想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第59話 偽りの「想い」

 静寂が、まだ場に残っていた。

 

 烈の手に現れた鍵は、淡く光り続けている。

 

「……なるほどな」

 

 号が、顎に手を当てる。

 

「寝てる間に、そんなことが起きてたのか」

 

「この鍵が」

「脱出に必要なアイテムってわけか」

 

 烈は、鍵を見つめたまま呟いた。

 

「なるほど……」

「さっきの自白が条件というわけか」

 

 吉沢が、静かに続ける。

 

「これで、一つ」

 

「残りは三つだね」

 

 指を折る。

 

「強欲――楽座荒邦《らくざあらくに》」

「嫉妬――鳴海壮吾《なるみそうご》」

「そして……」

 

 視線が、自然と集まる。

 

「怠惰」

「天舞優華《てんまいゆうか》、君だ」

 

「……っ」

 

 優華の肩が、小さく跳ねた。

 

「わ、私は……」

 

 言葉が、続かない。

 

 その時。

 

「――それ以上は、俺が話そう」

 

 明るさを欠いた声が、割って入った。

 

 全員が振り向く。

 

 そこにいたのは――

 試合で重傷を負い、眠っていたはずの男。

 

「……翔?」

 

 優華の肩に、そっと手が置かれる。

 

 天歌翔は、ゆっくりと前に出た。

 

「すまない、お嬢様」

「俺がいたのに」

「あなたに、ここまで背負わせてしまった」

 

「どういうことだ?」

 

 大地が問う。

 

「さっき、俺も襲われた」

 

 翔は、淡々と語る。

 

「瑠偉が応戦した」

「その想力で、目が覚めた」

 

「そして、敵は語った」

「怠惰の罪について、だ」

 

 場が、静まる。

 

「まず」

「天舞家の話をしよう」

 

 翔は、過去を語り始めた。

 

 天舞家の役目。

 始点と想界師を、裏から守る一族。

 

 そして――

 かつて、生まれた“怪物”。

 

 生まれながらに、圧倒的な力を持つ女性。

 

 触れれば壊れる。

 拒めば、滅びる。

 

 だが、彼女に手を伸ばした男がいた。

 

 荒木燈真。

 

 拒絶されても、追いかけた。

 恐れず、向き合った。

 

 彼は、愛を教えた。

 力の使い方を教えた。

 

 怪物は、女性になった。

 

 だが――

 

 人想戦争。

 

 世界を救い、

 彼は、行方不明になった。

 

 再び、彼女は暴れた。

 

 だが、やがて落ち着き――

 黒等級、天舞愛華となる。

 

「……なぜ、この話をしたか」

 

 翔は、優華を見る。

 

「俺たちは」

「今も、彼女の判断一つで生きている」

 

「だから」

「二度と怪物を生まないために」

 

「お嬢様を」

「徹底的に教育した」

 

「……それだけじゃない」

 

 声が、わずかに沈む。

 

「愛華様との接触を」

「禁じた」

 

 優華は、俯いた。

 

 だが。

 

「それでも」

「お嬢様は、出会ってしまった」

 

 友達のように、過ごした日々。

 

 だが、父の激怒。

 

 二度と会うな、という命。

 

 その時――

 優華は、口にしてしまった。

 

「怪物に、そそのかされた」

 

 裏切りの言葉。

 

 それ以来。

 後悔と共に、生きている。

 

 翔の話が、止まる。

 

「……それが」

「優華の、怠惰の罪か?」

 

 吉沢が、静かに聞いた。

 

「違います」

 

 優華が、顔を上げた。

 

「それは」

「偽りの罪です」

 

「そんな話で」

「終わらせるわけにはいかない」

 

 震える声。

 

「……本当の罪は」

「私自身が、分かっています」

 

「お嬢様……」

 

「もう、いいです」

 

 優華は、翔を制した。

 

「怠惰は」

「後悔じゃない」

 

「選ばなかったことです」

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