想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
闘技場へ向かう道を、
一人で歩いていた。
足音だけが、やけに響く。
「あ、吉沢《よしざわ》さん」
声をかけられ、立ち止まる。
「今日は、どんなご用事で?」
警備の若い職員だった。
「少しね」
笑って答える。
「調査をしようと思って」
「調査、ですか?」
職員は首を傾げた。
「闘技場については、もう楽座家が――」
「分かってる」
遮るように言う。
「でもさ」
少し間を置く。
「僕、気になると我慢できない性分でね」
「中、少し見せてもらってもいいかな」
一瞬、迷った顔。
それから。
「……本来はダメなんですが」
「吉沢さんなら、信頼できます」
「どうぞ」
「ありがとう」
そう言って、闘技場に足を踏み入れた。
内部は、静まり返っていた。
現在、闘技場は再改造中だ。
楽座家による、全面的な結界再設計。
だが――
調べれば調べるほど、
違和感が積み重なる。
結界の吸収量。
回復量。
想定以上に、自由が利く。
操作性が、高すぎる。
脆弱性を潰すための再設計。
表向きは、そうだ。
だが。
完成してしまえば、
“痕跡”は消える。
証拠も、意図も。
――まずいな。
闘技場で起きた“ゲーム”。
まだ、分からないことが多すぎる。
なぜ、彼らは侵入できた?
なぜ、四人だった?
秩序に近い四人。
確かに、象徴的だ。
だが、それなら――
上層部を狙えばいい。
なぜ、罪を“自覚させる”必要があった?
考えるほど、
疑問が増えていく。
だから。
僕は、独断で調査することにした。
上層部も。
楽座家も。
完全には、信用できない。
荒木さんに頼る手もある。
だが――
彼は、目立ちすぎる。
まずは。
闘技場で解決すべき謎。
誰が。
どうやって。
結界を改造したのか。
結界は、展開されれば出入りできない。
それが、元々の設計だ。
侵入するなら、
観客として入るしかない。
だが、観客なら――
身分は残る。
記録室に向かう。
閲覧ログを、洗う。
……何もない。
不自然なほど、きれいだ。
そもそも、
部外者は、この一帯に入れない。
では。
総会議前日の“祭り”。
屋台。
スタッフ。
一時的な出入り。
そこに紛れ込む。
そして。
結界展開まで、待機。
楽座家が、最終調整に来る。
その瞬間。
楽座家しか通れない結界を解除。
侵入。
操作。
ここまでは、筋が通る。
だが――
問題がある。
楽座家がいなければ、
“出られない”はずだ。
……待て。
結界制御室へ向かう。
扉の前。
僕の権限では、弾かれる。
当然だ。
血統以外は、通れない。
――いや。
思考が、繋がる。
荒邦。
あの男だ。
最後の言葉が、頭をよぎる。
壮吾は、荒邦と契約していた。
決勝戦。
荒木家の想力吸収量だけが、操作されていた。
その操作は。
最終調整“後”に、行われた。
つまり。
荒邦が来ることを、
彼らは知っていた。
だから、出られた。
「……なるほど」
小さく、息を吐く。
なんて、連中だ。
だが。
もう一つ、問題が残る。
どうやって。
荒邦が来ると、事前に分かった?
噂は、あった。
だが、
何をするかまでは、誰も知らなかった。
当日まで。
それを知り得るのは――
内部だ。
近い位置にいる誰か。
……裏切り者。
胸が、重くなる。
身内を、疑いたくはない。
だが。
可能性は、否定できない。
「……くそ」
言葉が、漏れた。
まずは。
鳴海家。
そして、楽座家。
調べるしかない。
そう決めて、
僕は歩き出した。
――真実は、まだ遠い。
だが。
確実に、近づいている。