想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
伊織《いおり》が、静かに手を挙げた。
「――開梱」
その声と同時に、
吉沢の頭上の“空間”が歪む。
次の瞬間。
無数のナイフが、雨のように降り注いだ。
「……っと」
吉沢は足元に衝撃を走らせる。
――ドン。
爆ぜるような反動。
目にも止まらぬ速度で、
一気に伊織との距離を詰める。
(速い……!)
観客が息を呑む。
そして――
渾身の飛び蹴り。
決まる。
その、刹那。
「――開梱」
伊織の声。
再び、空間が歪む。
現れたのは――
巨大な爆弾。
吉沢の蹴りが、直撃する。
――ドンッ!!
爆炎が、闘技場を包んだ。
だが。
吉沢は、爆風の中で体勢を崩さない。
衝撃を、流している。
「……危ない危ない」
煙の中から、軽い声。
「いきなり自爆技とは」
「ずいぶん、僕に興味がないようだね」
次の瞬間。
――銃声。
弾丸が、吉沢を襲う。
だが。
ひらり、ひらりと。
吉沢は軽々とかわす。
「なめてくれるじゃないか」
「僕が」
「重火器程度でやられると思われてるなんてね」
距離が、縮まる。
銃声が止む。
「……っ」
焦りの混じった声。
「――重箱」
伊織の合図。
空間が裂け、
想力を宿した刀が、連続で射出される。
「へえ」
吉沢は、感心したように言った。
「想力入りの刀か」
それを。
避け続ける。
一太刀、二太刀、三太刀。
そして。
射出された刀が、横切る瞬間。
吉沢は――掴んだ。
「……もらい」
そのまま、投擲。
煙の向こう。
伊織の顔、すれすれをかすめ。
――ドン。
壁に、深々と刀が突き刺さる。
「ひぃ……っ」
伊織の腰が、抜けた。
「む、無理……」
「強すぎる……」
両手を振る。
「――降参!」
その宣言と同時に、
場内がどよめいた。
「なんということだ……!」
「楽座家、敗北!」
「流石は金等級最強!」
「荒木チーム、またしても勝利!」
司会の声が、悔しそうに響く。
「これで二勝!」
「荒木チーム、決勝進出決定だ!」
――勝った。
完全勝利だった。
ベンチに戻った吉沢は、
俺に向かって笑う。
「大地」
「さっきの、真似させてもらったよ」
「どうだ」
「俺の技、強いだろ?」
俺は、思わず胸を張った。
そして。
何より。
――号が、戦わずに済んだ。
体力は、完全に温存。
控室に戻る。
鍵のかかっているはずの扉を開けると――
「いやー」
「強いですわ、ほんま」
中に。
一人の男が、いた。
明らかに作り笑い。
「勝てる思たんですけどなぁ」
「完封負けですわ、ははは」
目は、笑っていない。
「ワイの名前は――」
「
「以後」
「よろしゅう」
視線が、号に向く。
「ほんまは」
「号君と戦いたかったんやけどな」
「まあ」
「残念や」
――口とは裏腹に。
嬉しそうな顔。
「戦えずじまいで」
「挨拶もせんのは、楽座の名が廃れますさかい」
「顔見せに来ただけですわ」
踵を返す。
「ほな」
「また会いましょう」
一拍。
「――生きてたらね」
そう言い残し、
荒邦は去っていった。
「……なんだったんだ、あいつ」
俺が言うと。
号は、低い声で答えた。
「あいつは」
「胡散臭い男だ」
「噂だが」
「想界師を使ったビジネスをしている」
「かなりグレーなやつだ」
「関わるなよ」
「楽座家って」
「そんなのもいるんだな……」
「そうだね」
吉沢が、肩をすくめる。
「今の楽座家は」
「荒邦率いる改革派と」
「国重率いる穏健派が」
「バチバチだ」
一拍。
「それに――」
「ここまで簡単に勝てるのも」
「正直、怪しい」
「伊織も荒邦も」
「本来、表で戦うタイプじゃない」
「まるで――」
「勝つ気がないみたいだ」
俺も、頷いた。
確かに。
どこか――不気味だ。
「まあ」
「考えても仕方ないか」
「ほら」
「次の試合、始まるよ」
俺と号は、吉沢について行った。
「第一試合は」
「荒木家チームの勝利でした!」
司会が、悔しそうに叫ぶ。
「決勝で荒木を止めるのは――」
「どちらのチームか!」
「それでは!」
「チーム紹介だ!」
観客が、沸く。
「まずは!」
「想界師を裏で守り続けてきた影の立役者!」
「――天舞家!!」
だが。
影とは程遠い。
ひときわ目立つ男が、
ギターを掻き鳴らしながら登場する。
激しい音が、闘技場を揺らす。
「翔様――登場!!」
「きゃあああ!」
「翔様ー!!」
黄色い歓声。
その後ろから。
困ったように微笑む優華。
そして。
目を輝かせ、翔を見つめる瑠偉。
「対するは――!」
「御生万を守り続けてきた」
「最強の盾!」
「――鳴海家!!」
野太い声援。
首を鳴らしながら入る烈。
その後ろ。
鋭い眼差しの、厳格な男。
さらに。
観客をきょろきょろ見回す青年。
「悪いが」
烈が、吐き捨てる。
「お前らは準備運動だ」
「とっとと終わらせるぞ」
「……ほう」
翔が、冷たく笑う。
「準備運動扱いか」
「そのつれない態度――」
「燃やしてやるよ」
司会が、声を張り上げる。
「先鋒は――!」
「我らがアイドル!」
「きらめく才能と可愛さ!」
「天は二物を彼女に与えた!」
「――天歌 瑠偉!!」
歓声。
「対するは――」
「鳴海家の期待の新星!」
「その顔に潜む想いはいかに!」
「――鳴海 優真!!」
瑠偉が、にっこり笑う。
「私が」
「ぼこぼこにしてやるわ」
優真は、少し困ったように。
「えーと……」
「よろしくお願いします、でいいのかな?」
司会が、叫ぶ。
「――試合、始めぇ!!」
影と盾。
次なる戦いが、
静かに、幕を開けた。
あとがき
楽座 伊織
式想 余室
技 重箱、開梱
特徴 自身の想力量と同等のサイズの空間を作り出す。その空間には自身と物を入れれる。開梱すると、中のものが出てくる
縛り 想力が減ると大きい物を出せなくなる。また、自身が空間に入ると想力が常に大幅に減少するので3秒が限界。