想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第74話 信じ切る「想い」

「この私を、倒してみせろ」

 

 楽座国重の声は、静かだった。

 

 ――無理だ。

 

 黒等級の想界師。

 勝てるわけがない。

 

 そう思った瞬間。

 

 思い出す。

 

 走れ。

 止まるな。

 倒れたら、起きろ。

 

 違う。

 

 諦めちゃいけない。

 

 それに――

 一人じゃない。

 

「……落葉松」

 

 俺は、横を見る。

 

「悪いけど、俺は諦めきれない」

 

「一か八かだ」

 

「戦う」

 

 落葉松は、一瞬だけ目を細め――

 笑った。

 

「ここまで来たんだ」

 

「とことん、付き合おう」

 

 二人、並ぶ。

 

「そうか」

 

 国重が、ゆっくりと構える。

 

「なら――死ぬ気で、かかってこい」

 

 ――ぞわり。

 

 気配。

 

 反射的に跳ぶ。

 

 次の瞬間、

 俺が立っていた空間が、切断されていた。

 

「……っ!」

 

 間もなく、また気配。

 

「チン」

 

 小さな音。

 

 空間が、裂ける。

 

 俺と落葉松は、紙一重でかわす。

 

「気をつけろ!」

 

 落葉松が叫ぶ。

 

「お父様の力は――」

 

「触れている空間に、ヒビを入れる!」

 

「当たれば、一発だ!」

 

 分かっていた。

 

 だが。

 

 黒等級は、次元が違う。

 

 空間が、壊れる。

 切断される。

 

 近づけない。

 

「ここだ!」

 

 俺は、フィストブラストを放つ。

 

 だが。

 

 空間にヒビが入り、

 拳の衝撃は、飲み込まれた。

 

 その時。

 

 落葉松が、体勢を崩す。

 

 ――まずい。

 

 攻撃が、飛ぶ。

 

 当たれば、終わりだ。

 

 考える前に、身体が動いた。

 

 走る。

 

 割り込む。

 

 次の瞬間。

 

 俺の身体を、白いオーラが包んだ。

 

 衝撃。

 

 ――浅い。

 

 切り傷だけ。

 

 信じられないほど、軽い。

 

「……どうして」

 

 落葉松が、呆然と俺を見る。

 

「どうして、私をかばった?」

 

「決まってるだろ」

 

 息を整えながら、言う。

 

「仲間を、見捨てるわけがない」

 

 落葉松は、目を見開き――

 そして、苦笑した。

 

「君は……」

 

「とんだ、馬鹿だ」

 

 俺は手を差し出す。

 

「大丈夫か」

 

 落葉松は、その手を取った。

 

「どうやって、近づく?」

 

「一瞬だけなら」

 

 落葉松が言う。

 

「私が、隙を作れる」

 

「それでいこう」

 

 俺は、走り出した。

 

「無謀だ」

 

 国重が言い、

 空間切断を放つ。

 

 ――だが。

 

「はじけろ!」

 

 拳で、弾く。

 

「なに……?」

 

「分からない」

 

 息を吐く。

 

「でも、これで届く!」

 

「ツイン――」

 

 両拳に、想力を集める。

 

「フィストブラスト!」

 

 両手同時。

 

 だが――

 空間が、歪む。

 

 飲み込まれる。

 

 その瞬間。

 

「悪いね、お父様」

 

 落葉松の声。

 

 一瞬だけ、干渉。

 

「これでも、くらいな」

 

 拳が、届いた。

 

 ――確かに。

 

 だが。

 

 国重は、無傷だった。

 

「油断しただけだ」

 

「次は、ない」

 

 想力が、解放される。

 

 圧が、空間を押し潰す。

 

 ――どうする。

 

 どうすればいい。

 

 いや。

 

 違う。

 

「なあ、国重」

 

 俺は、口を開く。

 

「ずっと疑問だった」

 

「この迷宮……本当に、あんたが作ったのか?」

 

「当然だ」

 

 国重は言う。

 

「私の結界内だ」

 

「なら、なんで想獣がいる」

 

「捕獲してきた」

 

「違う」

 

 俺は、拳に力を込める。

 

「どれもこれも、ちぐはぐだ」

 

「違和感だらけなんだよ」

 

 上を見る。

 

「誰も、あんたに勝てない」

 

「でも――」

 

「それは、最初からクリアさせる気がないってことだ」

 

 両拳の甲を、揃える。

 

「そんなものは、試練じゃない」 

 

「クリア条件はあんたじゃなくこの結界からの脱出なら!」

 

「貫け――」

 

「フィストブラスター!」

 

 拳状の光が、上空へ。

 

 天井に、ぶつかる。

 

 ――貫いた。

 

 ぐぅぅぅ、と音を立てて。

 

 パリン。

 

 結界が、砕けた。

 

「……ふふ」

 

 国重が、笑う。

 

「ある意味、正解だ」

 

「試験は、クリアとする」

 

 ――暗転。

 

 目を、覚ます。

 

「……落葉松?」

 

 見回す。

 

 そこは、

 最初に国重がいた、質素な部屋だった。

 

「どうやら、戻れたようだな」

 

 ドアが、開く。

 

「おはよう」

 

 落葉松が、立っていた。

 

「怪我は?」

 

「ははは」

 

「君には、悪いことをしたよ」

 

 頭を下げる。

 

「まず、謝らせてほしい」

 

「君に、嘘をついた」

 

「あの迷宮は――」

 

「すべて、夢だ」

 

 説明を聞き、

 息を呑む。

 

「この部屋の結界は」

 

「指定された“夢”を見せるもの」

 

「じゃあ……全部」

 

「そう」

 

「試験のクリア条件は、“死ぬこと”だった」

 

「……は?」

 

「多くは、幻影の想獣にやられる」

 

「あるいは、違和感に気づいて、自死する」

 

「だが――」

 

 落葉松は、俺を見る。

 

「君だけは」

 

「夢の中の国重に辿り着き」

 

「戦い」

 

「死ではなく、この結界ごと貫いた」

 

「そんな人間は、初めてだ」

 

 ……恥ずかしくなる。

 

「試験の意味、全然分かってなかった」

 

「それでいい」

 

 落葉松は、笑った。

 

「私自身は、本物だ」

 

「夢は、二人一組」

 

「私は、君が気になって参加した」

 

「そもそも――」

 

「この試練を作ったのは、私だからね」

 

「……マジかよ」

 

 驚愕する。

 

「でも、よかった」

 

「さっきのは、本物だったんだな」

 

「そうだよ」

 

「あれは、私自身だ」

 

「だから、君には何度も驚かされた」

 

 俺は拳を出す。

 

「じゃあ、俺たち仲間だな」

 

「そうだね」

 

 拳が、合わさる。

 

「あ、もう一つ嘘がある」

 

「なんだ?」

 

「私のお父様はね」

 

「結界術、歴代でもトップクラスに下手だ」

 

「……は?」

 

 二人で、笑った。

 

 修行は、

 まだ終わらない。

 

 だが。

 

 確かに――

 何かが、繋がった気がしていた。

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