

 少数精鋭、十三名。

 全員、式想持ち。

 

 裏で暗躍する組織。

 

 目的。

 

 ――今ある秩序の、破壊。

 

 人体実験。

 極悪犯罪。

 血の記録。

 

「……酷い」

 

 鳴海の老人が、唸る。

 

「これが本当なら」

「まずいな」

 

 荒木が、額に汗を浮かべる。

 

「十三名中」

「十名が、戯眼――開眼持ちだと……?」

 

 沈黙。

 

 その中で。

 

 ただ一人。

 

 天舞 愛華は、笑っていた。

 

「……おもしろくなりそう」

 

 誰にも消えない声で、囁く。

 

 そのとき。

 

 屋敷の外から、

 言い争う声が響いた。

 

「おい」

 

「出来損ない」

 

「なぜ」

「まだ、ここにいる」

 

 視線が、集まる。

 

 そこにいたのは。

 

 鳴海 烈。

 

 そして。

 

 睨まれる――号の姿だった。

 

 火種は、

 もう、外でも燃えていた。

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