想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第73話 心合わせる「想い」

 迷宮は、まだ終わらなかった。

 

 罠を避け、

 長い通路を抜ける。

 

 足音だけが、やけに響く。

 

 やがて――

 先ほどよりも、ひと回り大きな部屋に出た。

 

 重い扉。

 

 開ける。

 

 そこにいたのは――

 甲冑を纏い、槍を持つ人型の想獣だった。

 

「……人型か」

 

 思わず、声が漏れる。

 

「珍しいね」

 

 落葉松《からまつ》が、興味深そうに言った。

 

「さあ、どんな仕掛けかな」

 

 次の瞬間。

 

 想獣の輪郭が、揺らいだ。

 

 ――二体。

 

 分身。

 

「なるほど」

 

 落葉松が、落ち着いた声で呟く。

 

「分身系だ」

 

「俺は右をやる」

 

「じゃあ私は左だ」

 

 刀が、抜かれる。

 

 俺は拳を握り、

 右の想獣へ向かった。

 

 ――速い。

 

 槍が、風を切る。

 

 かわすのが、ギリギリだ。

 

 一歩、遅れれば刺さっていた。

 

 間合いを測り、

 一瞬の隙。

 

「フィストブラスト!」

 

 放つ。

 

 ――当たらない。

 

 いや。

 

 消えた。

 

 次の瞬間。

 

 攻撃は、落葉松側の想獣と入れ替わっていた。

 

「……っ!」

 

「入れ替わりだ」

 

 落葉松が叫ぶ。

 

「攻撃された瞬間、分身と位置を交換している!」

 

「厄介だな」

 

「だが、答えは単純だよ」

 

 目が合う。

 

「同時撃破、だろ?」

 

 落葉松が、笑った。

 

 息を合わせる。

 

 同時に踏み込む。

 

 技を放つ。

 

 二体に、確かに当たった。

 

 ――消えた。

 

「……まずい」

 

 落葉松が、そう言った瞬間。

 

 衝撃。

 

 甲冑の想獣が、背後から現れ、

 落葉松を吹き飛ばした。

 

「落葉松!」

 

 駆け寄る。

 

 地面に膝をついた彼は、息を整えながら言った。

 

「幻影だ」

 

「分身を見せて、油断した瞬間を狙う」

 

「……やられたな」

 

 落葉松は、静かに立ち上がる。

 

「一つ、手がある」

 

「だが、危険だ」

 

 こちらを見る。

 

「それでも、やるかい?」

 

 迷いは、なかった。

 

「――あんたを信じる」

 

 一瞬。

 

 落葉松の目が、わずかに見開かれる。

 

「私を?」

 

 小さく、笑った。

 

「ふふ……」

 

「やはり、君は面白い」

 

「作戦はこうだ」

 

「私が、この空間全体に結界を張る」

 

「本体の気配を感知する」

 

「だが、その間――」

 

「私は、戦えない」

 

「問題ない」

 

 俺は前に出た。

 

「やるのは、俺だ」

 

 想獣が、再び揺れる。

 

 ――分身。

 

 二体。

 

 分かっている。

 

 だが、気づかない“ふり”をする。

 

 わざと、追い詰められる。

 

 槍をかわし、

 間合いを詰める。

 

 技を、溜める。

 

 ――大技を撃つ、ように見せる。

 

 光だけが、走る。

 

 拳の想力は、放たない。

 

 勘違いした。

 

 想獣が、二体同時に消える。

 

「――後ろだ!」

 

 落葉松の声。

 

 振り向く。

 

「フィストブラスト!」

 

 今度は、見せかけじゃない。

 

 拳の衝撃が、

 本体を貫いた。

 

 甲冑が砕け、

 想獣は、霧のように消えた。

 

「……っ!」

 

 思わず、拳を握る。

 

「やったな、落葉松!」

 

「いや」

 

 彼は、首を振った。

 

「君のおかげだ」

 

「違うだろ」

 

 笑う。

 

「二人の力だろ」

 

 落葉松も、笑った。

 

「そうだね」

 

 扉が、開く。

 

 さらに奥へ。

 

 だが。

 

 そこに立っていたのは――

 

「よく来たな、貴様ら」

 

 楽座国重《らくざくにしげ》。

 

 静かに、こちらを見据えていた。

 

「最後の相手は――」

 

「私だ」

 

 空気が、張り詰める。

 

 どうやら。

 

 修行は、

 まだ終わらないらしい。

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