想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第61話 告白する「想い」

 また、夜が明けた。

 

 だが、光は救いにはならなかった。

 想力を使い果たした観客が、次々と倒れていく。

 呼吸の浅い者、意識を失う者。

 闘技場は、静かな限界を迎えていた。

 

 残る鍵は二つ。

 強欲と嫉妬。

 

 どちらも、自ら罪を認めるとは思えない相手だ。

 

 そのときだった。

 

「――大変だ!」

 

 鳴海優真《なるみゆうま》が、血相を変えて駆け込んでくる。

 

「荒邦が……乱心した。

 壮吾を、刺した」

 

 一瞬、理解が追いつかなかった。

 だが次の瞬間、身体が動いていた。

 

 俺たちは走った。

 

 扉を開けた瞬間、血の匂いが鼻を刺す。

 

 床に倒れる壮吾。

 胸元には、深く突き立てられた刀。

 血が、静かに広がっていた。

 

「……なぜだ」

 

 声が、震える。

 

「なぜ荒邦が、お前を――」

 

 問いに答えたのは、そばにいた楽座落葉松《らくざからまつ》だった。

 

「昨日、私たちは襲撃を受けた。

 そして撃退した」

 

 淡々と、事実だけを語る。

 

「そのとき、スーツの男は言ったよ。

 “鍵は、二つそろった。次は君たちだ”と」

 

 どちらが先に暴かれるのか。

 そう言い残して、男は去った。

 

 その場では、これ以上の情報は得られなかった。

 やむなく、いったん解散。

 

 ――そして今朝。

 

 荒邦の部屋で、二人が言い争っていたという。

 

 結界がどうだ、ビジネスがどうだ。

 詳しい内容は分からない。

 

 だが、結果はこれだ。

 

 「……ふは……は」

 

 かすれた笑い声。

 

 壮吾が、口を開いた。

 

「天罰が……」

「下ったのさ……」

 

「喋るな!」

「それ以上話したら――」

 

「……いいんだ」

 

 荒い呼吸のまま、壮吾は続けた。

 

「私は……」

「荒木家が、嫌いだった」

 

 皆が、息を呑む。

 

「もともと」

「荒木燈真《あらきとうま》は……私の友だった」

 

「だが」

「彼は、私を置いて」

「どんどん、先へ行った」

 

 目を、閉じる。

 

「私は……」

「ずっと、嫉妬していた」

 

「そして」

「人想戦争で」

「彼が行方不明になった」

 

 唇が、歪む。

 

「……正直」

「嬉しかったよ」

 

「これで」

「この苦しさから」

「逃げられると思った」

 

 息が、乱れる。

 

「だが」

「荒木家は……」

「私を、再び苦しめた」

 

 視線が、震える。

 

「弟の……相馬」

「御前試合で」

「私を、完膚なきまでに叩き潰した」

 

「……嫉妬は」

「終わらなかった」

 

「私に」

「ずっと、付きまとった」

 

 血を、吐く。

 

「だから……」

「楽座荒邦《らくざあらくに》と、手を組んだ」

 

「結界を、弄り」

「想力吸収量を、増やした」

 

「勝つためなら」

「悪魔とでも、契約するつもりだった」

 

 かすかに、笑う。

 

「……だが」

「本当に、悪魔みたいな男と」

「契約してしまったようだ」

 

 壮吾は、震える手を伸ばした。

 

「……これが」

「私の、罪だ」

 

 その瞬間。

 

 淡い光が、彼の胸元に灯る。

 

 光は、揺らぎながら――

 手のひらへと移動する。

 

 そこに残ったのは。

 

 消え入りそうな、鍵。

 

「……持っていけ」

 

 壮吾は、苦しそうに笑う。

 

「これで……」

「荒邦の、一人勝ちは」

「防げるだろう……」

 

「やつは……」

「闘技場に、いる……」

 

 ――ごほっ。

 

 血が、床に落ちた。

 

 誰も、言葉を発せずにいた。

 

 その前に。

 

 吉沢が、ゆっくりと歩み出た。

 

「……仕返し、か?」

 

 静かな声。

 

「……ああ」

「仕返しさ」

 

 吉沢は、続けた。

 

「僕も」

「君と、同じだった」

 

「僕と荒木は」

「同期だった」

 

「二人で、任務に行き」

「二人で、戦った」

 

「だが」

「兄である燈真が行方不明になってから」

「荒木は、強さを求めた」

 

「今じゃ」

「最強だろうね」

 

 一拍。

 

「僕は」

「一人、取り残された」

 

「任務は、彼一人」

「黒等級と、同じ世界には」

「立てなかった」

 

「僕は」

「止まった時間を、生きていた」

 

 目を、伏せる。

 

「……嫉妬していたさ」

 

「でも」

「大地と出会って」

「分かった」

 

 視線を上げる。

 

「荒木は」

「僕を、置いていったわけじゃない」

 

「彼は」

「兄を失って」

「孤独だった」

 

「だから」

「今度は、僕が」

「その孤独を、癒す」

 

 拳を、握る。

 

「一人じゃ」

「届かない手も」

 

「みんなで掴めば」

「届くかもしれない」

 

 壮吾の目が、揺れた。

 

「……分かっていたさ」

 

 かすれた声。

 

「燈真は」

「昔から、変わらない」

 

「まっすぐで」

「馬鹿正直な男だ」

 

 小さく、息を吐く。

 

「……すまない」

「燈真」

 

「私は」

「君を、信じ切れなかった」

 

「だが、今なら……」

「分かる」

 

「君は……」

「私の、友だった」

 

 その言葉を最後に。

 

 壮吾の身体から、力が抜けた。

 

 吉沢は、拳を強く握った。

 

「……行こう」

 

「彼を殺した」

「荒邦を、止めなければならない」

 

 俺たちは、走り出す。

 

 闘技場へ。

 

 そこには。

 

 中央に立つ、荒邦の姿があった。

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