想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
吉沢は、始点の動きを洗っていた。
誰が。
いつ。
どこで、何をしていたのか。
御前試合当日を軸に、
時系列を一つずつ埋めていく。
そこで――
一人、いない者がいた。
鳴海怜。
想界連合本部へ向かう。
「確認したいことがある」
受付に告げる。
「現在、鳴海怜はどの任務についている?」
端末を操作する職員。
「鳴海怜《なるみれい》様ですね」
「現在は、アメリカでの調査任務に就いています」
「……アメリカ?」
思わず、眉が動いた。
「どうして、海外だ?」
「記録にない黒等級想獣が確認されまして」
「人型で、獅子の姿をしているとの報告です」
――獅子。
血の気が引く。
「……くそ」
あの時。
自爆したように見せて、
逃げたとしか思えない。
完全に、見誤った。
自分の失態に、歯を食いしばる。
だが。
それでも、腑に落ちない。
「……なぜ、彼女が?」
鳴海怜は、
戦闘専門というタイプではない。
疑問を口にすると、
職員は少し困った顔をした。
「ご本人が、そう仰っていまして」
「海外旅行も兼ねて、行くと」
「転神町では、ずいぶん働かされましたから、と」
……何も、言えなかった。
確かに。
彼女は、働いていた。
表でも、裏でも。
吉沢は、連合を出る。
また、振り出しだ。
裏切り者を見つけるのは、
そう簡単ではない。
なら。
彼女が戻るまで、保留。
その間に、別の線を探る。
次の疑問。
なぜ、あの四人だったのか。
始点であること。
それぞれが、罪を抱えていたこと。
だが――
罪など、誰でも持っている。
それだけでは、共通点にならない。
他に、何か。
何か――
思考を巡らせた、その時。
ふと、
天舞優華《てんまいゆうか》の言葉が、脳裏をよぎる。
彼女の罪は、怠惰。
そして。
夕陽町。
あの町で、ウイルスがばら撒かれた。
確か――
あの事件には、上層部も関わっていた。
つまり。
始点全員が、
何らかの形で関与していた可能性。
だが。
夕陽町事件は、秘匿案件。
資料は、吉沢の権限では開けない。
「……くそ」
思わず、悪態が漏れる。
だから、上層部は嫌いだ。
吉沢は、荒木のもとを訪ねた。
「どうした?」
「お前も修行しに来たか?」
「いえ」
首を振る。
「違います」
「じゃあ、何だ」
荒木の視線が鋭くなる。
「……夕陽町について、聞きたいんです」
一瞬。
荒木の表情が、曇った。
「あの事件か」
「俺も、詳しくは知らない」
「最初から、除け者にされてた」
「反対してたからな」
淡々と、語る。
「最初は、楽座家と鳴海家が動いた」
「だが、規模が大きすぎた」
「もう、間に合わなかった」
そこで。
「天舞家に話が行った」
「愛華が、殲滅した」
空気が、重くなる。
「その結果」
「想界石の修正力が、過剰に働いた」
「しばらく、人々に違和感が残った」
「上層部は、黒歴史として秘匿した」
荒木は、そこで言葉を切る。
「俺が知ってるのは、そこまでだ」
一拍。
「……噂だが」
「生き残りがいるって話は、あった」
「真偽は、不明だ」
なるほど。
点が、また一つ繋がる。
「お前が何を調べてるかは聞かない」
荒木が言った。
「だがな」
「この事件は、やべえ匂いがする」
「上層部も、黙ってない」
「深入りすると――」
視線が、鋭くなる。
「戻ってこれない可能性もある」
「気をつけろ」
「……もちろんです」
吉沢は、微笑んだ。
「少し、気になっただけです」
荒木のもとを去る。
だが。
一度、踏み入れた場所から、
簡単に引き返すことはできない。
次の日。
吉沢は、夕陽町へ向かっていた。