想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

54 / 138
第54話 選択する「想い」

 控室の空気は、重かった。

 

 想力が吸われ続けているせいだけじゃない。

 誰もが分かっていた。

 

 ――時間が、味方じゃない。

 

 最初に口を開いたのは、意外にも天舞優華《てんまいゆうか》だった。

 

「……わたし、彼らを知っています」

 

 一瞬、視線が集まる。

 

「本当か?」

 

 大地が反射的に聞き返す。

 

「愛華さまから、軽くですが教えられました」

 

 優華は、落ち着いた声で続けた。

 

「彼らの名前は――

 歪音十三奏《ファズエット》」

 

 その名を聞いた瞬間、

 吉沢の眉が、わずかに動いた。

 

「十三人で動く組織です」

「目的は……秩序の破壊」

 

 静かに、だがはっきりと言う。

 

「今回、指定された人物――

 私、烈さん、荒邦さん、壮吾さん」

 

 一人ずつ、名前を置く。

 

「私たちは皆、想界師の中でも

 “上”に近い立場にいます」

 

 沈黙。

 

「つまり、これは」

「私たちの“罪”を暴露させて」

 

 優華は、言葉を選んだ。

 

「想界師同士を、分断させるためのゲームです」

 

「……なんて奴らだ」

 

 大地が、歯を噛みしめる。

 

「やっかいなのが来たねぇ」

 

 吉沢は軽く言いながらも、目は笑っていない。

 

「ねえ、優華さん」

「君自身は……何か心当たり、ある?」

 

 優華は、首を横に振った。

 

「分かりません」

 

 迷いのない否定だった。

 

「そもそも」

「四つの罪は、誰しもが持っているものです」

 

「その中から一つを選び」

「理由を理解し、自覚するなんて……」

 

 小さく、息を吐く。

 

「簡単なことではありません」

 

「だよねぇ」

 

 吉沢は、後頭部を掻いた。

 

「この人数で挑むには」

「ちょっと……きついかもね」

 

 ふっと、視線を上げる。

 

「よし」

「瑠偉は、翔くんのところに」

 

「わかったわ」

「絶対、お兄ちゃんを守る」

 

 瑠偉は即答し、医療室へ向かう。

 

 控室の外は、混乱の渦だった。

 不安な顔。

 倒れたままの人。

 

「気をつけて行こう」

 

 吉沢の声に、大地と優華が頷く。

 

 人混みをかき分け、

 二つの家が集まっている控室へ。

 

 扉を開けると、予想通りだった。

 

「やっぱり来たか」

 

 楽座家と鳴海家が、すでに顔を揃えていた。

 

「困ってるのは、お互い様ってわけやな」

 

 楽座荒邦が、にやりと笑う。

 

「俺たちは情報を持ってる」

 

 吉沢が切り出す。

 

「だから協力して、このゲームを終わらせよう」

 

「アホかいな」

 

 荒邦は鼻で笑った。

 

「そんなん、親父から聞いとるわ。

 ファズエットの目的ぐらい、知っとる」

 

 肩をすくめる。

 

「どうせ“罪”を暴かせて、仲違いさせたいんやろ」

 

「……だから?」

 

 大地が低く問う。

 

「馬鹿正直にゲームを進めるメリットなんて、あらへん」

 

 荒邦は言い切った。

 

「うちは結界の専門家や。

 三日もあれば、こんなん解ける」

 

「三日もあれば……」

 

 大地が前に出る。

 

「中で死ぬ人が出るかもしれないだろ!」

 

「それがどうした」

 

 荒邦は即答した。

 

「想界師や。いつかは死ぬ。

 それが“今日”やっただけや」

 

 大地の拳が、震えた。

 

「……命を、なんだと思ってる」

 

「はぁ……」

 

 荒邦は呆れたように息を吐く。

 

「これやから甘ちゃんは困る」

 

 視線が冷たい。

 

「生きるべき命は、いつの時代も選別される。

 それを自ら決められるのは――強者だけや」

 

 大地が踏み出しかける。

 

「やめとこう」

 

 吉沢が腕を掴んだ。

 

「今は殴っても、何も変わらない」

 

 深呼吸して、鳴海家を見る。

 

「……鳴海家は?」

 

 壮吾は、短く答えた。

 

「我々も、荒邦の案に同意する」

 

 その瞬間。

 

「……あはは」

 

 吉沢が笑った。

 

「なるほどね」

 

「なんや、気でも狂ったか?」

 

 荒邦が眉をひそめる。

 

「分かりやすいんだよ、君ら」

 

 吉沢は肩をすくめる。

 

「動くのも、考えるのも嫌。

 でもそれ自体が――罪だ」

 

 静かに言う。

 

「何もしないことも、選択だろ?」

 

 荒邦の笑顔が、消えた。

 

「動けば罪が浮かぶ。

 考えれば、自覚が生まれる」

 

 吉沢は吐き捨てるように言った。

 

「……ほんと、不愉快だ」

 

 踵を返す。

 

「帰ろう」

 

 部屋を出る三人。

 

「なめたこと言いよるな……」

 

 荒邦の声が、背後で低く響いた。

 

 壮吾も、黙ったまま拳を握る。

 

 元の控室。

 

「はぁ……」

 

 吉沢は、壁にもたれた。

 

「大人失格だよ」

「本来、協力しなきゃいけないのに」

 

「でもさ」

 

 大地が笑う。

 

「俺はスッとしたぜ」

「言ってくれて、ありがとな」

 

「……そう?」

 

「うん」

「俺も、あいつらには腹立ってた」

 

 拳を握る。

 

「ギャフンって言わせてやろうぜ」

 

「いやいや」

「敵を増やしてどうするのよ~」

 

 吉沢は苦笑する。

 

「絶対」

「次は僕たち、消しに来るよ」

 

「その時は」

 

 大地は、迷いなく言った。

 

「――ぶっ飛ばす」

 

 そのやり取りを、

 優華は黙って見ていた。

 

 表情は穏やか。

 だが、その奥に――影。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。