想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第57話 集まっていく「想い」

 それから、吉沢と俺は動いた。

 

 派手には動かない。

 誰かを問い詰めることもしない。

 

 ただ、

 聞いた。

 

 控室。

 通路。

 医療室の隅。

 結界の縁。

 

 想界師同士の、何気ない会話。

 噂話。

 吐き捨てられる愚痴。

 

 断片が、少しずつ集まっていく。

 

 天舞家は、怪物を抱えている。

 

 夕陽町の事件。

 公式記録には残らない、不可解な被害。

 「あれは天舞家が関わっている」という声。

 

 ――だが、証拠はない。

 

 鳴海家の烈は、制御が利かない。

 

 命令に従わなかった部下が、

 次の日、医療室に運び込まれた。

 

 致命傷ではない。

 だが、二度と前線に立てないほどの傷。

 

 「やりすぎだ」という声と、

 「黒等級候補なら当然だ」という声。

 

 鳴海壮吾は、勝ちに固執していた。

 

 今回の御前試合。

 裏で、楽座荒邦と接触していたという話。

 

 条件。

 見返り。

 具体的な中身は、誰も知らない。

 

 だが――

 取引は、確実にあった。

 

 楽座荒邦は、追い詰められている。

 

 楽座家の次期当主争い。

 

 落葉松は辞退。

 残るのは、伊織か荒邦。

 

 だが、国重は荒邦を認めていない。

 

 このままいけば、

 伊織が当主になる可能性が高い。

 

 荒邦が勝つ道は、限られている。

 

 黒等級。

 それ以外に、逆転の手はない。

 

 だから――

 荒邦は、調べていた。

 

 古い結界。

 秘伝の力。

 金で買える“異物”。

 

 

 夜。

 

 控室に戻ると、

 吉沢は椅子に深く腰を下ろした。

 

「……だいたい」

「構造は掴めたね」

 

 俺は、壁にもたれて腕を組む。

 

「で?」

「ここから、どうするんだ」

 

「そこが問題なんだよねぇ」

 

 吉沢は、天井を見る。

 

「答えは見えてきてる」

「でも、言わせなきゃ意味がない」

 

「自覚、か」

 

「そう」

「しかも、本人の口から」

 

 小さく笑う。

 

「なにか」

「いい“きっかけ”が欲しい」

 

 その時だった。

 

 ――悲鳴。

 

 昼間とは違う。

 短く、切羽詰まった声。

 

「……っ!」

 

 俺たちは、同時に立ち上がった。

 

 医療室。

 

 扉の向こうで、

 重い衝撃音が響いている。

 

 中へ踏み込んだ瞬間――

 

「……来たか」

 

 見覚えのある、大男が立っていた。

 

 拳が太い。

 体躯が異常だ。

 

 優華が前に出ている。

 その背後で、優華の影兵士たちが――

 

 一瞬で、なぎ倒されていた。

 

「下がれ!」

 

 俺は、反射的に拳を突き出す。

 

「――フィストガン!」

 

 衝撃が、男に向かう。

 

 だが。

 

 男は、こちらを見て笑った。

 

「……あぁ?」

 

 振り返った顔を見た瞬間、

 胸の奥が冷えた。

 

(……こいつ)

 

 転神町。

 

 あの時、

 俺を、何もさせずに叩き潰した――

 

「お前……」

「転神町にいた男だな」

 

「あぁん?」

 

 男が、首を鳴らす。

 

「なんだ」

「生きてたのか、あの時のガキ」

 

 視線が、俺と吉沢を往復する。

 

「いい役をくれるじゃねぇか」

「強いのが二人も揃ってる」

 

 想力が、膨れ上がる。

 

「あいつ、かなり強いよ」

 

 俺は歯を食いしばる。

 

「分かってる」

 

 吉沢と、並ぶ。

 

「今度は一人じゃない」

「二人だ」

 

「関係ねぇな」

 

 男は、にやりと笑った。

 

「全部壊しちまえば、同じだ」

 

 踏み込む。

 

 拳が来る。

 

 避ける。

 攻撃する。

 

 だが――

 

「教えてやる」

 

 男が、叫ぶ。

 

「俺の力はな」

「受けたダメージを――」

 

 一瞬、空気が歪む。

 

「――別の場所に、転位する!」

 

 「ドライブシンバル!」

 

 次の瞬間。

 

 ――ドン!!

 

 俺と吉沢、二人まとめて吹き飛ばされた。

 

 壁に叩きつけられる。

 

「ぐっ……!」

 

「ははっ!」

「もっと来いよ!」

 

 男は、両腕を広げる。

 

「攻撃しろ」

「すればするほど、俺は強くなる!」

 

 息が、詰まる。

 

(くそ……)

 

 吉沢が、歯を噛みしめる。

 

「やつをやりきれないと」

「その分、全部……返ってくる」

 

 行き詰まり。

 

 半端な攻撃は、できない。

 

 その時。

 

「……そっちが来ないなら」

 

 俺は、男の向こうを見る。

 

 ――医療用ベッド。

 

 眠る、負傷者。

 

「攻撃しなきゃいけない状況に」

「すれば、いいんだろ」

 

 男が、そちらへ踏み出す。

 

「まずい……!」

 

 距離が、足りない。

 

(間に合わない――)

 

 ――バチッ。

 

 雷が、走った。

 

 ――キィン!

 

 金属音。

 

 刀が、男の拳を弾いた。

 

 男が、後方へ跳ぶ。

 

「……ほう」

 

 低い声。

 

「起きやがったか」

 

 振り返る。

 

 そこに立っていたのは――

 

「眠りを妨げやがって」

 

 刀を肩に担ぎ、

 息を整えながら。

 

「どういう状況だ」

「……大地」

 

 号だった。

 

 答えは、もう近い。

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