想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
最後の一日は、驚くほど早く過ぎた。
そして――
十月三十一日。
決戦の日。
御生万の空気は、重い。
朝だというのに、光が薄い気がした。
城の広間に、想界師たちが集う。
鎧の音。
刀の柄を握る音。
呼吸の揃わない緊張。
前に立つのは、楽座国重。
その背中は、動かない。
「ここを取られたら――」
低い声が、広間に響く。
「私たち、いや、人類の危機に繋がる」
ざわめきが止まる。
「貴様らには、帰りを待つ者がいるだろう」
一人一人を、射抜くような視線。
「守れなければ、その者たちにも被害が及ぶ」
拳を握る者。
唇を噛む者。
「大切な想いを胸に」
一拍。
「我らは邪悪なるものを打ち破り」
「この城に、朝日を照らすぞ」
一瞬の静寂。
次の瞬間。
「うおおおおおお!」
地鳴りのような雄叫び。
震えが、足元から伝わる。
城が、応えるようだった。
「侵入を感知次第、結界を展開する」
国重の声は、変わらない。
「展開後は、戦闘終了まで出られない」
「四つのチームに分かれる」
荒木家。
鳴海家。
楽座家。
天舞家。
「各代表が最後に立ちはだかる」
「貴様らは、彼らのアシストしろ」
「――配置につけ」
広間の床に、転移門が開く。
青白い光。
想界師たちが、次々と門を潜っていく。
それぞれの戦場へ。
「大地」
振り向くと、号。
「俺は別チームだ」
静かな目。
「だが、気持ちは同じだ」
拳を差し出す。
「絶対に守り切る」
俺も拳を合わせる。
「もちろんだ」
「全員、無事で終わらせる」
小さく笑って、号は烈と優真と共に門を潜った。
背中が遠ざかる。
「よう、大地!」
翔が手を振る。
瑠偉。
優華。
「全員、俺たちが片付けてやるぜ」
「ええ。任せてください、大地君」
優華が微笑む。
あの張り付いた笑顔じゃない。
自然な顔。
(……いい顔、するようになったな)
「死ぬんじゃないわよ」
瑠偉が睨む。
「もちろんだ」
満足そうに、門へ向かう。
「僕を置いていかないでよ!」
花崎が慌てて追う。
変わらない。
少しだけ、肩の力が抜けた。
「やあ、大地君」
振り向く。
落葉松。
柔らかな笑み。
「私も今回は戦うよ」
「そうなのか」
心強い、と自然に思ってしまう。
「君も死なないでおくれよ」
一瞬、目が細くなる。
「君には、見せたいものがあるからね」
何のことか分からない。
だが、背筋に小さな違和感が走った。
「……楽しみにしておく」
「じゃあね」
落葉松も門を潜る。
「おい、大地。置いてくぜ」
ビリーの声。
「今行く」
門の前に立つ。
深呼吸。
「緊張してるのか?」
「してる」
素直に言う。
「でも、負けるつもりはない」
ビリーが笑う。
「そりゃいい」
「俺たちがいるんだ。一人少ねえくらい問題ねえ」
ジョンも頷く。
「大丈夫だ」
その時。
警報。
ビービー、と甲高い音が鳴り響く。
『侵入者確認』
『結界を展開します』
城の空気が、変わる。
見えない膜が、御生万を包む。
閉じた。
もう、戻れない。
― ファズエット側 ―
豪奢な服に身を包むディレイ。
その腕に絡みつくテンポ。
「それでどうするの、ノイズ様?」
甘い声。
「この城の攻略」
ノイズは、城を見上げる。
静かな笑み。
「簡単さ」
「正面突破が一番盛り上がるでしょ?」
背後に並ぶ、歪音十三奏。
城の門を越えた瞬間。
結界が閉じる。
「ははあ」
コードが周囲を見渡す。
「小癪な真似を」
「我々は逃げないというのに」
次の瞬間。
景色が歪む。
分断。
部屋ごとに、切り離される。
「なるほど」
コードが鎖を構える。
「分断というわけですか」
目の前に、低等級の想界師たち。
震えている。
「まずは前菜ですか」
鎖が唸る。
ぐぁあああ!
悲鳴。
血。
倒れる。
「こんなものか」
スケールが肩を竦める。
「つまらん」
別室。
「やっぱり運命ね、私たち」
テンポが笑う。
ディレイの動きが、わずかにずれる。
遅延。
加速。
翻弄。
想界師が崩れる。
「楽しいわ」
抱きつく。
血の匂いの中で。
和室。
「もっと強えやつ出せよ!」
クラッシュが拳を振るう。
衝撃が、転位する。
ミュートの線が、空間を走る。
「止まらねえぞ、俺たち兄弟はな」
想界師が吹き飛ぶ。
広間。
「おもちゃ、いっぱい」
クレッシェが無邪気に笑う。
周囲の想力が膨張する。
壁が軋む。
フォルテが見守る。
「嬉しそうね」
瞳は冷たい。
廊下を歩く、一人の想界師。
にこりと笑う。
その目は、演じている。
――リバーブ。
その影が、遅れて揺れる。
医療室。
白衣の女性。
暗がり。
その背後に、気配。
チューナー。
さらに、音が消える。
静寂。
ノクターン。
空間が、息を止める。
そして。
想界石の前。
結界に封じられた者。
ノイズ。
その前に立つ、国重。
「悪いが」
国重の声は低い。
「君だけは危険すぎる」
ノイズは微笑む。
「ずいぶんと警戒するんだね」
「当然だ」
国重の目が、鋭くなる。
「夕陽町の生き残りだからな」
一瞬。
ノイズの瞳が揺れる。
「……なんだ、知っていたんだ」
笑う。
だがその笑みは、わずかに歪んでいた。
結界の内と外。
静かな対峙。
城の奥で。
戦争が、始まっていた。