想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第44話 身を潜める「想い」

 号と烈は、向かい合っていた。

 

 空気が、張りつめる。

 

「……俺は」

 

 号が、歯を食いしばって言った。

 

「今は」

「師匠や、みんなと一緒にいる」

 

「もう」

「鳴海じゃない」

 

 一歩、前に出る。

 

「荒木だ」

 

 烈は、鼻で笑った。

 

「何が荒木だ」

 

「逃げ出した」

「弱虫が」

 

「たまたま」

「拾われただけだろ」

 

 低く、続ける。

 

「お前は」

「強くなれない」

 

「……」

 

「俺はな」

 

 烈は、肩をすくめた。

 

「お前を思って」

「言ってるんだ」

 

「いくら弱くても」

「血は繋がってる」

 

「そんなやつを」

「わざわざ殺したくはない」

 

 狼のような笑み。

 

「だから」

「おとなしく帰れ」

 

「東京にだ」

 

 号の拳が、震える。

 

「師匠も」

「仲間も」

 

「お前らと違って」

「俺を、信じてくれた」

 

「だから」

 

「俺は」

「恩を返す」

 

 顔を上げる。

 

「もう」

「足手まといにはならない」

 

 烈の目が、細くなる。

 

「……分からねぇな」

 

「愚弟は」

「何度、痛い目に遭わせりゃ」

 

 烈の腕が、

 ぐにゃりと歪んだ。

 

 骨が軋む音。

 

 毛並み。

 

 狼の腕。

 

「俺が上だって」

「認めろ」

 

 同時に。

 

 号の全身を、

 想力が迸る。

 

「……もう」

 

「……あの時の俺とは違う」

 

 刀に、手をかける。

 

「俺は」

「暴力には、屈しない」

 

 二人が、踏み込む。

 

 ――衝突する。

 

 その、直前。

 

「やめい」

 

 低い声が、割って入った。

 

「小僧ども」

 

 現れたのは、

 鳴海家の老人だった。

 

「まったく」

「試合まで待てんのか」

 

「そこらのペットでも」

「待てるぞ」

 

 その姿を見た瞬間。

 

 烈は、腕を戻す。

 号も、刀を収めた。

 

「……親父」

 

 烈が、舌打ちする。

 

「会議は」

「どうした」

 

「一旦」

「終わりじゃ」

 

 老人は、笑う。

 

「いつもの」

「決まらん会議かと思うたが」

 

「収穫はあった」

 

「今は」

「機嫌がいい」

 

 烈の肩を叩く。

 

「ほれ」

「帰るぞ」

 

 歩き出す前に、

 老人は振り返った。

 

「号」

 

「弱虫のお前が」

「ここまで来たことは」

 

「褒めてやる」

 

 一拍。

 

「だが」

 

「揺れ動くような」

「半端な気持ちでは」

 

「死ぬぞ」

 

 そう言い残し、

 二人は去っていった。

 

 ――少し、離れた場所。

 

「烈」

 

 老人が、低く言う。

 

「感情に」

「囚われると」

 

「足元を、掬われる」

 

「……」

 

「あやつはな」

 

「家にいた頃とは」

「顔が違う」

 

「経験を」

「積んどる」

 

「いくらお前でも」

「油断するな」

 

「……ちっ」

 

「分かったよ」

「親父」

 

 烈は、吐き捨てるように答えた。

 

 ――――

 

「終わったぞ、号」

 

 疲れた声。

 

 荒木だった。

 

「師匠」

「会議は……?」

 

「最悪だ」

 

 即答。

 

「だが」

「情報は得た」

 

 拳を握る。

 

「これが終わったら」

「動くぞ」

 

「俺らも」

「負けてられねぇ」

 

 ガッツポーズ。

 

「帰るぞ、号」

 

 号は、少し驚いてから。

 

「……はい」

 

 笑った。

 

 ――荒木の部屋。

 

「いいか」

 

 荒木は、

 号、大地、吉沢を見渡す。

 

「鳴海家と」

「楽座家」

 

「御前試合中」

「間違いなく、何かしてくる」

 

「俺は」

「闘技場に入れねぇ」

 

「だから」

「守ってやれない」

 

 一拍。

 

「だが」

「俺は、お前らを信じる」

 

「何かあっても」

「俺を、信じろ」

 

「必ず」

「どうにかしてやる」

 

 四人は、拳を合わせた。

 

「明日は」

「勝ってこい!」

 

 ――別の部屋。

 

「作戦は」

「簡単だ」

 

「奴らの勝利を」

「必ず、妨害しろ」

 

「兄貴も」

「悪いですなぁ」

 

「結界の細工は」

「ワイの仕事ですやろ?」

 

「……当然だ」

 

 ――闘技場、地下。

 

「目的は」

 

「秩序を」

「乱すこと」

 

「始点を」

「分断させろ」

 

「了解だ、ボス」

 

「俺らに」

「任せろ」

 

「もちろんよ」

 

 妖艶な女が、笑う。

 

「簡単に」

「仲間割れするわ」

 

「俺は」

「暴れられりゃ、何でもいい」

 

「……よかった」

 

 柔らかな声。

 

「みんなが」

「楽しそうで」

 

「僕も」

「うれしいよ」

 

「僕は」

「別の任務がある」

 

「それが終わったら」

「向かうね」

 

「また」

「会おうね」

 

 闇に、消える。

 

 残された、三つの影。

 

 笑っていた。

 

 ――???

 

「いやはや」

 

「ようやく」

「役者が、揃った」

 

「みんなが」

「大好きなゲームを」

 

「始められる」

 

「誰が」

「どう動くのか」

 

「どんな結末に」

「行き着くのか」

 

 愉悦の声。

 

「予想できない」

「最高だ」

 

「フハハハハハ……」

 

 結界の奥。

 

 静かに、

 男は微笑んでいた。

 

 ゲームは、

 もう、止まらない。

 

 ――御前試合、前夜。

 

 最悪の幕が、

 静かに、上がった。

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