想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第76話 謎めく「想い」③

 荒木の忠告を、

 吉沢は無視した。

 

 気になってしまったのだ。

 どうしても。

 

 夕陽町。

 

 正式には、立ち入り禁止区域。

 

 何時間もかけて辿り着いた町は――

 異様なほど、静かだった。

 

 一歩、踏み入れた瞬間。

 違和感が、肌に張りつく。

 

 人が、いない。

 

 だが。

 

 生活は、残っている。

 

 洗濯物が、干されたまま。

 店のシャッターは、半分だけ閉じている。

 食卓には、皿が並んでいる。

 

 まるで――

 さっきまで、人がいた かのようだ。

 

 動いていた町から、

 人だけが、抜き取られた。

 

 なるほど。

 これは、秘匿される。

 

 吉沢は、息を吐いた。

 

 胸の奥に、

 これまで感じたことのない孤独が広がる。

 

 足は、自然と目的地へ向かった。

 

 事件の起きた施設。

 

 建物は、崩れかけていた。

 壁にはツタが絡み、

 自然が、すべてを覆い隠そうとしている。

 

 地下へ降りる。

 

 そこには、

 破壊された実験室が残っていた。

 

 機材は壊され、

 書類も、データも――

 不自然なほど、何もない。

 

 完璧だ。

 

 上層部が、跡形もなく消した。

 

 そのとき。

 

 背後から、気配。

 

「……何もねえだろ」

 

 低い声。

 

 振り向く。

 

 そこに立っていたのは――

 転神町と闘技場で戦った、大男。

 

 吉沢は、即座に身構えた。

 

「待て」

 

 男は、両手を上げる。

 

「今日は、戦いに来たわけじゃねえ」

 

「花を添えに来ただけだ」

 

「……花?」

 

 男は、視線を落とした。

 

「ここで、育った」

 

 淡々と、語り始める。

 

「生まれてから、兄貴と一緒にな」

 

「実験漬けだったが……」

 

「俺たちに、優しくしてくれた研究員がいた」

 

 名前は、もう覚えていない。

 だが、記憶は残っている。

 

「だがな、連中は調子に乗った」

 

「始点の秘密に、手を出した」

 

 当然、バレる。

 

「焦った連中は、未完成のウイルスを使った」

 

「……逆効果だった」

 

 制御不能。

 ウイルスは、町全体に広がった。

 

「世話してくれてた女も、感染した」

 

「だから――」

 

 男の拳が、わずかに震えた。

 

「最後に、俺たちを逃がした」

 

「ここが殲滅されるのを、理解してな」

 

 兄弟は、生き延びた。

 

 実験は、成功していた。

 

「俺たちは、ウイルスを無効化できた」

 

 沈黙。

 

「どうだ」

 

「俺にも、涙があるって分かったか」

 

 吉沢は、言葉を失っていた。

 

 だが、問いを投げる。

 

「……なぜ、僕に話した」

 

「命日だからだ」

 

 男は、即答した。

 

「本当なら、殺してた」

 

「だが、恩人の前で血は見せれねえ」

 

 吉沢は、小さく笑った。

 

「それはよかった」

 

「君の血を見ずに済みそうだ」

 

「はは……言ってくれるじゃないか」

 

 一歩、距離が詰まる。

 

「お前、俺たちを知りたいんだろ」

 

「……ああ」

 

「黙って殺し合えばいいのに、馬鹿な人間もいたもんだ」

 

「僕は、見えないからこそ知りたい」

 

「真実を」

 

 男は、頷いた。

 

「いいだろ」

 

「教えてやる」

 

「俺たちファズエットはな――」

 

「秩序に殺された」

 

「想界師だけじゃねえ」

 

「組織も、国も、世間もだ」

 

「ノイズ様は、俺たちを拾った」

 

「負け組を、な」

 

 目的はただ一つ。

 

「秩序の完全破壊」

 

「無秩序で、世界を救う」

 

 吉沢は、即座に否定した。

 

「無秩序は、今より酷くなる」

 

「誰も、救われない」

 

 男は、笑った。

 

「それがなんだ」

 

「お前たちは、俺たちを救ったか?」

 

 言葉が、突き刺さる。

 

「この世界は、生まれがすべてだ」

 

「だが、無秩序は違う」

 

「何でもありだ」

 

「夢も、理想も、邪魔されねえ」

 

「すべて、自分次第だ」

 

 そして、問いかける。

 

「どうだ」

 

「今なら、お前も来れる」

 

「理想も夢も、全部叶うぞ」

 

 吉沢は、静かに首を振った。

 

「確かに、魅力的だ」

 

「だが、その世界は犠牲を生む」

 

「救いを求める声は、もっと増える」

 

「無関心な世界は、つまらない」

 

「僕の理想は――」

 

「人が人に興味を持ち、支え合う世界だ」

 

「自分のためだけに生きる世界じゃない」

 

 男は、目を細めた。

 

「そうか」

 

「残念だ」

 

「俺の名は、クラッシュ」

 

「俺の理想は――」

 

「俺たち兄弟が、生きやすい世界だ」

 

 一歩、踏み出す。

 

「悪いが」

 

「想界師を、逃がす気はねえ」

 

 吉沢も、前に出る。

 

「奇遇だね」

 

「僕も、君たちを逃がす気はない」

 

「安心しろ」

 

 クラッシュが、低く告げる。

 

「すぐ、殺す」

 

「――それは、こちらの台詞だ」

 

 想いと想いが、

 静かに、ぶつかった。

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