想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う― 作:berunarudo
愛華が俺に手をかざす。
指先から、柔らかな光が生まれた。
淡い光。
春の陽だまりのように、温かい。
それが、ゆっくりと俺の体を包む。
傷が塞がっていく。
裂けた皮膚が閉じ、
砕けかけていた骨の痛みが、嘘のように消えていく。
体の奥まで染み込むような治癒。
呼吸が、楽になる。
「……なんで俺を」
俺が聞く。
まだ状況が飲み込めない。
愛華が肩をすくめる。
「悔しいけど」
微笑む。
「あなたしかあいつに届かないからね」
俺を見る。
まっすぐに。
「それに」
少し笑う。
「殴り飛ばす気満々じゃない」
「そんな顔されたら」
腕を組む。
「応援するのが大人の役目よ」
俺は頭を下げる。
「ありがとうございます!」
愛華が指を立てる。
「その代わり」
「約束守ってね」
「約束?」
愛華の目が、急に真剣になる。
「私の大切な人」
小さく言う。
「救ってくれる?」
俺は迷わない。
「もちろんです!」
愛華が笑う。
少しだけ、安堵したように。
「嬉しいわ」
振り返る。
落葉松を見る。
「なら」
深淵が揺れる。
黒い闇が、床の下から噴き上がる。
「私が道を作ってあげる」
指を向ける。
「だから」
「突っ走りなさい」
俺は走る。
床を蹴る。
「了解です!」
落葉松が呆れる。
「……まったく」
刀を構える。
「君は本当に馬鹿だ」
「悪魔と契約するなんて」
斬撃が飛ぶ。
空間を裂く刃。
だが。
衝突。
闇が弾く。
愛華が、軽く手を振る。
「あら」
愛華が笑う。
「悪魔は契約を守るものよ」
落葉松を見る。
「だから」
「あんた大地に殴られるのよ」
落葉松が空間を歪める。
周囲の空気がねじれる。
空間破壊。
だが。
すべて深淵が飲み込む。
闇が膨らみ、
その力を丸ごと呑み込んでしまう。
落葉松が苛立つ。
「本当に理解できない」
愛華を見る。
「あなたの力は言うなれば呪いだ」
静かに言う。
「想いを現実に反映する力」
笑う。
「異名通り」
「化け物ですね」
愛華が首を振る。
「違うわよ」
微笑む。
「この力は愛」
静かに言う。
「あなたには理解できない」
目を細める。
「愛という力」
「愛は最古の呪い」
「でも」
「慈愛でもある」
「愛は両面を持つ」
落葉松が吐き捨てる。
「愛なんて」
「実にくだらない」
「面白みのないものだ」
愛華が笑う。
「あら」
「どれだけ愛を無下にしようと」
静かに言う。
「人は愛からは逃れられないのよ」
その間も。
俺は走る。
距離が縮む。
石の床を蹴る音が響く。
もう少し。
もう少し。
ここだ。
落葉松が言う。
「無駄ですよ」
「あなたでは私を殺せない」
俺は銃を抜く。
想力を込める。
「いくぞ」
「ビリー!」
銃から声。
「最高のタイミングだぜ!」
式神。
ビリーが現れる。
光の中から姿を現す。
落葉松が驚く。
「……式神だと!」
俺とビリーの声が重なる。
「「反神弾《ゴッドキラー》!!」」
銃声。
轟音が広間に響く。
弾丸が飛ぶ。
落葉松が刀で弾く。
だが。
衝突。
弾丸が弾かれ、
軌道が変わる。
肩を抉る。
「ぐぁ!」
血が飛ぶ。
俺は止まらない。
踏み込む。
拳に全力。
「これでもくらって!」
叫ぶ。
「頭を冷やせ!」
拳が落ちる。
「フィスト――」
全力。
「クラッシュ!!」
拳が顔面に突き刺さる。
白い閃光。
拳から光が溢れる。
至近距離。
爆発。
落葉松が吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられる。
石壁が砕ける。
俺は息を切らす。
「はぁ……」
「はぁ……」
「これで」
「どうだ……」
落葉松が立ち上がる。
血を吐く。
目が狂う。
「……いいでしょう」
怒りが溢れる。
「そこまで死にたいというならこの手で葬ってあげましょう」
想力が爆発する。
空間が震える。
俺も拳を握る。
「俺も」
想力を解放する。
「お前を絶対止める!」
二つの想いが衝突する。
その瞬間。
想界石が光る。
強烈な光。
空間が歪む。
吸引。
「……っ!」
俺の体が引き寄せられる。
「なんだこれ!」
手を伸ばす。
だが。
吸い込まれる。
視界が白になる。
世界が消える。
落葉松が呟く。
「……なんだ今のは」
その時。
笑い声。
愛華。
「あはははは!」
笑い続ける。
「ついにやった!」
目を輝かせる。
「これで」
「私の目的が果たせる!」
「……あの人を救える」
落葉松が睨む。
「あなたが大地を逃がした?」
愛華が肩をすくめる。
「まあ」
「そうとも言えるわね」
微笑む。
「正確には」
「送ったかしら」
落葉松が怒る。
「余計な真似を!」
愛華が言う。
「安心して」
「あなたの計画には興味ない」
深淵が広がる。
闇が部屋を覆う。
「私の役目は終わり」
「だから」
笑う。
「最後に暴れてあげる」
部屋が闇に飲まれる。
落葉松が刀を構える。
「いいでしょう」
「あなたさえ消えれば」
能力発動。
「開眼」
世界が歪む。
「鏖魔絢爛《おうまけんらん》」
愛華が目を閉じる。
「開眼」
静かに言う。
「愛奏哀歌《あいそうあいか》」
二つの世界が衝突する。
激突。
崩壊。
そして。
静寂。
愛華が倒れる。
床に血。
落葉松が言う。
「……危なかった」
息を吐く。
「城に付与していなければ」
「死んでいました」
愛華を見る。
「あなたは」
「私でも殺せない存在」
指を鳴らす。
多重結界。
光の壁が重なる。
愛華を閉じ込める。
「この結界は」
「私でも解けない」
「効果は」
「千年」
「また会いましょう」
ノイズが駆け寄る。
「落葉松様」
「無事ですか?」
落葉松が頷く。
「ああ」
想界石を見る。
「これくらい」
微笑む。
「さて」
手を伸ばす。
「賭けをしよう」
呟く。
「ただの付与では弾かれた」
目を細める。
「なら」
「私の肉体を対価にする」
想界石に触れる。
静かに言う。
「付与」
想界石が――
輝いた。