想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
「……馬鹿な」
荒邦は、血を吐きながら呟いた。
「この俺が」
「負ける……?」
足元が、崩れる。
「嫌や」
「俺が……俺が死ぬなんて……」
俺は、一歩前に出た。
「もう諦めろ」
「罪を、認めろ」
「誰が認めるか!!」
荒邦は、叫んだ。
「俺が鍵を渡さなければ」
「この結界は解けへん!」
「想力の少ないやつらは」
「どのみち、ここで死ぬんや!」
その瞬間。
――拍手の音。
ぱち、ぱち、ぱち。
闇の中から、
黒いスーツの男が姿を現した。
「ブラボー」
芝居がかった声。
「実に見事です」
「このゲームを、もっとも“最善のルート”で進めました」
視線が、俺たちをなぞる。
「戯眼まで破壊されるとは」
「正直、完敗ですよ」
肩をすくめる。
「仲違いで全滅」
「――そこまで行けると思ったのですがね」
「助けろ!!」
荒邦が、男に縋る。
「まだ金はある!」
「手を組もう!」
「当主の座も」
「全部、やる!!」
次の瞬間。
――鎖が、荒邦に絡みついた。
「な……っ」
「やめ……」
鎖が、締まる。
「ああああああああ!!」
荒邦の身体が、
目に見えて“痩せ細って”いく。
まるで、
存在そのものを吸われるように。
「強欲であるあなたの罰は」
男は、淡々と告げた。
「――すべてを失い」
「みじめに、死ぬことです」
荒邦は、
何も残さず、消えた。
沈黙。
「……お見苦しいものを」
「見せてしまいましたね」
男の手の中に、
最後の鍵が現れる。
黒く染まった、鍵。
「強欲の罪を克服した」
「報酬です」
男は、それを俺に投げた。
受け取る。
重い。
――そして。
指を鳴らす音。
パチン。
結界が、解けた。
想力を吸っていた感覚が、消える。
「ゲームクリア」
男は、両手を広げる。
「実に楽しかった」
「感動して、涙が出そうです」
わざとらしく、目を拭う。
「……もっとも」
「愚かなあなた方に、ですが」
空気が、張り詰める。
「宣告しましょう」
男は、笑った。
「我々――歪音十三奏《ファズエット》は」
「あなた方の守る“腐った秩序”を破壊します」
「今から二か月後」
「10月31日」
「秩序の象徴」
「――想界石を、奪う」
「……なに」
誰かが、息を呑んだ。
「次に会うときは」
「存分に殺し合いましょう」
男は、闇へ溶けた。
どうやら――
俺たちの戦いは、
まだ始まったばかりらしい。
一方、その頃――
日本全土に湧いた黒等級想獣は、
すでに壊滅していた。
会議室。
「……まだか、国重」
荒木が、苛立ちを隠さず言う。
「明日には解除できる」
「明日じゃ遅いかもしれん!」
「限界がある」
「落ち着け」
国重が言う。
荒木は、壁を殴った。
――翌朝。
「荒木がいない?」
国重が問う。
「我慢できなかったみたいね」
天舞愛華が、肩をすくめる。
「結界を壊しに行ったわ」
「刺激するなと言ったはずだ……!」
国重は、追いかけた。
闘技場。
荒木相馬《あらきそうま》が、辿り着く。
「……もう、限界だ」
刀を抜こうとした瞬間。
「やっぱり来ちゃうんだ」
ノイズが、現れた。
「どけ」
「殺す」
「怖い怖い」
ノイズは、笑う。
「今、ゲームは最高潮だ」
「邪魔するのは、無粋じゃない?」
「関係ない!」
荒木が、踏み込む。
その瞬間。
ノイズの目が、
深淵のような闇に変わった。
――記憶が、引きずり出される。
『兄貴、行かないでくれ』
『兄貴がいないと、俺は――』
『ごめん、相馬』
『あとは、頼む』
狭間に飲み込まれる兄。
「ぐぁああああ!!」
荒木は、頭を抱える。
だが。
立ち上がった。
「……たしかに」
「死ぬほど、つらい」
刀を、握る。
「でも」
「俺は、前を向いて生きてる」
「俺は」
「兄貴に縛られてない」
「――俺は、俺だ!!」
刀が、振るわれる。
「……化け物め」
ノイズの回避が、遅れる。
だが――
別の刀が、防いだ。
「誰だ」
「私は」
「歪音十三奏《ファズエット》・十三人目」
「カデンだ」
「悪いが」
「名前を覚えるのは苦手だ」
荒木が、斬りかかる。
「恐ろしい男だ」
「式想も使えず、ここまでとは」
「式想なんて関係ない」
「俺は」
「最強だ」
その瞬間。
――結界が、割れた。
パリン。
「……時間切れか」
国重が、追いつく。
「ここで終わりだ」
「結界を張る」
だが。
カデンは、笑った。
「宣言する」
「10月31日」
「想界石を奪う」
手を上げる。
――国重の結界が、砕けた。
「馬鹿な……」
「秘伝の結界だぞ……!」
「それじゃ」
「また会おう」
闇へ、消える。
「……結界もまともにできないのか」
荒木が、呟く。
「使えていた」
「――奴らが、なぜか壊せるだけだ」
国重は、早口だった。
「いい」
「闘技場へ急ぐ」
「……随分やられたな」
荒木は、地面に座り込む。
「……さすがに」
「応えるぜ、兄貴」
その呟きは、
誰にも聞こえなかった。