想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第50話 叫ぶ「想い」

 医療室は、静かだった。

 

 ベッドに横たわる翔は、

 全身を包帯で覆われている。

 

「……まあ」

 

 南が、肩をすくめる。

 

「重症には変わりないからね」

「しばらくは安静」

 

 優華は、胸に手を当てた。

 

「もちろんです」

「最後の攻撃は……心臓が止まるかと思いました」

 

 視線を翔に戻す。

 

「無事で、本当に良かった……」

 

「お兄ちゃーん……!」

 

 瑠偉が、泣きながら翔に抱きつく。

 

「それでもね」

 

 南が、少しだけ声を落とす。

 

「この怪我、本来ならかなり危ないよ」

「でも――」

 

 視線が、天井へ向いた。

 

「ここで良かった」

 

「……どういうことだ?」

 

 俺が聞くと、

 南は、指で壁を軽く叩いた。

 

「この闘技場の結界」

「微弱だけど、想力を吸収してる」

 

「吸った想力で」

「傷を治してるんだよ」

 

 俺は、息を呑んだ。

 

「だから」

「戦っても、闘技場が勝手に直る」

 

「誰かが直してると思ってたけど」

「そういう仕組みだったんだ」

 

 改めて、集中する。

 

 確かに――

 想力が、微かに結界へ流れている。

 

「想力が少ない人は?」

 

 俺が問う。

 

「そこが肝」

 

 南は、にやっと笑った。

 

「想力が少ない人からは」

「ほとんど吸わない」

 

「戦闘中みたいに」

「消費が激しいときだけ、吸収量が増える」

 

「だから」

「派手になりやすいし、決着も早い」

 

 一拍。

 

「あ、これ」

「本当は内緒ね」

 

 ウインクして、

 南は部屋を出ていった。

 

 静寂。

 

「……ねえ大地」

 

 瑠偉が、こちらを見る。

 

「絶対」

「鳴海家に負けちゃダメだからね」

 

 俺は、拳を出した。

 

「もちろん」

「負けない」

 

 拳を合わせる。

 

 優華も、静かに言った。

 

「それと……」

「鳴海家、やはり不気味でした」

 

「どうか、気を付けて」

 

 俺は、頷いた。

 

 ――そして。

 

 昼の休憩が終わる。

 

 決勝戦。

 

 ◆

 

「なんという波乱の闘いだ!」

 

 司会の声が、響く。

 

「先ほどの試合!」

「私の人生でも、指折りの熱戦でした!」

 

 観客の熱が、戻ってくる。

 

「そして――」

「決勝戦だ!」

 

「荒くれ者の集団!」

「最強の矛・荒木家!」

 

「すべてを弾き返す!」

「最強の盾・鳴海家!」

 

「究極の矛盾!」

「今日、答えが出る!」

 

 歓声。

 

「先鋒!」

 

「落葉松様を打ち破った噂の少年!」

「近藤 大地!」

 

 俺は、闘技場に立つ。

 

「対するは!」

鳴海 優真(なるみ ゆうま)!」

 

 優真が、軽く手を振る。

 

「やろうぜ」

 

「いてて……」

「まだ痛むから、お手柔らかにね」

 

 司会が、叫ぶ。

 

「――試合、はじめぇ!!」

 

 ◆

 

(あいつの能力……)

 

 分からないままだ。

 

 でも、

 ガードが硬い感じはしない。

 

(なら――)

 

「先手必勝!」

 

「フィスト――」

 

 その瞬間。

 

 視界が、

 真っ暗になった。

 

「……なっ」

 

 技を、止めてしまう。

 

(暗闇……!?)

 

 次の瞬間。

 

 視界が戻る。

 

 ――目の前。

 

 優真の刀。

 

「――っ!」

 

 避けようとした。

 

 だが。

 

 今度は――

 音が、消える。

 

「……?」

 

 何も聞こえない。

 

 集中が、切れる。

 

 スッ。

 

 皮膚が、薄く裂けた。

 

「……っ」

 

 切られた。

 

(なら、反撃――)

 

 技名を叫ぼうとする。

 

 だが。

 

「……?」

 

 声が、出ない。

 

 次の瞬間。

 

 ――ドンッ。

 

 強烈な蹴りが、腹に刺さる。

 

「ぐはっ!!」

 

 吹き飛ばされる。

 

 地面を転がりながら、叫ぶ。

 

「……何をした……!」

 

 優真が、苦笑した。

 

「あはは、ごめんね」

 

「さっき、ちょっとミスって」

「皆に怒られちゃってさ」

 

 一歩、近づく。

 

「君とは遊びたかったんだけど」

「そうもいかなくなった」

 

 目が、冷たい。

 

「だから」

「――殺すね」

 

 背筋が、凍る。

 

「本気で……!」

 

 刀を避ける。

 

(……見えない)

(聞こえない)

 

(なら――)

 

 俺は、目を閉じた。

 

 想力を、

 感知に集中させる。

 

「……へえ」

 

 優真の声。

 

「それ、使えるんだ」

 

「楽に勝てると思ったのに」

 

 一拍。

 

「でもね」

「対策してないわけ、ないじゃん」

 

 淡々と告げる。

 

「僕の式想は《徳猿》」

 

「三つのデバフを」

「順番に相互に付与する」

「見ざる、聞かざる、言わざるさ」

 

「ただし」

「開示した瞬間――」

 

 笑う。

 

「バフに変わり、順番もランダムさ。」

 

「三猿」

 

 攻撃が、当たらない。

 

(視界……強化されてる……!?)

 

 当たらない。

 

 何度も。

 

 優真が、突然耳を塞ぐ。

 

 そして――

 大声で、叫んだ。

 

 爆音。

 

「――っ!!」

 

 耳を抑える。

 

 膝が、崩れた。

 

(……声を強化したのか……)

 

 完全に鼓膜が切れた。

 

「チェックメイト」

 

 刀が、向けられる。

 

(……ここで……)

 

(終わる……?)

 

 瑠偉の顔が、浮かぶ。

 

(……待て)

 

(残り、やつに来てないバフは――)

 

(聴覚)

 

(そして、俺に来ていないバフは――)

 

 確信。

 

(もうすぐ……変わる)

 

「……っ」

 

 優真が、気づいた。

 

「ちっ」

 

「やられる前に、やる」

 

 刀が、突き出される。

 

 ――グサッ。

 

 あえて、

 致命部位を外した。

 

 その瞬間。

 

 俺は、

 想力を込めて――

 

 やつの力と俺の力で二重に強化された声を優真の耳元で、

 叫んだ。

 

「――――あああああああ!!」

 

 次の瞬間。

 

 優真の耳から、血。

 

 泡を吹き、

 その場に崩れ落ちる。

 

「……っ」

 

 俺も、倒れた。

 

「な、なんということだぁ!!」

 

 司会の絶叫。

 

「近藤大地の勝利ぃぃ!!」

 

 観客が、沸き上がる。

 

 俺は、仰向けになりながら呟いた。

 さっきまでの爆音と歓声が嘘のように、会場は水を打ったような静寂に包まれていた。耳鳴りの奥で、自分の速すぎる心臓の音だけが、勝利のドラムのように激しく響いていた。

 

「……あー……」

 

「しんど……」

 

 空が、

 やけに遠く見えた。

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