想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第56話 深まる「想い」

 襲撃から、一夜が明けた。

 

 夜明けの光が、控室の床に細く差し込んでいる。

 だが、空気は重いままだった。

 

 吉沢は、椅子に腰かけたまま動かない。

 肘を膝に置き、指先を組み、視線は床。

 

 考え込んでいる、というより――

 沈んでいる。

 

 ――コンコン。

 

 ノックの音。

 

「失礼します」

 

 扉が開き、天舞優華が顔を出した。

 

「……皆さん、大丈夫ですか」

 

 俺は立ち上がる。

 

「優華、そっちは?」

 

「医療室で、昨夜の襲撃の対応をしていました」

 

 少しだけ、声が低い。

 

「怪我人は?」

 

「瑠偉と一緒に、なんとか退けました」

「命に別状のある人はいません」

 

 だが、と続ける。

 

「戦闘のたびに、負傷者は増えています」

「このままだと……医療室が持ちません」

 

 沈黙が落ちた。

 

 吉沢が、ようやく顔を上げる。

 

「……僕たちは、敵からヒントを一つもらった」

 

 優華が、視線を向ける。

 

「強欲についてだ」

 

 昨夜の出来事を、簡潔に話す。

 

 鎖の男。

 語られた寓話。

 “愚かな男”の話。

 

 話し終えると、吉沢は問いかけた。

 

「……誰か、思い当たる?」

 

 俺は腕を組む。

 

「鳴海壮吾《なるみそうご》か」

「楽座荒邦《らくざあらくに》、あたりじゃないか」

 

 優華は、少し間を置いて頷いた。

 

「私も……楽座荒邦が怪しいと思います」

「彼に関しては、あまり良い噂を聞きません」

 

「やっぱり、そうだよねぇ」

 

 吉沢は苦笑する。

 

「でも」

「分かったところで、意味がない」

 

 指先で、机を叩く。

 

「“自覚”しないと、鍵は出ない」

「本人に言っても、逆効果だろうし」

 

 ため息。

 

「……もし本当なら」

「一番、厄介な相手だ」

 

 その言葉に、優華が続けた。

 

「……私たちも、ヒントを受けました」

 

 二人が顔を上げる。

 

「嫉妬の罪、です」

 

 優華は、静かに語り始めた。

 

「ある人間がいました」

「彼には、友がいた」

 

 声に、抑揚はない。

 

「最初は、互いに切磋琢磨していた」

「ですが、ある時から……差が生まれた」

 

 俺は、無言で聞く。

 

「友は、莫大な才能を持っていた」

「やがて、黒等級になり」

「当主にまで上り詰めた」

 

「一方で」

「彼自身は、成長の限界にぶつかった」

 

 小さく、息を吸う。

 

「さらに」

「家の中にも、才能を持つ者が現れた」

 

 声が、わずかに沈む。

 

「その想いは、少しずつ」

「嫉妬から、憎しみに変わっていった」

 

 沈黙。

 

「ある事件で」

「友は、行方不明になりました」

 

「最初は、心配していた」

「でも……どこかで」

 

 一拍。

 

「安堵している自分が、いた」

 

 吉沢の目が、細くなる。

 

「ですが」

「平穏は、長く続かなかった」

 

「今度は、その友の“弟”が」

「めきめきと力をつけた」

 

「御前試合で」

「年下の彼に、完膚なきまでに叩き潰された」

 

 優華は、最後に言った。

 

「この人間の罪は」

「積み重なった嫉妬が」

「神聖な結界を、汚してしまったこと」

 

 静寂。

 

 俺が、ゆっくり言う。

 

「……その話」

「心当たり、ある気がするな」

 

「だよね」

 

 吉沢が頷く。

 

「でも」

「これもまた……」

 

 机に肘をつく。

 

「自覚させるのは、相当難しい」

 

 俺が、眉をひそめる。

 

「残りは……」

 

「傲慢と、怠惰」

 

 吉沢が答える。

 

「対応するのは」

「烈と……優華さん、かな」

 

 俺は、優華さんを見る。

 

「優華さん」

「本当に、自分のことは分からないのか?」

 

 優華は、首を横に振った。

 

「分かりません」

 

 迷いはない。

 

「そもそも」

「彼らの語る話が、真実かどうかも不明です」

 

「このゲーム自体が」

「嘘である可能性もあります」

 

「ですから」

「ここは、黒等級の方々に……」

 

 言いかけて、止まる。

 

 吉沢の視線が、

 ――眼帯の奥から、鋭く突き刺さっていた。

 

 優華は、何も言わない。

 

 少しの沈黙のあと。

 

「……難しそうだね」

 

 吉沢が、立ち上がった。

 

「一旦、僕と大地で」

「あたりを見回ってくるよ」

 

「行こう」

 

 控室を出る。

 

 通路を歩きながら、俺が言った。

 

「……優華さん」

「何か、隠してるのか?」

 

 吉沢は、苦笑した。

 

「彼女はね」

「罪を、理解してる」

 

「でも」

「自覚したくないんだ」

 

「……え?」

 

 俺は、足を止めた。

 

「やつらに選ばれた人間は、皆そうだよ」

「分かってる。でも言えない」

 

「自覚するってことは」

「罪を、世に晒すってことだからね」

 

 俺は、黙った。

 

「どれも」

「世を動かしかねない罪なんだろう」

 

 しばらく歩いてから、大地が聞く。

 

「……どこ行くんだ?」

 

 吉沢は、前を向いたまま言った。

 

「想界師の基本」

 

 足を止めない。

 

「――聞き取り調査さ」

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