想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―   作:berunarudo

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第93話 犠牲たる「想い」

クレッシェの能力。

 

破急。

 

感情が高まるほど、

周囲の想力・物質・現象が不可逆的に増幅する。

 

だが。

 

彼女はこの力を理解していない。

 

制御もできない。

 

ただ。

 

感情がそのまま力になるだけ。

 

つまり――

 

暴走する怪物。

 

「なんで!」

 

クレッシェが叫ぶ。

 

「なんで邪魔するのよ!!」

 

怒りが爆発する。

 

物体が耐えきれず破裂する。

 

パァン!!

 

火花が散る。

 

空間が軋む。

 

邪気が愛華を襲う。

 

だが。

 

愛華には――

 

何一つ効かない。

 

むしろ。

 

楽しんでいる。

 

愛華が手を軽く下ろす。

 

その瞬間。

 

強風が吹く。

 

ゴォォォ!!

 

邪気が吹き飛ぶ。

 

クレッシェも吹き飛ばされる。

 

「きゃあ!」

 

愛華が言う。

 

「あなたの怒りはその程度かしら」

 

微笑む。

 

「片手で払われる程度じゃ」

 

「私を殺すことなんてできないわよ」

 

クレッシェが地団太を踏む。

 

「邪魔するな!」

 

「私に近づくな!」

 

愛華は無視して歩く。

 

一歩。

 

また一歩。

 

その周囲。

 

空間が歪む。

 

ねじ切れる。

 

クレッシェの増幅が暴走している。

 

だが。

 

愛華には何も起きない。

 

愛華がため息をつく。

 

「はあ……」

 

「わからないの?」

 

静かな声。

 

「あなたの奥にあるのは」

 

「怒りじゃない」

 

「恐怖よ」

 

クレッシェが震える。

 

「親に捨てられたのね」

 

クレッシェが叫ぶ。

 

「うるさい!」

 

涙を浮かべる。

 

「お母さんは帰ってくる!」

 

「だって約束してくれた!」

 

愛華が笑う。

 

「ふふ」

 

「嘘に決まってるでしょ」

 

クレッシェの瞳が揺れる。

 

愛華が続ける。

 

「だって」

 

「あなたのお母さん」

 

「あなたが殺したんだもの」

 

「違う!!」

 

クレッシェが叫ぶ。

 

「私じゃない!」

 

「嘘つき!!」

 

愛華が淡々と言う。

 

「あなたの力に恐怖したお母様は」

 

「あなたと無理心中しようとした」

 

「でもあなたは嫌がった」

 

「そして力を使った」

 

「結果」

 

「お母様は死んだ」

 

クレッシェの瞳が揺れる。

 

愛華が続ける。

 

「その事実に耐えられなかったあなたは」

 

「嘘の記憶を作った」

 

「自分を守るためにね」

 

「ダメよ」

 

「嘘なんてついちゃ」

 

クレッシェの記憶が戻る。

 

自分の手。

 

母の血。

 

真実。

 

クレッシェが壊れる。

 

邪気が爆発する。

 

この世とは思えない圧。

 

だが。

 

愛華は笑う。

 

「そうよ」

 

「それよ」

 

「あなたの本質」

 

嬉しそうに言う。

 

「やっと本気で遊べるわ」

 

その瞬間。

 

愛華から湧き出るもの。

 

深淵。

 

クレッシェの邪気すら飲み込む。

 

底なしの悪意。

 

世界が沈む。

 

その瞬間。

 

声が響く。

 

「おやめください」

 

そこに立っていた。

 

フォルテ。

 

「愛華様」

 

愛華が笑う。

 

「あら」

 

「邪魔するの?」

 

「依頼主の遊びの時間を」

 

フォルテが言う。

 

「彼女は制御できていないだけです」

 

「誰からも愛されず」

 

「化け物として扱われてきた」

 

「だから」

 

頭を下げる。

 

「慈悲をください」

 

「愛華様」

 

愛華が目を細める。

 

「なによ」

 

「プロのくせに情でも湧いた?」

 

「それとも」

 

「自分と重ねた?」

 

フォルテが答える。

 

「はい」

 

静かに頷く。

 

「私も」

 

「ずっと化け物として扱われました」

 

涙を浮かべる。

 

「でも」

 

「あなたが私を助けてくれた」

 

「だから」

 

「私もこの子を助けたい」

 

愛華がため息をつく。

 

「まったく」

 

「昔から困った子ね」

 

だが。

 

続ける。

 

「でもこの子」

 

「大勢殺してるのよ」

 

「野放しはダメ」

 

指を立てる。

 

「助けたいなら」

 

「対価を払いなさい」

 

フォルテが言う。

 

「私の命で」

 

愛華が笑う。

 

「ダメ」

 

「それじゃ対価にならない」

 

フォルテが戸惑う。

 

「なら何を……」

 

愛華が言う。

 

「あるじゃない」

 

微笑む。

 

「あなたの人生」

 

フォルテが固まる。

 

愛華が続ける。

 

「あなたの対価は」

 

「この子のために生きること」

 

「一生」

 

「子供は大変よ」

 

「わがままだし」

 

「言うこと聞かない」

 

笑う。

 

「でも」

 

「その子のために」

 

「人生を使いなさい」

 

「それが対価」

 

フォルテが聞く。

 

「そんなことでいいんですか」

 

愛華が言う。

 

「いいのよ」

 

「だって」

 

「あなたがやっと手に入れた自由」

 

「それを捨てるんだから」

 

フォルテが頷く。

 

「あなたから頂いた自由を」

 

「この子にあげます」

 

愛華が笑う。

 

「よろしい」

 

深淵が動く。

 

クレッシェの邪気だけを飲み込む。

 

邪気が消える。

 

愛華が言う。

 

「これで終わり」

 

「邪気は飲み込んだ」

 

少し笑う。

 

「おまけで」

 

「真実も消しておいた」

 

フォルテが驚く。

 

「彼女は」

 

「母親が出て行った」

 

「それだけ覚えてる」

 

「後はあなたが」

 

「愛を教えなさい」

 

愛華が言う。

 

「怜」

 

フォルテの正体。

 

天舞怜。

 

怜が涙を流す。

 

「ありがとうございます」

 

眠るクレッシェを抱く。

 

愛華が呆れる。

 

「まったく」

 

「ファズエットに潜入して」

 

「子供連れてくるなんて」

 

笑う。

 

「昔から虫殺すのも泣いてたあなたが」

 

「スパイなんて向いてないと思ってたけど」

 

肩をすくめる。

 

「失態もいいところね」

 

少し間を置く。

 

「スパイとしては落第」

 

だが。

 

微笑む。

 

「でも」

 

「人としては」

 

「合格」

 

愛華が背を向ける。

 

「あなたたち」

 

「医療室行きなさい」

 

「二人の時間邪魔しちゃダメ」

 

歩き出す。

 

「撤収よ」

 

怜はクレッシェの寝顔を見る。

 

無垢な顔。

 

そして。

 

微笑む。

 

そこには。

 

確かに。

 

愛があった。

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