想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
「よし」
鳴海勝吾《なるみしょうご》が、腕を組んで俺たちを見渡した。
「お前ら、よう一週間生きてたのう」
にやりと笑う。
「正直、途中で死ぬと思っとったわい」
全員、無言で殺意を抱いた。
「よく考えたらの」
勝吾は顎を掻く。
「わしと同じ鍛え方したら、普通は死ぬんじゃった」
「それ、忘れとったわい」
がははは、と豪快に笑う。
本気で忘れていたらしい。
だが。
「それでもじゃ」
勝吾の声が、少しだけ低くなる。
「たった一週間じゃが」
「ここに来た時より、身体も精神も、見違えたわい」
視線が、俺と号に向く。
「最後の日」
「大地と号、おぬしらも滝を昇り切ったの」
胸の奥が、ぎゅっと締まる。
あの時。
視界が白くなり、
本当に走馬灯が見えかけた。
だが、上り切った瞬間。
――気持ちが、よかった。
生きていると、はっきり思えた。
「一番の驚きはの」
勝吾が、にやりと笑う。
「鼻たれ坊主じゃ」
花崎を見る。
「お前が、昇り切ったことじゃ」
「わし、腰抜かすかと思ったわい」
「えっ、そ、そんな……」
花崎が、耳まで赤くなる。
だが。
俺たちも、同じ気持ちだった。
最終日。
俺と号が昇り切り、
もう夕方になっていた。
その時。
「……もう一回」
花崎が、勝吾に頭を下げた。
「ラストチャンスを、ください」
勝吾は、しばらく黙っていた。
そして。
「行ってこい」
短く、そう言った。
花崎は、挑んだ。
途中で、何度も落ちかけた。
腕が震え、
脚が滑る。
それでも。
――踏ん張った。
最後は、這い上がるように。
昇り切った。
あの瞬間。
全員で、花崎を胴上げした。
泣いた。
なぜか。
勝吾が、誰よりも泣いていた。
「……よし」
勝吾が、鼻をすすりながら言う。
「今のおぬしらなら」
「天舞の修行も、耐えられるじゃろう」
一拍。
「また鍛えたくなったら、いつでも来い」
「歓迎してやる」
終わりが来ると、
修行は、少しだけ寂しかった。
次に向かったのは、
天舞愛華《てんまいあいか》の屋敷だった。
中に入ると。
「……あ」
愛華が、ソファでくつろいでいた。
テレビでは、ドラマが流れている。
「あー、もうこんな時期か~」
「ごめんね」
「ドラマ終わったらやるから、適当に座ってて」
……自由だ。
黒等級は、だいたい自由人らしい。
ドラマが終わる。
愛華が、こちらを見る。
「あれ?」
「なんで君たち、座ってるの?」
一人が答える。
「天舞様に、ここで待てと……」
「あー」
愛華は笑った。
「そういえば、そうだったわね」
妙なデジャブを感じた。
「私の修行はね」
愛華が、立ち上がる。
「そんなに時間、かからないわ」
「諦めない精神を、持ってもらうだけ」
「自分より格上でも」
「不利な状況でも」
「それでも、戦う心」
「それを、養うの」
「こっち」
ついていく。
そこには、広い道場があった。
そして。
愛華が――
感情を、解放した。
黒い。
重い。
憎悪。
憎しみ。
言葉にする前に、体が拒絶する。
黒等級の“本気”。
いきなり浴びせられたそれに、
何人かが泡を吹いて倒れた。
視界が、歪む。
俺は、膝をつく。
号も、同じだった。
だが。
烈と翔は、違った。
苦しそうな顔で、
それでも前に出る。
愛華に、向かっていく。
「へえ」
愛華が、少し驚いた声を出す。
「これで、全員落ちると思ったけど」
「やるじゃない」
そして。
「――ダメ」
小さく、呟く。
次の瞬間。
烈と翔は、吹き飛ばされていた。
「うん」
愛華が、満足そうに頷く。
「私の修行はね」
「これに耐えて」
「私に触れること」
一拍。
「……あれ?」
「ほとんど、聞いてないか」
そう言って、くるりと背を向ける。
「じゃあ」
「立ってる君たち」
「説明、よろしくね」
自室へ、戻っていった。
邪気が、消える。
その瞬間。
顔から、滝のように汗が流れ落ちた。
……これは。
また、きつそうだ。
そう思いながら。
天舞愛華の修行が、始まった。