想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第65話 開かれる「想い」

 その後、観客は全員救出された。

 

 想力を吸われ、危険な状態に陥っていた者も少なくなかったが、

 結界が正常に戻ったことで、皮肉にも――

 

「……闘技場の中のほうが、回復が早いな」

 

 医療班の一人が、苦笑い混じりに呟いた。

 

 誰もが同じ気持ちだったのだろう。

 重い空気の中で、思わず小さな笑いが漏れる。

 

 だが。

 

 すべてが、元通りになったわけではない。

 

 鳴海壮吾は、死んだ。

 楽座荒邦も、死んだ。

 

 黒等級の面々には、闘技場内部で起きたすべてを報告した。

 だが――

 

「……公表は、できん」

 

 楽座国重《らくざくにしげ》は、静かにそう判断した。

 

「真実を明かせば、想界師社会は混乱する」

「今は……耐える時だ」

 

 その代わりに。

 

 荒邦と壮吾の死を“利用する”形で、

 10月31日に来るファズエットへの御生万防衛作戦が発動された。

 

 そして。

 

「いいか、お前ら」

 

 荒木が、前に出る。

 

「二か月後」

「奴らは、必ず攻めてくる」

 

「御生万が落とされたら」

「――俺たちは終わりだ」

 

 一拍。

 

「よって」

「今から二か月間」

 

「始点合同・大修行を開始する!」

 

 声が、響いた。

 

「黒等級四人が」

「みっちり、鍛え上げてやるぜ」

 

 ――やけに嬉しそうな顔で。

 

 その姿を見て、

 嫌な予感を覚えた者は、少なくなかった。

 

 一方、その頃。

 

 天舞優華は、一つの扉の前に立っていた。

 

 ――数年ぶりに。

 自分の意志で、開く扉。

 

 ゆっくりと、手を伸ばす。

 

 ドアが、開いた。

 

「……あら?」

 

 柔らかな声。

 

「優華が来るなんて」

「久しぶりじゃない」

 

 そこには、

 くつろいだ様子の天舞愛華がいた。

 

「ほら」

「あなたが好きだったお菓子、あるわよ」

 

 あの時と、変わらない。

 

 優華は、胸が詰まるのを感じた。

 

 涙が溢れそうになるのを、必死に堪えながら――口を開く。

 

「……私は」

 

「友達でありながら」

「あなたを、裏切りました」

 

「あなたのせいにした」

「夕陽町でも」

 

 声が、震える。

 

「決められない私の代わりに」

「あなたが、すべてを背負った」

 

「……今さら遅いと分かっています」

 

 深く、頭を下げる。

 

「それでも」

「謝らせてください」

 

「……ごめんなさい」

 

 一瞬の沈黙。

 

 次の瞬間。

 

 愛華は、優華を抱きしめた。

 

「私はね」

 

 静かな声。

 

「あの人がいなくなって」

「ずっと、孤独だった」

 

「でも」

「その孤独を癒してくれたのは」

 

「あなたよ、優華」

 

 優しく、頭を撫でる。

 

「それに」

「あなたのことは、全部知ってるわ」

 

「友達なんだから」

「当然でしょ」

 

 微笑む。

 

「私を」

「いくらでも利用していい」

 

「あなたが」

「無事でいてくれるなら」

 

 優華の目から、涙がこぼれた。

 

「……また」

「友達で、いてくれますか」

 

 愛華は、少し驚いた顔をしてから、笑った。

 

「私は」

「ずっと友達だと思ってたわ」

 

「……あなたは、違ったの?」

 

 優華は、首を振る。

 

「私も」

「ずっと、そう思っていました」

 

「でも」

「罪悪感で、言えなかった」

 

 まっすぐ、愛華を見る。

 

「これからは」

「自分に嘘はつきません」

 

「自分の道は」

「自分で、決めます」

 

 愛華は、嬉しそうに微笑んだ。

 

「じゃあ」

「お菓子でも食べながら」

「ドラマでも見ましょ」

 

「……うん」

 

 二人の姿は、

 あの頃のままだった。

 

 ――別の場所。

 

「申し訳ございません、カデン様」

「私の不手際で、あなたの手を煩わせてしまい……」

 

「いいよいいよ~」

 

 軽い声。

 

「それよりさ」

「今回も、最高に面白かったよね」

 

 カデンは、楽しそうに笑う。

 

「ねえ、ノイズ」

「どんな結末に向かうと思う?」

 

「あー」

「ワクワクが止まらないよ」

 

 その姿を、ノイズは黙って見つめていた。

 

 ――黒い、黒い眼で。

 

 嵐は、まだ終わっていない。

 

 むしろ。

 

 ここからが、本番だった。

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