想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第67話 喰らう「想い」

 なんとか、山を下り切った。

 

 脚は、もう笑わない。

 膝は、曲げるたびに軋んだ。

 

 息を整える間もなく、

 鳴海勝吾が言った。

 

「次は、筋トレじゃ」

 

 視線の先。

 

 ――岩だった。

 

 いや、岩というより、

 山の一部だ。

 

 勝吾はそれを、軽々と持ち上げる。

 

 老人のはずの身体が、

 きしむ気配すらない。

 

 そのまま、腕立てを始めた。

 

「……は?」

 

 声が、勝手に漏れた。

 

 俺も、石に手をかける。

 

 想力で、身体を強化する。

 

 それでも――

 動かない。

 

 歯を食いしばる。

 全身に、無理やり力を集める。

 

 やっと、持ち上がった。

 

 だが。

 それで、鍛える?

 

 正気じゃない。

 

 それでも、やるしかなかった。

 

 号も、翔も、顔を歪めている。

 それでも、手を離さない。

 

「ぐぁっ……!」

 

 花崎が、潰れた。

 

 石の下敷きになり、

 情けない声を上げる。

 

 ……生きてる。

 

 それだけ確認して、

 俺は視線を戻した。

 

 見なかったことにした。

 

 勝吾は、俺たちより速く、

 俺たちより多く、回数をこなしている。

 

 息一つ、乱れない。

 

「次じゃ」

 

 淡々と。

 

「川、泳ぐぞ」

 

 振り向いた先には、激流。

 

 白く泡立つ水。

 音が、耳を殴る。

 

「鯉が竜になるようにのう」

「お前らも、滝を昇れば竜じゃ」

 

 意味は、分からない。

 

 だが、勝吾はもう川に入っていた。

 

 逆流を、当たり前のように登っていく。

 

 ――ありえない。

 

 俺たちも、続く。

 

 全身が、重い。

 

 水に叩かれ、

 身体が流されそうになる。

 

 腕が痺れ、

 脚の感覚が、薄れていく。

 

 意識が、遠のく。

 

 それでも――

 

 滝の前まで、来た。

 

 見上げる。

 

 無理だ。

 どう考えても。

 

 だが。

 

 勝吾は、もう上にいた。

 

 当たり前の顔で、立っている。

 

 ……同じ人間じゃない。

 

 そう、思いたかった。

 

 だが、思い出す。

 

 想界師の基本。

 

 想いを、浮かべろ。

 

 諦めない想いは、

 どんな困難でも、越えられる。

 

 心が負けたら、

 どんな相手にも、勝てない。

 

 ――吉沢の言葉。

 

 俺は、挑んだ。

 

 だが。

 

 登れなかった。

 

 滝に、弾かれる。

 

 上がれたのは、

 烈と、翔だけだった。

 

 花崎は、目の前で流されていく。

 

 号も、途中で力尽きた。

 

 夕方。

 

 全身を引きずるように、屋敷へ戻る。

 

 勝吾が言った。

 

「飯も、修行じゃ」

 

 並べられたのは、

 すべて大盛り。

 

「好きなだけ食え」

 

 その瞬間。

 

 全員、無言で箸を取った。

 

 疲れを忘れて、

 飯に飛びつく。

 

 ――生きてる。

 

 それだけで、十分だった。

 

 これが、一週間続いた。

 

 その先に、

 まだ三人いると考えると、

 正直、気が遠くなる。

 

 だが。

 

 確かに、強くなっている感覚があった。

 

 肉体が刺激され、

 感情が、前よりも大きく揺れる。

 

 きつい。

 

 それでも――

 

 目を閉じた瞬間、

 意識は、落ちていた。

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