想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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三章 始点総会議編 後編
第53話  幕が上がる「想い」


 勝った。

 確かに、号は勝った。

 

 だが――。

 

「……?」

 

 拍手も歓声も、どこか歪んで聞こえた。

 闘技場の空気が、妙に重い。

 

 大地は我に返り、すぐに出口へ駆け出そうとした。

 

「号! 大丈夫か――」

 

 次の瞬間、見えない壁にぶつかった。

 

 ――ゴン。

 

「……なに?」

 

 手を伸ばす。

 確かに、そこに何かがある。

 

「なんで……結界が、まだ……?」

 

 試合が終われば、解かれるはずだった。

 それが常識だ。

 

 ざわつく観客席。

 怒号。悲鳴。立ち上がろうとして、倒れる人影。

 

「おっと」

 

 ステージの上から、軽い声。

 

「まだ語りの途中だよ、少年」

 

 黒いスーツの男が、指を立てる。

 

 男は、観客席へ向き直った。

 

「観客の皆様には申し訳ない」

 

 男は、闘技場全体を見回す。

 

「今宵は、この闘技場を――正確には、この大結界を、少しお借りしました」

 

 「俺たちをここから出せ!」

 

 男は肩をすくめた。

 

「それは無理だね」

「客のいない劇なんて、成立しない」

 

 指を一本立てる。

 

「これから始めるのは――脱出ゲームです」

 

 場が、凍る。

 

「ルールは簡単。この闘技場の謎を解き、出るだけ」

 

 男は淡々と続けた。

 

「謎は四つ。

 強欲、傲慢、嫉妬、怠惰」

 

 大地の背中に、冷たいものが走る。

 

「さらにヒントをあげよう。

 関連する人物は――」

 

 一人ずつ、名前が落とされる。

 

「鳴海 烈。

 天舞 優華。

 楽座 荒邦。

 鳴海 壮吾」

 

 ざわめきが、一段大きくなる。

 

「それぞれ、自分が“どれ”かを理解し、理由を自覚したとき。

 ――鍵が現れる」

 

 男は、微笑んだ。

 

「四つの鍵が揃えば、結界は解除。

 晴れて、脱出ゲームクリアです」

 

 沈黙。

 

 そして、男は指を鳴らした。

 

 ――パチン。

 

 瞬間。

 

 ぞわり、と空気が変わった。

 

「……っ」

 

 大地は膝をつく。

 

 吸われている。

 はっきり分かるほど、想力が。

 

「勘のいい方なら、もう気づいていますよね」

 

 男の声が、やけに通る。

 

「この闘技場は、元々、皆様の想力を吸収する仕組みでした。

 それを――少し、強めました」

 

 観客席で、誰かが倒れた。

 

「……あ」

 

「残念ですが」

 

 男は残酷なほど、穏やかだった。

 

「最大想力が少ない方は、回復が追いつかない。

 運が悪ければ――死ぬかもしれません」

 

 悲鳴。混乱。泣き声。

 

「ははっ」

 

 男は楽しそうに笑う。

 

「では、始めましょうか。

 ――ゲームを」

 

 吉沢は、額の汗を拭った。

 

「……これは、まずいですね」

 

 一方、その頃。

 

 総会議場では、怒号が飛び交っていた。

 

「勝つのは号だ!」

 

「いや、烈じゃ!」

 

 荒木と鳴海が、睨み合う。

 

「試合、始まるよ?」

 

 天舞愛華が、軽く言った。

 

 モニターに映る戦い。

 

「いけ、号!」

 

「やれ、烈!」

 

 そして――。

 

「おっしゃああああ!」

 

 荒木が踊った。

 

「号の勝ちだ!」

 

「……感情を抑えろと言っただろうが!」

 

 鳴海勝吾が怒鳴る。

 

「アハハ。やっぱ荒木家は強いねぇ」

 

 天舞が笑った、その瞬間。

 

「あれ?」

 

 画面が、暗転する。

 

「……見えなくなった」

 

 三人同時に、嫌な予感を覚えた。

 

「……おい」

 

「……ああ」

 

「……そうね」

 

 次の瞬間。

 

 音もなく、目の前に現れた。

 

「君たちは――まだ早い」

 

「誰だ、お前」

 

 荒木が問う。

 

「僕?」

 

 男は軽く頭を下げた。

 

「“歪音十三奏《ファズエット》”」

「愉快な十三人の、リーダーのノイズさ」

 

「こやつが……」

 

「簡単な話だよ」

 

 ノイズは続ける。

 

「今、闘技場では最高のゲームが始まっている。

 それを邪魔されるのは、困る」

 

「……帰れって?」

 

 荒木が低く言う。

 

「弟子の勝負に水を差されたんだ。

 本気で殺すぞ」

 

「ははは、怖い怖い」

 

 ノイズは、楽しそうに言った。

 

「でも、いいのかな?

 ――今の日本が、壊れても」

 

「……何?」

 

 空間が、裂ける。

 

「緊急事態だ」

 

 現れたのは、楽座国重。

 

「日本全土に、黒等級の想獣が確認された」

 

 ノイズは、満足そうに頷いた。

 

「そういうわけ」

 

 手を振る。

 

「じゃあ、頑張ってきてね」

 

 姿が、消える。

 

「……ちっ」

 

 荒木の刀は、空を切った。

 

 屋敷に戻り、状況は整理された。

 

 闘技場は、内からも外からも出られない。

 結界は古代式。解除には、最低三日。

 

「……ふざけやがって」

 

 荒木は歯噛みする。

 

「今すぐ助けに行きたいのに……!」

 

「私と屋敷の者で、結界の解析を続ける」

 

 国重が言う。

 

「その間に、三人は想獣対応を」

 

「……分かった」

 

 荒木は外へ向かう。

 

「待ってろ。

 一日で終わらせてやる」

 

 背中が消える。

 

 そして、闘技場内。

 

 控室に集まったのは――

 吉沢、大地、天舞優華、天歌瑠偉。

 

 誰も、すぐには口を開けなかった。

 

 外には出られない。

 助けも、すぐには来ない。

 

 四つの罪。

 四つの鍵。

 

 そして、削られ続ける想力。

 

 大地は、拳を握った。

 

(……逃げられない)

 

 もう、選ぶしかない。

 

 ――後悔しないために。

 

 ゲームは、始まってしまった。

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