想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第45話 湧き出す「想い」

 そして――御前試合当日。

 

 俺たちは、山中の巨大結界の中にいた。

 初日の祭りと同じ場所。

 

 闘技場《御前環》。

 

 石の床。

 高く組まれた観客席。

 空を覆うように張られた結界が、山の空気をどこか異質にしている。

 

 すでに想界師が多く集まり、

 今か今かと熱気が渦を巻いている。

 

 俺たちは、荒木家の控室にいた。

 

 吉沢が、淡々と言う。

 

「試合のルールは簡単だ」

 

「殺してはいけない」

「それだけ」

 

「相手が戦闘不能になるか」

「降参するか」

 

 シンプル。

 だからこそ――いくらでも、仕掛けられる。

 

「気をつけろよ」

 

 荒木が、壁にもたれて腕を組む。

 

「はい」

 

 俺が答えると、荒木は頷いた。

 

「形式は対戦形式だ」

 

 荒木の視線が、俺たち三人に流れる。

 

「順番はこうだ」

 

「先鋒――大地」

 

 胸が熱くなる。

 

「次鋒――吉沢」

 

 吉沢は軽く肩をすくめた。

 

「大将――号」

 

「……え?」

 

 号が、思わず荒木を見る。

 

「なぜ俺が最後なんですか」

「吉沢さんの方が……」

 

「これは僕の提案だ」

 

 吉沢が、手を上げた。

 

「僕も負けるつもりはない」

「けど、号君の方が適正だ」

 

 一拍。

 

「それに」

 

 吉沢は笑って。

 

「正直、僕は大将って柄じゃない」

 

 その言い方が、妙に引っかかった。

 吉沢の視線が、号の奥にあるもの―を見ている気がしたからだ。

 

「そういうわけだ」

 

 荒木が、言い切る。

 

「負けたやつは」

「帰ったら激ヤバ特訓だ」

 

「嫌なら」

「勝って来い」

 

 荒木は、それだけ言って部屋を出た。

 

 扉が閉まる。

 

 残った俺は、拳を握った。

 

「任せろ」

 

 号と吉沢を見る。

 

「俺が全員やってやる」

「修行の成果、見せてやる」

 

 自分でも驚くくらい、声が明るかった。

 

 その明るさに。

 

 号の表情が、一瞬だけ動いた。

 

 ――羨ましそうに。

 

 ◇

 

 やがて。

 

 会場が、爆発するように沸いた。

 

「レディース――アンド――ジェントルメン!」

 

 司会の声が、闘技場全体に響き渡る。

 

「ようこそ皆さま!」

「今年も藤間家が司会をお送りするぜ!」

 

 派手な声。

 観客が笑い、叫び、拳を振る。

 

「前回の闘いはなァ!」

「暴れん坊の荒木が、ぐちゃぐちゃにしやがった!」

 

 どっと笑いが起きる。

 

「だが今回は!」

「荒木はいない!」

 

「――それすなわち!」

 

「荒木家の連勝を止められる!」

「チャンスだァ!」

 

 観客が沸く。

 歓声と罵声が混ざって、耳が痛い。

 

「今回の闘いは混沌を極める!」

「最後まで、何が起こるか分からねぇ!」

 

「目ん玉かっぽじって、よく見ろよ!」

 

 嫌な予感が、背中を撫でた。

 

「まずはこの二組!」

「野蛮で荒くれ、喧嘩上等の――」

 

 間を置き、叫ぶ。

 

「荒木家ァ!!」

 

 合図と同時に、俺たちは闘技場へ上がった。

 

 ――ブーイング。

 

 歓声より、明らかに多い。

 

「うわ、マジかよ……」

 

 思わず苦笑いが漏れる。

 

「荒木さん」

「何したらここまで嫌われるんだ……」

 

 吉沢が小さく笑った。

 

「荒木さんは」

「人生を楽しんでるだけだよ」

 

「次の相手はァ!」

 

 司会が声を張り上げる。

 

「御生万の管理人!」

「すべての想界師が足元を向けられねぇ!」

 

「――楽座家ァ!!」

 

 歓声が爆ぜた。

 

「止めろォ!」

「頼むぞォ!」

 

「頑張れ落葉松様ぁ!」

「落葉松さまぁぁ!!」

 

 闘技場に上がってきたのは、三人。

 

 見覚えのある男――楽座 落葉松。

 妙に胡散臭そうな男。

 そして、興味がなさそうな女。

 

 落葉松は、ゆっくりと俺を見た。

 

「また会ったね」

 

 柔らかい声。

 でも、目が笑っていない。

 

「噂の少年」

 

 俺は、拳を握り直した。

 

「俺の名前は」

「近藤大地だ」

 

「わかったよ」

 

 落葉松が、少しだけ口角を上げる。

 

「大地君」

 

 司会が、叫ぶ。

 

「初戦ッ!」

 

「想界師になってから噂が絶えねぇ!」

「謎の少年――近藤大地!」

 

「対するは――!」

 

「数々の女を虜にしてきた美男!」

「楽座 落葉松!!」

 

 観客が、狂ったように叫ぶ。

 

 俺の心臓が、早鐘を打つ。

 

 落葉松が、ほんの少しだけ距離を詰めた。

 

 ――その一歩が、妙に軽い。

 

 軽いのに、

 空気が重くなる。

 

 闘技場の結界が、吸う力を強めた気がした。

 

 俺の肌が、ざわつく。

 

 視界の端で、吉沢がこちらを見ている。

 いつもの“遊び”じゃない目だ。

 

「試合――」

 

 司会が息を吸う。

 

「――始めぇ!!」

 

 その瞬間。

 

 落葉松の刀身に赤い筋が走る。

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