想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
号は、刀を構えたまま一歩前に出る。
「大地」
「状況を話せ」
「闘技場が、乗っ取られてる」
「ファズエットの襲撃だ」
「十分だ」
号は、それ以上聞かなかった。
三人で、男を囲む。
だが――強い。
受けた衝撃を、別の場所へ逃がす。
殴れば殴るほど、こちらに返ってくる。
「どうした?」
「もっと来いよ」
男は笑う。
「攻撃しろ」
「そうすりゃ、俺はもっと強くなる」
次の瞬間。
号の動きが、止まった。
「……っ」
裂けた傷が開き、膝をつく。
男の拳が、迷いなく振り下ろされ――
――ガァン!!
炎を纏った狼の腕が、それを弾いた。
「……誰だ」
低く、苛立った声。
「俺様の眠りを」
「妨げる馬鹿は」
炎の向こうに、赤い瞳。
「……烈」
眠れる狼が、目を覚ました。
「なんでだ」
号が、息を整えながら問う。
「なんで、俺を守った」
烈は、鼻で笑った。
「勝ち越されちゃ」
「困るだろうが」
そう言って、手を差し出す。
一瞬の沈黙。
「……あんたらしい」
号は、その手を取った。
二人が並ぶ。
呼吸が、合う。
斬撃と業火が、男を押し返す。
「どうしてだ……!」
男の声が、歪む。
「そいつは!」
「お前を苦しめてきた張本人だろ!」
「罪を」
「持ってるんだぞ!」
号は、踏み込みながら答えた。
「だから、なんだ」
雷が走る。
「確かに」
「復讐したかった」
「でも」
「向き合って分かった」
一太刀。
「兄貴は」
「鳴海って名前に」
「縛られてただけだ」
烈の動きが、一瞬止まる。
「俺もだ」
号は続ける。
「荒木さんや」
「みんなに会うまでは」
「名に縛られてた」
視線を向ける。
「兄貴は」
「孤独だった」
「俺は」
「救われた」
一歩、前へ。
「だから今度は」
「俺が、兄貴を救う」
烈は、思わず号を見た。
戦闘中だということを、忘れて。
号は、納刀する。
「――紫電纏雷」
静かな声。
「抜刀・残月《ざんげつ》」
一閃。
「ぐぁあっ!」
男が、後ずさる。
「……後悔するぞ」
吐き捨てるように言い残し、
闇の中へ溶ける。
残ったのは、静寂。
そして――
「……すまなかった」
烈が、低く言った。
「俺は」
「自分の正しさを壊されるのが」
「怖かった」
視線を落とす。
「お前が生まれるまでは」
「俺が一番で」
「俺が正しいと」
「周りに言われてきた」
拳が、震える。
「だが」
「お前が強くなって」
「俺を超えた時」
「お前が正しくて」
「俺が、間違いだと」
「言われ始めた」
歯を食いしばる。
「それが」
「許せなかった」
「俺は」
「自分の正しさを証明する手段を」
「暴力しか、持っていなかった」
「お前を」
「叩き潰して」
「間違ってるって」
「仕向けた」
沈黙。
「……今更」
「許されないことは分かってる」
烈は、号を見る。
「だが、御前試合の」
「最後のお前の一撃で」
「昔」
「純粋に」
「兄弟で高め合ってた日々を」
「思い出した」
深く、頭を下げた。
「……謝る」
「俺は、傲慢だった」
「その傲慢さで」
「お前を含む大勢を」
「受け入れられなかった」
号は、しばらく黙っていた。
そして。
「確かに」
「兄貴のしたことは」
「許されない」
一歩、近づく。
「でも」
「俺は、許す」
微かに、笑う。
「昔の」
「憧れの兄貴に」
「戻ってくれたことが」
「一番、嬉しい」
「償いは」
「一緒にやろう」
「今度は」
「俺も、ついてる」
烈の目から、涙が落ちた。
「……っ」
声にならない。
二人は、抱き合った。
長きにわたる因縁は、
涙と共に流された。
その時。
烈の胸が、淡く光る。
光は集まり、
心臓の位置から、手のひらへ。
そこに残ったのは――
小さな、鍵。
静かに。
だが確かに。
二人を祝福するように、輝いていた。