想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
その晩だった
控室の外で、
――悲鳴が上がった。
「……っ!」
俺は、反射的に立ち上がった。
声は一つじゃない。
重なっている。
押し潰されるような、喉を絞る音。
「行くぞ!」
吉沢と同時に、外へ飛び出す。
通路の先。
照明の下で、黒い影が揺れていた。
「……あ」
人が、宙に吊られている。
正確には――
鎖で縛られていた。
何本もの黒い鎖が、
人の手首、足首、胴に絡みつき、
一本に束ねられている。
その先に立つのは――
昼間、ゲームの説明をしていた黒いスーツの男。
「ようやく演者が来ましたか」
軽い声。
「有象無象では、盛り上がらないので」
「助かりますよ」
縛られた人々が、苦しそうに呻いた。
「……た、助け……」
「想……想力が……!」
はっきり分かる。
吸われている。
(まずい)
この場で想力が減るのは致命的だ。
「放せ!」
俺が駆け出した、その瞬間。
――ガシャン!
鎖がうねり、
縛られた人ごと、大地に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
肺から、空気が抜ける。
男は、楽しそうに肩をすくめた。
「私の力はですね」
「鎖で縛り、想力を奪う」
鎖が、きしりと鳴る。
「さあ」
「早く止めないと――」
男の笑みが、歪む。
「私は、大勢を殺しますよ」
大地は歯を食いしばり、立ち上がった。
その横に、吉沢が並ぶ。
「大地」
「派手に動くと、周りに被害が出る」
「消耗も、避けたい」
「……了解」
男が、腕を振る。
鎖が、鞭のようにしなり、
床や壁を叩き壊した。
瓦礫が飛ぶ。
俺は、鎖を避けながら踏み込む。
「――フィストガン!」
拳を打ち出す。
だが。
鎖に触れた瞬間、
衝撃が――消えた。
「……なっ」
吸われた。
衝撃ごと、想力ごと。
「それも駄目かよ……!」
「まずいね、大地」
吉沢が息を整えながら言う。
「どうやら」
「彼との相性、最悪みたいだ」
その瞬間。
男が、ぴたりと動きを止めた。
「……おっと」
鎖を引き寄せ、
自身の腕に巻き付ける。
「失礼しました」
「あなた方には――」
視線が、二人を貫く。
「こっちの方が、盛り上がりますね」
男が、踏み込んできた。
大地が狙われる。
その死角から、吉沢が動く。
二人は、言葉を交わさない。
何度も繰り返してきた動き。
小さな衝撃。
短い拳。
だが、すべて――
鎖に受け止められ、吸われる。
「……通らない」
「半端な攻撃じゃ、無理だね」
吉沢が、俺を見る。
視線だけで、意図が伝わる。
「……あれだな」
大地が、頷いた。
吉沢が、地面に向けて小さな衝撃を放つ。
――ドン。
一瞬、足元が揺れた。
その隙に。
「――フィストガン!」
今度は、大きい。
さらに。
吉沢の衝撃が、
膜のように拳を包み込む。
拳と衝撃が、重なる。
鎖に触れる前に――
衝撃が、弾けた。
ガードが、解ける。
その瞬間。
――ドン!
俺の拳が、男の腹に炸裂した。
「……!」
一瞬、静止。
「やった――」
だが。
男は、笑っていた。
「残念ですが」
スーツが裂け、
露わになった腹。
そこには――
鎖が、肉体に巻き付いていた。
「……最初からかよ」
吉沢が、目を細める。
「全身、鎧代わりってわけだ」
「ですが」
男は、楽しそうに言った。
「当たったのも、事実」
指を立てる。
「なので」
「ヒントを差し上げましょう」
男の声が、低くなる。
「四つの罪の一つ――」
「強欲について」
語りが、始まった。
「ある人間がいました」
「何不自由ない生活を送っていた」
「ですが」
「外を見たい、という欲が芽生えた」
鎖が、ぎしりと鳴る。
「外は、美しかった」
「金を使えば、人は思うままに動いた」
「人間は、感動した」
「狭い世界では、弱者だったから」
声が、冷える。
「だが」
「この人間の罪は、そこからです」
「欲をかき」
「神聖なる血統を、汚した」
「他人の犠牲で生まれた芽を」
「自分の肉体に、埋め込んだ」
男は、吐き捨てる。
「――愚かな人間だ」
沈黙。
「これが、ヒント」
男は、鎖を解いた。
「この襲撃は」
「ここだけじゃありません」
「各地で、同時に起きている」
微笑む。
「私たちに攻撃を当てられれば」
「こうして、ヒントを渡す」
一歩、闇へ下がる。
「さあ」
「疑うといい」
「――仲間をね」
闇が、男を飲み込んだ。
静寂。
俺は、息を整えながら吉沢を見る。
「……どういうことだ」
だが。
吉沢は、答えなかった。
視線は虚ろで、
完全に思考の奥へ沈んでいる。
「……やってくれるじゃないか」
ぽつりと、漏らした。
俺は、拳を握った。
今は、まだ分からない。
だが――
確実に、疑いの目が強まる